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共創で地域の未来を拓く「釜石オープン・フィールド・ラボ」始動

2025.11.28

共創による価値創造 Vol.2

オカムラが大切にする「共創」という考え方。それは自分たちの社会にとってよいこと、つまり「共通善」を共通目標として掲げ、みんなでその実現に向けて価値を創造していくことです。これは一部の特別な人だけのものではなく、誰もが等身大で実践できる活動です。オカムラは、この共創を日々の仕事の進め方、すなわち「はたらき方」として捉え、長年にわたって実践と研究を行ってきました。

オカムラの共創についてはこちらを参照
企業と地域の共創を加速させる新たな拠点「NEMARU PORT(ねまるポート)」が、岩手県釜石市に2025年8月に誕生しました。釜石市・かまいしDMC・日鉄興和不動産・オカムラ 4者共同プロジェクトから生まれた、2拠点目の人材育成施設です。といっても単なる研修施設ではありません。ここは企業同士の横のつながりを生み出し、地域の未来を共に創る活動「釜石オープン・フィールド・ラボ」の中核拠点として機能する場。今回はプロジェクトに携わるかまいしDMC代表取締役の河東 英宜さんとオカムラの庵原 悠さんの対談をお届けします。釜石での共創の意義や地方創生への思いを語りあいました。
2025年9月取材

企業研修から共創へ、4者連携で誕生した釜石の学びの拠点

庵原 悠(以下、庵原):2025年8月に2拠点目となる「NEMARU PORT」がオープンしました。もともと釜石市、かまいしDMC、日鉄興和不動産の3者で始まって、後からオカムラが参画したプロジェクトですが、発端は何だったんでしょうか。
 
ワークデザインストラテジー部 庵原 悠
ワークデザインストラテジー部 庵原 悠
河東 英宜(以下、河東):きっかけの一つは、2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップです。釜石でも試合が行われたことで、多くの企業が関わり、共創の芽のようなものが生まれていました。これを機に復興支援や町づくり、リーダーシップ研修などに興味を持った企業が当社(かまいしDMC)の研修を受講してくれるようになったんです。
ただ、かまいしDMCが提供できるのは主にソフト面のプログラムでした。研修参加者のよりどころとなる拠点、つまりハード面も必要だろうという話になり、日鉄興和不動産と連携することになりまして。また、関係人口(※1)増加を目指す釜石市も加わり、3者連携が始まりました。

※1:移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々(出典:総務省「二地域移住・関係人口ポータルサイト」) 
 
かまいしDMC代表取締役 河東 英宜さん
かまいしDMC代表取締役 河東 英宜さん
庵原:こういう取り組みはハード先行になりがちですが、ソフトをしっかり提供できるかまいしDMCが入っていたことが、オカムラにとって参画の大きな魅力でした。オカムラは2021年にオープンした1拠点目の「NEMARU PORT - hanare -(ねまるポート はなれ)」からハードとソフトの中間を担う立場で携わり、拠点運営のサポートや共創ができる空間づくりを担当しています。
ところで当初は「ラーニング・ワーケーション in 釜石」という名称で展開していましたよね。

河東:はい。当時、ワーケーションという言葉が注目されていたので、その流れも意識しました。ただ、釜石は温泉地やビーチリゾートではないので、「学びながらのワーケーション」にして差別化を図ることにしたんです。日常を離れて新たな環境で学ぶ「越境研修」の要素を持ちながら、ワーケーション的な効果もある研修を企画しました。個人向けではなく、あえてBtoB(※2)に特化して、企業研修の新しいかたちとして展開することにしました。

※2:Business to Businessの略。企業間の取引

庵原:企業間の共創を生む場にしていったわけですね。共創って、ビジネスだけだと深まりにくいところもあるので、ワーケーションのように人の暮らしや町との関わりまで踏み込んだほうがうまくいく印象があります。実際、東京から参加される企業の方々は、釜石に来て、地域の方と直接対話することで、オフィスでは得られない現地の生の声を求めていますよね。ビジネスの延長で地域とつながり、それがまたビジネスにつながるという流れは、今後ますます重要になると思っています。
 
