共創による価値創造 Vol.1
オカムラが大切にする「共創」という考え方。それは自分たちの社会にとってよいこと、つまり「共通善」を共通目標として掲げ、みんなでその実現に向けて価値を創造していくことです。これは一部の特別な人だけのものではなく、誰もが等身大で実践できる活動です。オカムラは、この共創を日々の仕事の進め方、すなわち「はたらき方」として捉え、長年にわたって実践と研究を行ってきました。オカムラ入社以来15年以上「共創」というテーマに向き合ってきたワークデザインコンサルティング部の庵原 悠。企業内コワーキングスペースの立ち上げや大学での研究、外部パートナーとの協働など、さまざまなフィールドで共創の場を手がけてきました。2025年7月、その知見をまとめた著書『ゼロからの共創 「わからない」「うまくいかない」の壁を突破する方法』(大学教育出版)を上梓。長年の実践から「共創は特別なイベントではなく、日々のはたらき方そのものなんです」と語る庵原に、なぜ共創が「はたらき方」なのか、その意義やビジネスにおけるイノベーションとのつながりについて、話を聞きました。
2025年9月取材
長年の実践で見えてきた共創の多面的な価値
――まず、庵原さんが、どのように「共創」に取り組んできたのか教えてください。庵原 悠(以下、庵原):オカムラ入社後すぐにオフィス研究所(現・ワークデザイン研究所)に配属され、そこで研究することになったのが「共創」というテーマでした。当時は共創という言葉はほとんど使われていなくて、コワーキングやオープンイノベーションといったキーワードで話していましたね。
そのうち「机上の論を唱えるだけでなく、実践していくべきだ」という話になり、2012年に現在の共創空間の原型ともいえる企業内コワーキングスペース・Future Work Studio "Sew"を立ち上げました。翌年には、母校の慶應義塾大学SFC研究所所員としてファブラボの研究も始めました。
ワークデザインコンサルティング部 庵原 悠
庵原:そうなんです。2013年から大学の研究員としての活動も続けていて、研究で得た知見は仕事にも役立てています。ファブラボは、3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタルファブリケーション技術を活用した自由なものづくりを市民に提供し、実現する場です。まさに共創が生まれる最先端だと思い、興味を持ちました。その後も、WORK MILL(※1)に立ち上げから参画するなど、振り返ると共創の場づくりにずっと関わってきました。
現在は、共創空間の構築やコンサルティング業務を担当していて、お客様と一緒にオフィスのコンセプトを考えたり、運用をサポートしたりしています。むしろ最近は、お客様からの要望のほうがコンセプチュアルで、実現のハードルが高くなってきていますね。
※1:オカムラによる「はたらく」をさまざまな視点で見つめ、はたらき方やはたらく場の新しい価値を引き出すためのさまざまな活動を行うプラットフォーム
――今の業務も共創の要素は多そうですね。長年、共創に向き合ってきて、庵原さん自身はどんなことを感じますか。
「共創というはたらき方のメリットの一つは、公私を超えた人間関係にもつながること」(庵原)
庵原:一番感じるのは、共創は個人にとってもメリットが多いことですね。共創の現場では、お互いの自己開示によって人間関係の距離感も近づき、みんなで本当にいいものを目指そうという空気が醸成されます。
共創とは、簡単にいうと自分たちの社会にとっての「共通善」を設定し、それを共通目標とした価値創造です。書籍でもこう表現していますが、要はみんなで社会によいことをしようとする活動ですから、自然とポジティブなフィードバックが返ってきやすいんです。
入社以来15年以上、共創活動をしてきて、仕事につながる、また仕事だけにとどまらない社内外ネットワークも増えました。共創の場でつながる人たちとは、会社の枠を超えた仲間意識が生まれやすいんですよ。新しいビジネスチャンスが生まれたり、プライベートでも新たな人付き合いが広がったり、多方面でのメリットがあるのが共創の面白さだと感じています。
――魅力的なテーマに巡り合ったのですね。
