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AIやロボットによる物流改革、目的は「人にしかできないこと」の追求

2024.09.18

株式会社オカムラは、経営理念「オカムラウェイ」のもと、「人が活きる社会の実現」を目指しています。そのオカムラウェイをテーマに、さまざまな角度からオカムラがこの先目指す姿を紹介していくのが、本連載「Okamura Way and Beyond」です。


オカムラは、オフィス環境、商環境、そして物流システムの3本柱を中心に事業を展開しています。その一つ、物流システム事業に今回はフォーカスします。近年、物流は社会インフラとして不可欠な役割を担っている点からも、企業の経済活動において重要性が増しています。こうした背景のもと、オカムラは、2016年5月から物流テックのGROUND株式会社(以下、GROUND)とロボット技術を活用した物流システム事業の新しい取り組みを目的に資本業務提携を結びました。2024年3月、オカムラの追加出資により、さらに両社の関係を強化し、企業の物流改革の推進に乗り出します。今回は、オカムラの物流システム事業本部とGROUNDのキーマンに集まってもらい、物流業界の課題に対して、両社がその解決のために何をしようとしているのか、どんな未来を描いているのか、語り合ってもらいました。
2024年7月取材

Profile

田尻 誠(たじり・まこと)

株式会社オカムラ 上席執行役員 物流システム事業本部長

1982年、株式会社岡村製作所(現 オカムラ)入社、営業本部日本橋営業所(現 オフィス環境本部日本橋支店)へ。1997年、大宮支店長を皮切りに赤坂支店長・新宿支店長・福岡支店長を歴任。2012年、物流システム事業本部 営業部長。2015年、取締役 物流システム事業本部長。2019年から現職。

宮本 英之(みやもと・ひでゆき)

株式会社オカムラ 物流システム事業本部 物流システム営業部 東京西支店 支店長

1998年、株式会社岡村製作所(現 オカムラ)入社。入社以来一貫して物流システムの営業支店所属。自動車・機械・液晶ガラスなど主に工場自動化の製造プロセス刷新、その後、流通小売・EC分野の物流DX推進などに従事。2010年、大手自動車メーカーの車載用リチウム電池製造ライン導入プロジェクトリーダー。2016年、大手家具SPA(製造小売業)でのAutoStore導入プロジェクトの統括マネージャー。2021年2月から現職。

宮田 啓友(みやた・ひらとも)

GROUND株式会社 代表取締役社長 CEO


1996年、三和銀行(現 三菱UFJ銀行)入行。2000年、デロイトトーマツコンサルティング入社。大手流通業を中心にロジスティクス・サプライチェーン改革プロジェクトに従事。2004年、アスクル株式会社入社。ロジスティクス部門長として日本国内の物流センター運営を行う。2007年、楽天グループ株式会社入社。物流準備室長、物流事業長を歴任した後、2010年、楽天物流を設立し、代表取締役社長に就任。2012年、楽天執行役員物流事業長、Alpha Direct Service SAS(仏)マネージングディレクターなどを歴任。2015年4月GROUND設立。共同創業者・代表取締役社長に就任。現在に至る。

鈴木 圭一郎(すずき・けいいちろう)

GROUND株式会社 GROUNDリサーチインスティテュート 所長

専門商社にて約10年間にわたりトレーディング業務に携わった後、オフィス通販企業に転じ、新規事業開発プロジェクトに参画。その後、大手Eコマース企業に入社し、出店事業者向けの新規事業となる物流サービスの開発・営業活動に従事。2015年、GROUND創業時より参画し、海外製ロボット製品の国内市場展開にあたっての事業開発ならびに投資家対応等に従事。2024年4月から現職。

 

物流業界が直面している課題とは?