「施設で過去の発表を“見える化”すれば、企業間の情報共有につながる」(河東さん)
「施設で過去の発表を“見える化”すれば、企業間の情報共有につながる」(河東さん)
河東:今回2拠点目の開設にあわせて、ラーニング・ワーケーションを「釜石オープン・フィールド・ラボ」と名前を変え、コンセプトも進化させました。これまでは「釜石とA社」「釜石とB社」という個別の関係だったものを、「釜石とA社とB社」による横のつながりをつくって、共創を加速させていきたいと考えています。
釜石では複数の企業が同時期に研修を行うことも多いので、たとえばある企業が考えた取り組みをその後に来た企業が研修で活かせれば、ゼロから1だけでなく、2から4といった積み上げも可能です。これまでに他企業のソリューションを活用したいという要望はありましたが、オープンにする仕組みがなかったんです。拠点があれば、掲示物やサイネージでの情報共有も容易になりますよね。

庵原:確かに共創しやすい機能を施設に持たせることで効率化が図れますね。「NEMARU PORT」は、まさに空間を使った見える化を意識して設計しています。
2025年8月にオープンした「NEMARU PORT」
2025年8月にオープンした「NEMARU PORT」

河東:この取り組みは地域の人的経営資本(※3)の観点からも重要だと考えています。人口減少の今、移住者を増やすのは、なかなか難しい。でも東京から参加される企業の従業員に釜石を「第2のふるさと」だと思ってもらえれば、釜石にとっての人的経営資本になります。自社やキャリアについて考える従業員が増えるのは会社にとってもよいことだと思います。

※3:人材を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方(出典:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~」
 
「河東さんとの取り組みを通して、地域づくりに必要な関係人口の構図が具体的に見えてきた」(庵原)
「河東さんとの取り組みを通して、地域づくりに必要な関係人口の構図が具体的に見えてきた」(庵原)
庵原:河東さんはもともと観光のエキスパートですよね。私はビジネスや共創の視点で地域に関わってきましたが、観光も共創の場づくりとつながることをこのプロジェクトで学びました。オカムラの研修参加者が毎年釜石に来て、その後それぞれ親善大使のように周りに釜石のことを伝えたり、ふるさと納税をしたりしています。ビジネスの新たな着想につながることもあれば、純粋に観光や物産の消費として地域経済に貢献することもありますよね。

河東:そうですね。オカムラの研修では山に入って木を切る体験もしてもらいました。一般的に木製家具を扱う企業の従業員でも、実際に木に触れるのは初めてという方が多い。山で木がどう生えていて、どう間伐されているかを知ることで、アンケートに「こういう研修をしてくれる会社に入ってよかった」と書いてくれる方もいます。

庵原:そういう体験は自己効力感(※4)と自社肯定感の両方を高めますね。自己効力感は、共創プロジェクトがかたちになっていく手応えから生まれるものですし、自社肯定感は、こうした動きを通じて育まれ、帰属意識が深まります。

※4:目標達成のための能力を自らが持っていると認識すること。心理学者アルバート・バンデューラが提唱した概念
 

NEMARU PORTギャラリー

 

共創を加速させる2拠点目「NEMARU PORT」の役割

庵原:1拠点目での検証を踏まえ、今回の2拠点目で実現したかったことは何ですか。

河東:最初の拠点はコンパクトでしたから、研修前後の隙間時間にメールチェックをする、WEB会議に参加するといった作業に使える場所という位置づけでした。ここは、外部会場を借りずに研修を完結できる空間を目指しました。自前の拠点があれば、朝夕の時間を気にすることなく、受け入れなどの活動の幅も広がります。
 
対談は、NEMARU PORTで行われた
対談は、NEMARU PORTで行われた
庵原:オカムラとしては、サステナブルな運営が成り立つ場の設計を強く意識しました。当初は宿泊機能も検討しましたが、河東さんから「町に既存の宿泊施設があるので、役割を分けたほうがいい。町全体で役割分担して成り立たせることが大事」といわれて、確かにその通りだなと。「NEMARU PORT」も機能を圧縮して、コンパクトにまとめています。大きすぎると維持費がかさみますし、複数企業が同時に利用したとき、距離が近いほうが自然な交流が生まれやすくなりますから。
「NEMARU PORTに来てくれる企業と共創して何が生み出せるか楽しみ」(河東さん)
「NEMARU PORTに来てくれる企業と共創して何が生み出せるか楽しみ」(河東さん)
河東:ここから共創アイデアが生まれ、それが地方創生に資するものになればうれしいですね。調理の器具と環境と整えたフードラボという特徴的な設備もあるので、新たな研修などで活用していきたいです。