庵原:はい。しかも、共創に取り組むとシンプルに働きやすくなるんです。今、社会全体でウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好であること)が重視されていますよね。共創というテーマ自体が自然とウェルビーイング的なものになりやすくて。みんなでよいものをつくろうという活動ですから、取り組んでいると自分たちの働き方も必然的にウェルビーイングな方向に向かっていくんですね。
共創とは、簡単にいうと自分たちの社会にとっての「共通善」を設定し、それを共通目標とした価値創造です。書籍でもこう表現していますが、要はみんなで社会によいことをしようとする活動ですから、自然とポジティブなフィードバックが返ってきやすいんです。
入社以来15年以上、共創活動をしてきて、仕事につながる、また仕事だけにとどまらない社内外ネットワークも増えました。共創の場でつながる人たちとは、会社の枠を超えた仲間意識が生まれやすいんですよ。新しいビジネスチャンスが生まれたり、プライベートでも新たな人付き合いが広がったり、多方面でのメリットがあるのが共創の面白さだと感じています。
――魅力的なテーマに巡り合ったのですね。
庵原:はい。しかも、共創に取り組むとシンプルに働きやすくなるんです。今、社会全体でウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好であること)が重視されていますよね。共創というテーマ自体が自然とウェルビーイング的なものになりやすくて。みんなでよいものをつくろうという活動ですから、取り組んでいると自分たちの働き方も必然的にウェルビーイングな方向に向かっていくんですね。
オフィス環境事業における共創は「はたらく環境をよくする」活動
――オカムラのオフィス環境事業における共創とはどんなことか、もう少し詳しく教えてください。庵原:「“はたらく”をよくする」ことです。これが私たちの考える「共通善」、みんなにとっての共通の価値です。「“はたらく”をよくする」という言葉がカバーする領域って、実はとても広いんですよ。オフィスのハード面だけでなくソフト面、さらにビジネスから街づくり、ライフスタイルまで、すべてにつながっていきます。「“はたらく”をよくする」を突き詰めていけば、そこに関わるあらゆる人のことを考えるようになる。そういう広がりを持った活動が共創の本質なのかなと思っています。
共通善って、自分たちだけがよくなるものではありませんよね。社内共創であっても社員同士だけでなく、その先のお客様やステークホルダーのことも自然と視野に入ってきます。外からの評価、意見、ノウハウがあってこそ、本当の意味での共創になるんです。
――最近、共創という言葉を耳にする機会も増えてきました。オカムラならではの共創の特徴はありますか。
庵原:世の中には「売れる製品をつくる」ことに特化した共創もありますが、オカムラのアプローチは違っていて。私たちは組織づくりやルールづくりといった目に見えにくいものも大切な価値創造だと考えています。より多くの人が取り組めて価値を享受できるのがオカムラの共創の特徴ではないでしょうか。
共創は一部の突出した特別な人たちだけがやるイノベーションではないと思っています。ウェルビーイングの実現に向けた価値創造を本気で考えるなら、より広く、多くの人の思いに寄り添う必要があると思っています。
「日本のマーケット規模から特定の人だけに向けた共創ではビジネスが成り立たない」(庵原)
庵原:書籍でも紹介しているNTT西日本が運営するオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE(クイントブリッジ)」は規模が圧倒的ですね。社会課題を解決したいという思いを持つ人であれば、会員として利用することができる自由闊達な共創の場です。関西の地場企業であるNTT西日本は、社員自らが関西を盛り上げ、社会課題解決につなげていくために必要な投資だと認識し、戦略的に取り組んでいます。
もう一つ、こちらも書籍に掲載していますが、九州工業大学「GYMLABO(ジムラボ)」は大学が産学官連携に大規模な投資をした事例です。コワーキングスペースだけでなく、企業が入居できるスペースもあります。これは構築自体が共創プロジェクトで、限られた教員だけでなく、職員や地場企業も巻き込んでワークショップなどを実施しながら、みんなで考えるステップをつくってきたのが特徴です。
――オカムラでは、どんな事例がありますか?