――まずは、両社の協力関係が強化されてきた背景として、物流業界の課題についてお聞かせください。

オカムラ 田尻 誠(以下、田尻):物流の潮目は2015年頃に変わりました。人手不足やEコマースの取引増加などから、従来の物流サービスの提供が困難になる「物流クライシス」という言葉が、世間でも注目されるようになりました。
 
「物流クライシス以降、オカムラ経営層の物流への見方も大きく変わった」(田尻)
「物流クライシス以降、オカムラ経営層の物流への見方も大きく変わった」(田尻)

――その時期にどんな変化があったのでしょうか。

田尻:まず、企業の物流部門がコストセンター(業務にかかるコストを集計する部門)からプロフィットセンター(収益とコストを集計する部門)へと変化して、物流にも利益が求められるようになりました。また、コロナ禍によるEコマースの需要拡大、配送車両の運転手不足の2024年問題も顕在化。物流の課題は、ある種の社会問題です。オカムラも、それらの課題解決につながるソリューションが求められるようになりました。

GROUND 宮田 啓友(以下、宮田):海外製の物流ロボット登場も変化の一つです。かつて、B2B(※1)の物流は工場や倉庫で物を動かす、いわゆるマテハン(※2)機器を使ったオペレーションが中心でした。ユーザー企業側が物流倉庫をつくる場合、相談する相手もオカムラをはじめとするマテハンメーカーです。

※1:Business to Businessの略。企業間の取引
※2:マテリアルハンドリングの略。生産や物流の拠点で原材料から商品まであらゆるものの移動のこと


 
「GROUND創業は2015年、田尻さんの指摘する物流の変化と同時期」(宮田社長)
「GROUND創業は2015年、田尻さんの指摘する物流の変化と同時期」(宮田社長)

宮田:しかし、EコマースのようなB2C(※3)の需要拡大で、消費者向けの小物の物流が必要になり、それに伴う物流の最適化というニーズも増えます。そこで大きな課題となったのは、従来のマテハンメーカーは自社製品しかつかえないことでした。

※3:Business to Consumer/Customerの略。企業と消費者の取引

――Eコマースの広がりでマテハンメーカーに求められることも変化したと。

宮田:例えば、Eコマースのロングテール(※4)は、品揃えが増えるほど物流倉庫の労働環境は厳しいものになります。大手外資系Eコマースでは、スタッフ1人あたり物流倉庫で1日に10キロ以上歩くそうです。Eコマースはハードな労働環境のもと成り立っているのです。そのため、ユーザー企業側もマテハンメーカー1社だけに頼れない状況になりつつあります。

※4:Eコマースで大きな売上を占める商品以外に、販売機会の少ない商品を幅広く取り揃えて、全体としての売上を大きくする現象

――オカムラとGROUNDの資本提携には、そうした背景があったわけですね。

田尻:物流の変化にあわせて、オカムラも独自の切り口で物流システム事業の展開を考えていました。そんな折、創業当時のGROUNDと出会い、大きな潜在力を感じました。まず、物流倉庫のソフトウエア開発力。そして、庫内作業を改善させるコンサルティング力。さらに、海外の新しい物流に感度の高いアンテナを持ち、海外製ロボットを扱っている点は、印象的でした。その知見をオカムラも活用できる協力関係を築きたいと考えたわけです。

――GROUNDと組むことの意義を宮本支店長はどうお考えですか?

オカムラ 宮本 英之(以下、宮本):私たちにはマテハンメーカーとして、お客様ニーズへの対応力や、製品開発力があります。また徹底的にお客様に寄り添う営業提案力にも自信があります。しかし、物流が加速度的に変わる中、宮田社長がおっしゃったように自社製品だけでは太刀打ちできない時代が到来しています。
 
「ベンチャー企業とのビジネスは初めてで、当初は戸惑いもあった」(宮本)
「ベンチャー企業とのビジネスは初めてで、当初は戸惑いもあった」(宮本)

宮本:GROUNDとの初めての取り組みは「Butler(バトラー)」(※5)という製品をお客様に納入したプロジェクトです。GROUNDの「新しいものを生み出したい」という熱量から、私たちと同じ方向を向いていると感じましたね。協業での苦労も多々ありましたが、お互いに乗り越えて、今の関係につながっています。

※5:現・棚搬送型ロボット Ranger™ GTP

いま取り組んでいる、物流改革に向けた共創

――これから両社でどのように物流改革に取り組んでいくか、お聞かせください。まず、この先の協業で注目されているAIソフトウエア「GWES」とはどんなものか、教えてください。