庵原:フードラボでは近所の鮮魚店で買った魚を調理するような、場を豊かにする体験もできるといいですね。薪ストーブは暖房としても環境にやさしく、サステナブルな施設の象徴といえます。

サステナブル未来会議 in 釜石・エヌエスオカムラ

オカムラの従業員向けサステナビリティ研修は、2025年から「サステナブル未来会議」として新たにスタートしました。各拠点での研修で、参加者が「ありたい未来」を実現するための提案をまとめ、会社へ提言するプログラムです。釜石では、オカムラグループの生産拠点でもあるエヌエスオカムラ(以下、NSO)との合同研修として実施。遠隔操作型分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用し、東京からのリモート参加者も交えたハイブリッド形式で開催されました。
河東さんは「サステナビリティを謳うだけでなく、実際に活動を継続していることに意味があります。NSOも環境配慮に積極的で、私たちと方向性は同じ。今後は高校生の修学旅行での工場見学も受け入れると聞いています」とコメント。庵原さんは「生産拠点を持つ企業が、その地域で研修をするのは自然なこと。NSOの従業員が研修内で『東日本大震災の記憶』の語り部を担っており、研修参加者だけでなくNSOの従業員自身も自社や釜石を見つめ直すきっかけになっています」と話しました。


                                   

地方創生に必要なのは、競争ではなく共創

「共創を抜きにして、地方創生はありえないと思っている」(河東さん)
「共創を抜きにして、地方創生はありえないと思っている」(河東さん)
庵原:これまで何度もお話してきた仲ですが、私自身、河東さんから「共創」という言葉を聞いたことがない気がするのです(笑)。改めて河東さんにとっての「共創」とは何かを聞かせていただけますか。

河東:実は講演用の資料には必ず「共創」を入れているんですよ。庵原さんとの間では当たり前すぎて使っていなかったのかもしれません(笑)。よく話すのは、人口減少社会では競い合っても物事はうまくいかないということ。町づくりで大事なのは、競争ではなく共創なんですよね。

庵原:やはり共創は地域づくりの根幹ですね。

河東:そうですね。それから共創は「相利」、つまりお互いに利益があることでもあります。それは金銭的な利益だけではありません。たとえば、かまいしDMCでは兼業を認めていて、人財を地域全体でシェアしています。限られた人財を分かち合うことも利益であり、共創の一つのかたちだと思っています。

庵原:今後どんな展開を描いていますか。

河東:この場をきっかけに釜石に投資を呼び込みたいですね。地方創生の新しいビジネスモデルとなる投資を呼び込み、それがここで議論されるようになればいいと思っています。たとえば、空き校舎の活用や三陸復興国立公園への高付加価値となりうるホテル誘致なども考えられます。さまざまなプロジェクトが、ここNEMARU PORTから生まれ、それを動かす会社がここに拠点を持つようになるのが理想です。決して夢物語ではなく、十分実現可能な目標だと考えています。

対談後記
釜石でのプロジェクトを通じて強く感じるのは「サステナブル」という視点の重要性です。町の未来を考えながら、本当に必要な投資は何かを真剣に考える。今回のインタビューで、河東さんのような現実的かつ戦略的な視点を持つリーダーが町にいることの強さを実感しました。共創が地域にも企業にも価値を生む実例づくりに、これからも釜石で関わっていきたいと思っています。(庵原)

Profile

河東 英宜 

株式会社かまいしDMC 代表取締役
釜石市出身。旅行系出版社を経て、2017年にパソナグループ入社。New Value Creation Fund投資政策委員会事務局にて地方創生事業に取り組むなか、観光地域づくり法人(DMO)である株式会社かまいしDMCの制度設計を行い、2018年4月に同社を設立。自走型DMOを実践し、2021年に第13回観光庁長官表彰を受賞。

庵原 悠

株式会社オカムラ 働き方コンサルティング事業部
ワークデザインコンサルティング部
慶應義塾大学環境情報学部卒業。2009年、岡村製作所(現:オカムラ)入社。企業内コワーキングスペース・Future Work Studio "Sew"の設立、WORK MILL立ち上げなどにも関わる。「共創」をテーマに、企業や地域の新しい働き方・場づくりを研究・実践している。


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