カテゴリー

本サイトについて


TAGS


ABOUT

産学官民の「共創」実現に必要な条件とは

2026.04.28

共創による価値創造 Vol.3

オカムラが大切にする「共創」という考え方。それは自分たちの社会にとってよいこと、つまり「共通善」を共通目標として掲げ、みんなでその実現に向けて価値を創造していくことです。これは一部の特別な人だけのものではなく、誰もが等身大で実践できる活動です。オカムラは、この共創を日々の仕事の進め方、すなわち「はたらき方」として捉え、長年にわたって実践と研究を行ってきました。

オカムラの共創についてはこちらを参照
オカムラの庵原 悠が、“共創”におけるさまざまなフロントランナーと対談する本シリーズ。今回は、庵原と学生時代から縁があるという、慶應義塾大学 SFC環境情報学部 教授の田中 浩也さんをお迎えします。
田中さんは、神奈川県鎌倉市で「循環者になろう」というプロジェクトに取り組んでいます。その拠点が都市型施設「リサイクリエーション慶應鎌倉ラボ」。ここは産学官民が連携する「共創」実践の場でもあります。慶應鎌倉ラボを訪ね、これまでの歩みを振り返りながら、「共創」が生み出す価値と、これからの企業・社会に求められる共創のかたちについて語り合いました。
2026年3月取材
 

足かけ15年の歩みから振り返る、「共創」の原点

庵原 悠(以下、庵原):オカムラとしての田中先生との接点と言えば、「Up-Ring(アップリング)」シリーズですが、実は私の出会いはずっと前に遡ります。私が慶應SFCの学生だった頃、先生が着任されて間もない時期に、「デザイン言語」という授業のスチューデント・アシスタント(※1)になったんです。その後、2008年にオカムラに入社して数年が経った頃、先生がMIT(マサチューセッツ工科大学)の留学から戻って「ファブラボ(※2)」を日本で始めると知り、先生のところに足を運びました。当時はオフィス研究所(現・ワークデザイン研究所)に所属していたのですが、研究テーマを検討する中で、メーカーとしてものづくりや創造性の最前線を知っておくべきだという思いがあったんです。

※1:大学教育に関する補助業務を行う学生(学部生)
※2:3Dプリンターやレーザーカッターなど、デジタル工作機器を備えた市民参加型の工房(Fab Lab)
ワークデザインコンサルティング部 庵原 悠
ワークデザインコンサルティング部 庵原 悠
田中 浩也(以下、田中):学生時代にスチューデント・アシスタントをやってもらったんですね! 忘れていました(笑)オカムラに入社されてファブラボの共同研究パートナーとして一緒にやってきた、というのが本格的な庵原さんとの共創の始まりですね。
慶應義塾大学 SFC環境情報学部 教授 田中 浩也さん
慶應義塾大学 SFC環境情報学部 教授 田中 浩也さん
庵原:はい、それがCOIプログラム(※3)につながり、Up-Ringが生まれました。振り返ると、長い道のりをご一緒してきたのだと感じます。あらためて、田中先生がファブラボを日本に持ち込もうと思ったきっかけをお聞かせください。

※3:センター・オブ・イノベーションプログラム。文部科学省による10年後の目指すべき社会像を見据えたビジョン主導型のチャレンジング・ハイリスクな研究開発を支援する制度
「個人のものづくりを地域活用する流れが『ファブラボ』という名前で世界に広がった」(田中さん)
「個人のものづくりを地域活用する流れが『ファブラボ』という名前で世界に広がった」(田中さん)
田中:MITに留学した2010年には、世界でファブラボが広がっていました。3Dプリンターをはじめとする個人向けのものづくり技術の研究が進んでいて、「大学で研究しているだけではしょうがない。将来の使い手となる市民にも技術を開いて、地域でどう活用されるかを同時に研究する場が必要だ」という機運が出てきていた。そこで日本で最初のファブラボをつくりました。