庵原:私が携わったオカムラの事例の一つが、NEC(日本電気)の玉川事業場食堂改装プロジェクトです。食堂を共創空間として再定義しました。構築プロセスでNEC従業員参加型のウォールアートプロジェクトを実施し、共創意識を醸成しています。このプロジェクトは、空間づくりだけでなく「共創というはたらき方」を組織に根付かせるのが目的でした。
空間づくりではないケースもあります。私が研究員も務める慶應義塾大学と組んだ「Up-Ring(アップリング)」も、その一つです。先ほど話したファブラボでの共同研究から生まれた3Dプリンターによる家具です。当初、製品化が目的ではなく、共創の場での実験から派生して生まれたのが特徴です。最終的に、環境省の脱炭素に向けた実証事業にも採択してもらい、オカムラでの製品化を実現しました。
――空間から製品まで共創のかたちはさまざまですね。オカムラのオフィス環境事業として共創に力を入れる理由は何でしょうか。
「あらゆる面で共創に取り組むほうがうまく回る時代になってきている」(庵原)
庵原:社会が共創を必要としているからです。特にビジネスシーンでは、社内リソースだけで新しいものを生み出すことには限界があると感じています。採用面でも、共創的な姿勢を発信しないと優秀な人財を確保するのは難しくなっています。
また、最近は多くの企業でパーパス経営を重視しています。一般的にパーパス経営は、結局は「みんなにとってよいこと」、つまり共通善を追求するという共創の考え方と同じではないかと思うんです。ESG(※2)投資でも共創的な取り組みが評価されるようになってきています。
※2:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字から。環境や社会への配慮や健全な管理体制により持続可能な発展を目指す企業の経営姿勢
――それはオカムラのオフィス環境事業にとっての共創に限らない話ですね。
庵原:その通りです。そもそも共創は、イノベーションや人財育成、風土改革のための手段に過ぎません。ただ、オカムラが共創に取り組む上で「空間」は極めて重要です。空間がなくても共創はできますが、運営や計画がしっかりしていれば、空間は共創をドライブさせる最強ツールになれる。しかし、箱物で終わってしまったら、負債になりかねません。
共創への取り組みを通じて社内も変わってきているし、私自身の考え方も変わりました。当初は「すべての人に理解してもらえなくても仕方がない」と思っていたんです。でもそれだと組織全体になかなか浸透せず、本当の意味でのイノベーションにはつながらないと気づきました。
現在は経営層も「共創人財が重要だ」と呼びかけていて、社内全体が「まずはみんなでやってみよう」という前向きな雰囲気になりつつあります。
また、最近は多くの企業でパーパス経営を重視しています。一般的にパーパス経営は、結局は「みんなにとってよいこと」、つまり共通善を追求するという共創の考え方と同じではないかと思うんです。ESG(※2)投資でも共創的な取り組みが評価されるようになってきています。
※2:Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字から。環境や社会への配慮や健全な管理体制により持続可能な発展を目指す企業の経営姿勢
――それはオカムラのオフィス環境事業にとっての共創に限らない話ですね。
庵原:その通りです。そもそも共創は、イノベーションや人財育成、風土改革のための手段に過ぎません。ただ、オカムラが共創に取り組む上で「空間」は極めて重要です。空間がなくても共創はできますが、運営や計画がしっかりしていれば、空間は共創をドライブさせる最強ツールになれる。しかし、箱物で終わってしまったら、負債になりかねません。
共創への取り組みを通じて社内も変わってきているし、私自身の考え方も変わりました。当初は「すべての人に理解してもらえなくても仕方がない」と思っていたんです。でもそれだと組織全体になかなか浸透せず、本当の意味でのイノベーションにはつながらないと気づきました。
現在は経営層も「共創人財が重要だ」と呼びかけていて、社内全体が「まずはみんなでやってみよう」という前向きな雰囲気になりつつあります。
「いろいろなプロジェクトや日常業務から自然に共創的な取り組みが生まれるようになってきた」(庵原)
庵原:まだまだ風土として定着したとまではいえませんが、その方向に向かっているのは確かです。誰もが等身大でできることですから、もっと取り組みやすいようにしたいですね。少しずつでも共創を取り入れる従業員が増えれば、社会の変化に対応できる会社の地力が培われていきます。
庵原の著書『ゼロからの共創 「わからない」「うまくいかない」の壁を突破する方法』
――書籍『ゼロからの共創 「わからない」「うまくいかない」の壁を突破する方法』にはどんな思いを込めましたか。
庵原:一番伝えたかったのは、共創に特別な才能は必要ないということです。発信力のある人が目立つので誤解されがちですが、日本のビジネスパーソンは協力して何かを成し遂げるのが得意な人が多く、実は共創の素養を持っているんです。ただ残念ながら土壌は整っていません。兼業や副業が認められていないことが多いですし、人財の流動性も低めです。でも、これから変わっていく可能性は十分にあると思っています。
庵原:一番伝えたかったのは、共創に特別な才能は必要ないということです。発信力のある人が目立つので誤解されがちですが、日本のビジネスパーソンは協力して何かを成し遂げるのが得意な人が多く、実は共創の素養を持っているんです。ただ残念ながら土壌は整っていません。兼業や副業が認められていないことが多いですし、人財の流動性も低めです。でも、これから変わっていく可能性は十分にあると思っています。
共創によって「人が活きる社会」を実現する
――オカムラのパーパス「人が活きる社会の実現」と「共創」は、どのように結びついていると思いますか。庵原:直結していると思います。「人が活きる」ための手段、はたらき方の一丁目一番地が共創なんです。共創を実践するコツは、「属人性と合理性」のバランスです。属人的な思いや人に寄り添う側面と、経済合理性を考えて効率的に進める両面を大切にすることが大事だと考えています。
――両方を兼ね備えた人財ということですか?
