実はオカムラ社内のあちらこちらには、「挑戦社員*」が存在しています。そんな挑戦社員を紹介する本シリーズ、前編に引き続き、ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人グループ 人事部 田口周平氏と、オカムラ ブランディング統括室の神山里毅による対談をお届けします。「越境」という働き方から、それをかなえる会社のカルチャーへと話題が移っていきました。
「挑戦社員」とは
Profile
対談の前に、田口氏と神山がどんな越境挑戦をしてきたのか紹介します。インクルーシブな組織で、人は活躍する
神山里毅(以下、神山):田口さんはご自身が代表を務める従業員団体「Open&Out Japan」の活動もしていますが、それも本業の人事とは違う「越境」な働き方ですよね。田口周平(以下、田口):そうですね。「Open&Out Japan」は2015年に立ち上げました。私自身、LGBTQ+の当事者として、会社の中で居づらさを感じたことがきっかけです。賛同してくれる当事者やアライ(※1)メンバーも何人か集まり「やってみよう」と。こうした活動は業務の一部でもあるので、社長会でプレゼンして承認を得て、予算を付けてもらう必要がありました。また、社内のシニアリーダーの人に従業員団体のスポンサーになってもらわないといけません。とにかく準備は大変でしたね。
※1:味方を意味する「ally」から転じて、「LGBTQ+を理解・支援する人」のこと。
神山:賛同してくれる仲間、応援してくれるシニアリーダーの存在は大きいですよね。そういう体制を組むことができれば、どんなことでも動き出していけそうな可能性を感じます。
田口:今、6年目なんですが、最近はメンバーの間でも「会社の雰囲気が変わったよね」という話がよく出ますね。定期的に行っているワークショップでも、参加者の反応が変わってきました。例えば、同性愛者を揶揄するような発言例に対して、以前は「まぁ、悪気はないし、そういうこともあるよね」という意見も出ていました。しかし、最近は「それっておかしいよね」という風に変わってきた。ちょっとずつ変化が起きているのを実感しています。
神山:田口さんの取り組みのように、「こういうことやったほうがいいな」という興味関心、使命感を持った人が、行動に移せる組織っていいですよね。
田口:ジョンソン・エンド・ジョンソンは、組織がインクルーシブ(排除しない)です。だから、さまざまな人たちが活躍できる。実際に、いろいろな意見を認めてくれます。意見を言う側も、心理的安全性が担保されていないと、言い出しにくいものですからね。安心できる組織、働きやすいと思える組織は、「越境」してみようという人にとっても働きやすい場所だと思います。
「越境」した従業員が、組織にもたらす価値とは?
神山:少し話題を変えて、「副業」についてはどうでしょうか。現状、オカムラでは副業制度はありませんが、ジョンソン・エンド・ジョンソンで導入された副業制度とは、どのようなものですか。田口:副業制度を導入したのは、2021年の7月からなんです。最近ですね。導入にあたって「ジョンソン・エンド・ジョンソンにおける副業って何だろう?」という議論を、かなり丁寧にやりました。そこで出てきたのは、副業を単なる「収入を得る機会だけにしない」ということ。副業で得た知識・経験は会社に還元してほしいし、副業するなら今までやったことのない仕事にもチャレンジしてほしい。なので「個人の成長の機会として捉えてください」と明言しています。本業で特定業務の習熟度を高めていくのも成長ですが、一方で新しいキャリアの可能性を見つけたり、人脈を広げたりすることも、成長ですから。
神山:共創空間の企画運営を通して、社内外のさまざまな人と交流するうちに、より多様な価値観の中で学びたいと考えるようになり、会社の留学制度を利用して社会人大学院に通いました。言わば社外への「越境」ですね。修了後、「新たに得た知識や人脈を会社に還元したい」と、人財開発部に相談して兼業というカタチで、研修プログラムの開発や、講師を担当しています。さらにその経験を活かして、今はブランディング統括室で企業価値向上に向けた「カルチャーの再浸透」や「新たなカルチャーづくり」を行っています。私の「越境」の取り組みは、得たものを他で活かす、この繰り返しですね。
田口:特定業務に習熟した人だけでなく「越境」してたくさんの経験を持った人が増えていくと、会社にとっての仕事の在り方も変わっていきそうですね。神山さんのような人、いろいろな知見を持つ人、いろいろなつながりを持つ人たちが、とっておきのカードを切りあう。そうすると予想外のアウトカムや、今までにない仕事の広がりが出てくる可能性もあると思うんです。会社がどう受け止めるかにもよりますが、これまでの仕事をこれまで通りにやっているだけでは得られない「価値」が生まれてくるのではないでしょうか。
会社のカルチャーをアップデートする