庵原:私がファブラボに惹かれたのも、まさにそこでした。ファブラボの思想の中には、共創のエッセンスがずっと内在していたんだと思っています。一方、ファブラボが広がる中で、うまくいかない拠点も多かったですよね。

田中:そうなんです。私たちのファブラボを見学して、レーザーカッターや3Dプリンターの写真だけ撮って帰り、同じような機材を揃えて開いた場所は、大抵うまくいかなかった。つまり、ファブラボの本質は工作機械じゃないんです。コミュニティに開かれた市民工房をいかに切り盛りするか、地域の課題解決とどうつなげるか。そこが肝ですが、見えにくいし、伝わりにくいですね。ですから、大学の研究と市民社会、そして事業化という三つをどうつなぐのか、10年近く模索してきました。
庵原の著書『ゼロからの共創』でも産学官民連携の共創事例が紹介されている
庵原の著書『ゼロからの共創』でも産学官民連携の共創事例が紹介されている

 

課題の"すぐそば"に立つ、鎌倉での産学官民の共創

庵原: 先生がCOI-NEXT(※4)で始めた「循環者になろう」プロジェクトは、ファブラボ時代の課題から生まれたと聞いています。どんな課題意識があったのでしょうか。

※4:センター・オブ・イノベーションプログラムに続く、文部科学省による「共創の場形成支援プログラム」

田中:「循環者になろう」プロジェクトは、資源を社会でまわす「社会的循環」、自然に返す「自然循環」、次世代に残す「世代間循環」という三つの軸で定義し、使い捨ての直線型経済から、資源と価値を回し続けるサーキュラーエコノミー(※5)への転換を実現しようという取り組みです。
COIの時代を通じて感じていたのは、「つくって捨てる」問題です。3Dプリントの試作品や課題の成果物が、評価の翌日にはもうゴミ箱に入っている。大学でも共創スペースでも、そういう光景をずっと見てきました。それを何とかしようというのが、次のプロジェクトの出発点でした。SDGsの時代に合わせてファブラボをより高めるイメージです。もう一つ大きかったのは、今回の文科省のプログラム名に初めて「共創」という言葉が入ったことです。

※5:循環経済。資源の利用・消費を最小化し、資源と製品の価値を最大限に維持・循環させて新たな付加価値を生み出す社会経済システム
「COI時代は、言葉として『共創』は使われていなかった」(庵原)
「COI時代は、言葉として『共創』は使われていなかった」(庵原)
庵原:「共創」が国の政策で明文化されたのは、私もすごく印象的でした。

田中:今回のプロジェクトで神奈川県鎌倉市を拠点に選んだのも、理由があります。鎌倉は日本でもっともNPOや市民活動が盛んな場所の一つで、ここにラボを構えた途端、市民の方が「待ってました!」とばかりに集まってきた。さらに、市役所のすぐそばに立地していることも重要でした。
鎌倉市は、少子化の時代を見据えて、焼却炉を停止し広域連携に切り替えるという、未来を予見した判断をした自治体です。他方、これからは、市民も事業者も、いろんな方法を駆使して、ゴミをもっともっと減らしていくことが必要にもなっています。こうした課題に近いところにいるからこそ、産学官民がリアルに力を合わせられるんです。

庵原:オカムラは現在「ビジョンシェアリングパートナー(※6)」という立場で「循環者になろう」プロジェクトに参画しています。COIの成果としてUp-Ringが生まれたこともあって、COI-NEXTの立ち上げにも関わらせてもらいました。このプロジェクトで起きていることは、オカムラが共創の場を考えるうえでも多くの示唆があると感じています。

※6:本COI-NEXTが目指す「循環型まちづくり」のビジョンを共有し、協力をおこなう企業・組織団体を対象とした会員
 
                                   

「循環者になろう」 プロジェクト

「循環者になろう」は、鎌倉市を実証フィールドとして、循環型社会の担い手=「循環者」を育てることを目的とした産学官民連携プロジェクト。COI-NEXTの一環として2023年にスタートし、2032年までの約10年計画で進められています。
プロジェクトが目指すのは「循環者になるまち」。「循環」は、資源を社会でまわす「社会的循環」、自然に返す「自然循環」、次世代に残す「世代間循環」という三つの軸で定義されています。使い捨ての直線型経済から、資源と価値を回し続けるサーキュラーエコノミーへの転換を、制度ではなく人材と文化から実現しようとしている点が特徴です。

 

共創は異なる目的を持つ人が力を合わせること

庵原:先生は共創がうまくいくための条件は何だとお考えですか? 