庵原:いえ、必ずしも両方の視点を持つ必要はなく、チームで役割分担すればよいのではないでしょうか。
「大切なのは、自ら価値をつくる側になること」(庵原)
――共創によって、オカムラはどのような価値を社会に提供していけると思いますか。
庵原:今、未来が見えない時代といわれますが、そこまで悲観的に考えなくてもよいのかなと。自分たちの身の回りを自分たちなりによくしていこうと動けば、共創によって新たな価値を生み出していけるのではないでしょうか。消費者意識で与えられるのを待つだけではなく、主体的に価値創造に関わることが「人が活きる」ことにつながると考えています。
――共創を進める上で、今後重要になってくると思う視点はありますか。
庵原:ここまでビジネス視点で話をしてきましたが、「教育」と「地域」も重要だと考えています。教育の面では、探究学習などで共創を学んだ学生たちがどんどん社会に出てきますから、企業はそうした人財を受け入れる準備が必要です。
地域については、東京一極集中から脱却して、それぞれの地域が独自の価値を生み出し、外貨を稼げるようになるといいですよね。地方創生を通じて新しいビジネスモデルが生まれる可能性は大きいと思いますし、そのタネがすでに生まれ始めています。日本全体の活力を考えると、地域での共創活動にこそ、これからのチャンスがあるのではないでしょうか。少しでもやってみたいと思った人は、ぜひ一緒に取り組みましょう。
庵原:今、未来が見えない時代といわれますが、そこまで悲観的に考えなくてもよいのかなと。自分たちの身の回りを自分たちなりによくしていこうと動けば、共創によって新たな価値を生み出していけるのではないでしょうか。消費者意識で与えられるのを待つだけではなく、主体的に価値創造に関わることが「人が活きる」ことにつながると考えています。
――共創を進める上で、今後重要になってくると思う視点はありますか。
庵原:ここまでビジネス視点で話をしてきましたが、「教育」と「地域」も重要だと考えています。教育の面では、探究学習などで共創を学んだ学生たちがどんどん社会に出てきますから、企業はそうした人財を受け入れる準備が必要です。
地域については、東京一極集中から脱却して、それぞれの地域が独自の価値を生み出し、外貨を稼げるようになるといいですよね。地方創生を通じて新しいビジネスモデルが生まれる可能性は大きいと思いますし、そのタネがすでに生まれ始めています。日本全体の活力を考えると、地域での共創活動にこそ、これからのチャンスがあるのではないでしょうか。少しでもやってみたいと思った人は、ぜひ一緒に取り組みましょう。
インタビュー後記
何度も強調していた「共創は誰でも実践できる」という庵原の言葉が印象的でした。共創によって、働きやすくなり、会社から評価され、社外に多くの仲間ができるなど、メリットの多さに驚きました。これまで取り上げてきたオカムラの取り組みにも、この共創は多く宿っていると感じました。次回からは、庵原とゲストの「共創対談」をお届けします。庵原が、さまざまな分野で共創に取り組む方々を訪ね、対話を通して「共創とは何か?」を掘り下げていきます。ぜひ、お楽しみに。(編集部)
Profile
庵原 悠
株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部
ワークデザインコンサルティング部
慶應義塾大学環境情報学部卒業。2009年、岡村製作所(現:オカムラ)入社。ワークデザイン研究所にて「共創」をテーマに研究開始。2012年、企業内コワーキングスペース・Future Work Studio "Sew"を設立。2013年より慶應義塾大学SFC研究所所員を兼務。WORK MILL立ち上げメンバーでもある。ワークデザインストラテジー部を経て、2025年10月より現職。