神山:昨年(2020年)、全社を対象としたアンケート調査を実施したのですが、その中に、会社のカルチャーに関する設問を入れてもらったんですよ。その結果、多くの従業員が共通認識とする「維持すべきもの(文化)」と、これから「強化すべきもの(文化)」が明らかになりました。維持すべきよい文化は、「オカムラウェイ」というカタチで改めて社内の皆さんと共有していこうとしています。一方、強化すべきものとして挙げられた「イノベーション・創造」、「挑戦・リスクテイク」、「風通しの良さ・部門を越えた連携」の3つは、しっかり検討していく必要があるものです。「越境」は、その解決法のひとつとして有効なのではないかと、個人的には考えています。従業員一人ひとりが、自分の経験値やスキルセットと、「新しい何か」を掛け算するような働き方がこれから重要になると思うんですよね。
田口:アンケート結果を拝見して、おもしろいと思ったのが、ジョンソン・エンド・ジョンソンの企業理念・理念規定である「我が信条(Our Credo、以下「クレドー」)」に通じるところがたくさんある点です。
田口:例えば、よい部分とおっしゃっていた「誠実さ」「モノづくりの精神」「品質へのこだわり」などの考え方は、言葉は違えどクレドーにも書かれています。ジョンソン・エンド・ジョンソンにとってクレドーは、全世界に13万人いる従業員の中で一番偉いもの。社長も含め社員全員がクレドーを基本にしています。物事を判断する際の絶対的な「拠りどころ」になっているんです。ですから、仮にマネジャーがよろしくない行動を取ったら、メンバーが胸をはって「よろしくないです」と指摘できます。全員が共感して、納得できる理念は、「拠りどころ」としてとても大事ですね。
神山:ジョンソン・エンド・ジョンソンのクレドーは、世界的にも有名ですが、そこまで浸透しているのはすごいですね。私たちも、新たな経営理念「オカムラウェイ」を2021年7月1日にリリースしました。まさにオカムラグループ従業員の「拠りどころ」です。その中核概念は「人が活きる」という価値観ですが、ここでの「人」とは、オカムラのお客様のみならず私たち従業員とその家族、そして社会の人々、オカムラグループと関わるすべての「人」です。われわれ従業員一人ひとりが常に誰かを「活かす」ことを意識しながら行動している、そんな会社をめざしています。
田口:神山さん自身は、先ほどのアンケート結果にあった「強化すべきもの(文化)」については、どうしていこうとお考えですか。
神山:従業員が会社や、もっと言えば社会全体をよくするアイデアを気軽に声に出せるカルチャーをつくっていきたいと考えています。実は昨年から、若手・中堅メンバーで、身近な課題解決や新しいビジネスアイデアを議論するコミュニティ活動をスタートしました。この11月、法人化が決まったNovolBa(※2)という新規事業があります。そのビジネスモデルの検討過程でコミュニティメンバーとアイデア出しを行った際、参加していた若手メンバーが自ら手を挙げて、本格的にその法人にジョインすることになりました。社内でも「興味」から始まる「挑戦」の新しい流れができはじめています。
※2:ノボルバ。オカムラと株式会社ボーンレックスが共同運営するスタートアップ向けの新しいオフィスサービス。
田口:会社のカルチャーをアップデートするのって、ほんとうに大変です。だけども、やりがいはある。カルチャーは目に見えないものだけに、変化を実感できたら感動はひとしおですね。
神山:今後こういった社内事例を、積極的に紹介していこうと考えています。「オカムラって、こういうことができる会社なんだよ」ということが、もっと従業員に伝わっていけば、「じゃあ、自分もやってみようかな」という連鎖が生まれやすくなりますし、会社として制度が整備されていくようになればと思います。
これからの時代に求められる「越境社員像」とは
神山:今回は田口さんと私の経験から働き方の「越境」とは何かを考え、「越境」が会社に与える可能性や価値についても話してきました。最後にうかがいたいのですが、田口さんはどんなタイプの人が「越境」に向いていると思いますか。田口:会社で仕事をしている以上、必ず誰かと連携しています。他の部署の方との連携もあるでしょう。それが、「越境」だという考え方もできますよね。日々の仕事の幅がちょっと広がったら、新しいことへの挑戦になると思います。「こういう人が越境に向いている、向いていない」というよりは、自身の視点で「熱意」を持って取り組めることを新たに見つけられるかどうかが大切ではないでしょうか。
神山:そうですね。もちろんすべての従業員に「越境」が必要だとは思いません。日々の業務にもさまざまな「挑戦」はありますし。それぞれの姿勢が大切ですね。
田口:人事の視点では、まさにダイバーシティです。経験や考え方の違いを歓迎できる、応援できる組織づくりができると、「越境」する人は増えていくと思います。しいて言うなら、自分と異なる意見や考え方を受け入れられる人が、「越境」に求められる人物像かもしれません。つまり、相手を受け入れて尊べる人ですね。
神山:まさにオカムラウェイの「人が活きる」に通じますね。「人が活きる」を拠りどころとして、会社は「こうしたらもっと良くなるのに」、「こういう取り組みをやったほうがいい」と、全体最適で考えられる広い視点が必要だと思います。そのためにも「やったほうがいいだろう」と思ったことは、誰でも気軽にチャレンジできる会社にしていきたい。こういった考えを、新しいカルチャーとして根づかせるためにも、自分の経験も活かしながら、もう一歩踏み出せる人、チャレンジできる人を増やしていきたいですね。