田中:私が大事にしているのは、無理やり共通の言語や目標に従えと言わないことです。全員に「共通善のためにやろう」と言っても、自分の価値観と合わなければ、なんとなく“やったふり”になってしまいますからね。それぞれが別々の目的を持っていることをまず肯定する。そのうえで、一緒にできる部分を見つけていくことが重要です。でも、これは日本人があまり得意ではなかったことです。例えば、コンソーシアム(共同体、企業連合)という言葉は、かつて船団で遠くの島にスパイスを取りに行くとき、島に上陸したらライバルだけど、たどり着くまでは連帯していたことに由来するらしいです。最終目的が違っても、途中までは一緒に行く。そういう大人の連帯のつくり方が、今の社会には切実に必要ではないでしょうか。
「個と共通の目的を対立させずに、両方を同時に肯定する」(田中さん)
「個と共通の目的を対立させずに、両方を同時に肯定する」(田中さん)
庵原:コンソーシアムの語源の話、すごく示唆に富んでいますね。もう一つ、共創の場に必要なものとして、人の多様性もあると思います。旗を振るリーダーだけでは何も生まれないので。

田中:すごく重要です。イノベーション人材の育成プログラムは、熱いリーダーをつくることに集中しがちですよね。でも実際は、場を切り盛りするファシリテーターやジェネレーターと呼ばれる人たちがいないと、場は機能しません。

庵原:ファブラボの国際会議に参加したとき、ビジョンを語るリーダーと、場を動かすファシリテーターが役割分担しながらシナジーを生んでいる光景を目にして、「これが共創の現場だ」と思ったんです。
「ファブラボの国際会議で感じた人の役割は、共創を考える上での原風景」(庵原)
「ファブラボの国際会議で感じた人の役割は、共創を考える上での原風景」(庵原)
田中:企業が共創に取り組む際も、同じことが言えると思います。よく見るのは、共創スペースを立派につくって、外部の人を呼んで、あとはゴール前で待っているというパターン。でも、それでは共創の「種」や「きっかけ」には出会えない。サッカーで言えば、最近のフォワードはディフェンスラインまで戻ってきますよね。共創も同じで、もっと手前から関わることで、社会実装の選択肢が増えていくのだと考えています。

これからの共創に必要なのは「仲間を増やす」こと

庵原:最近、企業が共創スペースをつくる動きが増えています。新しいイノベーションセンターを立ち上げて外部とのネットワークを築かなければ取り残される、という危機感からだと思いますが、一方で中期経営計画の目標達成とどう結びつけるかという現実もあって、長期ビジョンと短期の目標の間で揺れている企業も多い印象があります。

田中:そういう状況があるんですね。私が気になるのは、共創スペースをつくること自体が目的になってしまっているケースです。場をつくって終わりではなくて、その後が大事。COI-NEXTも10年という期限がある中で結果を出さなければならない。その緊張感は、企業の共創スペースにも必要ではないでしょうか。
また、企業のSDGsは「やっています」というアピールになりがちですが、量の問題まで解決しようとしたら、業界全体で足並みを揃えないと無理です。ペットボトルのリサイクルが日本でうまくいっているのは、全メーカーが透明にすることで合意したからです。自動車業界も容器包装業界もライバル同士が手を組んでいる。ところが、そのような動きが家具業界にはまだ少ないですよね。もっと業界として仲良くしてほしいというのが、正直なところです(笑)

庵原:これは耳が痛い話ですが(笑)一理あるかもしれませんね。当事者として問題提起していきたいと思います。

「いま、企業には共創スペースを改善し続ける運営力が問われていると思う」(田中さん)
「いま、企業には共創スペースを改善し続ける運営力が問われていると思う」(田中さん)
田中:それから、日本のような成熟した社会では、大きな課題はすでにある程度解決されていることがほとんどでしょう。今はニッチな課題がたくさんバラバラにある状態です。それを一つひとつ事業化しても、大企業を支える規模にはなりません。それでも、市民経済圏やソーシャルキャピタル(※7)を豊かにするという意味で、企業が自ら取り組むだけの大きな価値があると思うんです。企業の共創も、そういう視点で捉え直す時期に来ているのかもしれません。

※7:社会関係資本。アメリカの政治学者ロバート・パットナムが提唱した組織の中での人の結びつきを「資本」とする概念

庵原:大きなビジネスを生み出すためだけに共創するのではなく、ソーシャルキャピタルを高めることが、結果として企業の価値にもなっていくという発想ですね。オカムラとしても、共創スペースという概念を日本に広めてきた立場として、空間をつくって終わりではなく、継続的に見直しや先手の軌道修正など、場が長く続くための運営のモデルをきちんと確立していくことが、これからの責任だと感じています。

田中:ぜひそこを頑張ってほしいですね。共創の場はフェーズによって必要なオペレーションが変わっていく。立ち上げ期と成熟期では全然違う。その変化に応じて場をどう設計し直すか、そのノウハウを日本の中で体系化していただけると、業界全体にとっても大きな財産になると思います。
今、共創の場形成プログラムは日本中に40ほどあって、北海道から沖縄まで、解こうとしている社会課題がみんな地域ごとに違うんです。共通善を掲げて全国でやってみたら、意外と日本各地に多様性があった。その一つひとつに、共創というアプローチだからこそたどり着ける答えがあると思っています。それは単なる社会貢献ではなくて、地域の課題も解決するし、研究も盛り上がるし、人のやりがいも高まる——社会も、生活者も、企業も、研究者も、全体としてWin-Win-Winになるわけです。そういう場のひとつとして、「循環者になろう」プロジェクトを進めていきたいですね。

庵原:その多様性は、共創には不可欠な要素だと思っています。目的もバックグラウンドも違う人たちが、それぞれのやり方で関わりながら、少しずつ前に進んでいく。そのプロセス自体が、共創の本質なのかもしれません。田中先生との15年は、まさにそういう時間だったと、あらためて感じています。本日は、ありがとうございました!
 
対談後記
若かりし頃にはスーパークリエイターに認定されるなど傑出した研究者である田中先生。さまざまなプロジェクトを経て体感された共創の価値や熱いリーダーだけではない多様な人材の必要性、そして共創を前提とした研究スタイルの重要性を語っていただき、15年にわたる先生との共創の意義が何だったかを言語化することのできた対談でした。研究とビジネス、大学などのアカデミアと企業の共創にとって重要な、コンソーシアムの語源にまなぶ「大人の連帯」について本気で考え、取り組むべき時が来ているのではないでしょうか。(庵原)

Profile

田中 浩也

慶応義塾大学 SFC環境情報学部 教授
1975年北海道札幌市生まれ。1998年京都大学総合人間学部卒業、2000年京都大学人間環境学研究科修了、2003年東京大学工学系研究科社会基盤工学専攻、博士(工学)。2005年慶応義塾大学環境情報学部に着任。2010年マサチューセッツ工科大学建築学科客員研究員。2011年ファブラボ鎌倉設立。2012年慶応大学SFC研究所ソーシャルファブリケーションラボ設立・代表。

庵原 悠

株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部
ワークデザインコンサルティング部
慶應義塾大学環境情報学部卒業。2009年、岡村製作所(現:オカムラ)入社。企業内コワーキングスペース・Future Work Studio "Sew"の設立、WORK MILL立ち上げなどにも関わる。「共創」をテーマに、企業や地域の新しい働き方・場づくりを研究・実践している。


OKAMURA 新卒採用情報

TAGS