GROUND  鈴木 圭一郎(以下、鈴木):物流の変化によって、物流倉庫に新しいテクノロジーが導入され、働いている人と自動化機器の共存が複雑化しています。GROUNDは、そこにニーズを感じ、ソフトウエア開発に着手しました。それが「GWES」、GROUND Warehouse Execution System(※6)です。

※6:倉庫実行システム=Warehouse Execution System。WESと略される
 

「海外製品の国内導入に取り組む中、ソフトウエアの重要性を感じた」(鈴木さん)
「海外製品の国内導入に取り組む中、ソフトウエアの重要性を感じた」(鈴木さん)

鈴木:GWESは物流倉庫内の「可視化」を目的としています。物流倉庫に存在するデータを取り込み、タブレットなどの情報端末で表示。データをもとに、管理者や働いている人の効率的な指示や作業を実現します。もう一つの重要な機能は「最適化」です。多くのデータから規則性や効果の目安を見出し、未来の予測に役立てられます、例えば、効率的に働けるような配置や手順、商品の保管のあり方などを導き出す。その際、AIを活用しています。
 

GWESの活用例

可視化の例。作業進捗状況について計画と実績、そして両者の乖離を画面上で確認できる
可視化の例。作業進捗状況について計画と実績、そして両者の乖離を画面上で確認できる
最適化の例。商品ごとの最適なロケーションを検出して、フロア全体が最適な配置となるようシミュレーション
最適化の例。商品ごとの最適なロケーションを検出して、フロア全体が最適な配置となるようシミュレーション

――物流倉庫における管理の効率化は、オカムラの物流システム事業にどんな影響をもたらしますか?

田尻:実は物流において大事なのが、保守やアフターサービスです。物流システムは10年、20年と使われ、止めることが許されない分野。物流倉庫の稼働状況を遠隔監視することは、オカムラにも必要です。そういった観点からも、今後は可視化と最適化を実現できるGWESと連動した物流ソリューションの提案も力を入れていきます。
 
「IoTやAIで状況を把握、定期点検のような保守のアプローチを実現したい」(田尻)
「IoTやAIで状況を把握、定期点検のような保守のアプローチを実現したい」(田尻)

宮本:一方で物流倉庫の課題はお客様によってさまざまです。お客様にとって最適化への道筋をつくるためには、まずは実情をしっかりとらえることが重要。現状の課題と真摯に向き合い、お客様と一緒に最適なソリューションをつくり上げるプロセスを大切にしています。そのうえでAIなどの最新テクノロジーを活用することで、人手不足でもオペレーションを継続できる次世代の物流システムを提供していけると考えています。

――AIありきではなく、お客さまの視点があったうえでのテクノロジー活用が肝要ですね。では、GROUND として、オカムラとの協業にGWESをどう活用していきたいですか。

鈴木:歴史あるオカムラとGROUNDの協業によって、私たちの技術を多くのお客様に展開できる点は、お互いにとって新しい価値の創造につながります。物流倉庫の保守やアフターサービスについても、IoT化や遠隔監視など、提案の可能性が広がりますね。
 
「スマホとOSのように、物流もクラウドで環境とソフトウエアを更新」(宮田社長)
「スマホとOSのように、物流もクラウドで環境とソフトウエアを更新」(宮田社長)

宮田:例えば、クルマも海外の電気自動車ブランドのようにソフトウエアで制御される時代です。物流倉庫も、ソフトウエアやOSを活用したプラットフォームとして提供していく企業が勝ち残っていくでしょう。一方で、マテハン機器も海外製など選択肢が増えています。日進月歩で進化する中、何を組み合わせて最適化するかが重要。私たちはOS開発やコンサルティングを、オカムラはさまざまな機器の提案型営業に取り組んでいる。この役割のもと、次の一手をオカムラと一緒に実現していく土台ができてきたと感じています。

 

トラスコ中山の物流拠点で実証実験を実施

現在(2024年)、生産現場でつかわれる工業用副資材(プロツール)の卸売業大手・トラスコ中山株式会社の物流拠点「プラネット埼玉」で、オカムラは自律・遠隔操作ハイブリッド型ロボットによる物流自動化ソリューション「PROGRESS ONE」の実証実験を行っています。すでにプラネット埼玉ではロボットストレージシステム「AutoStore」が稼働しており、その入出庫ワークステーションにPROGRESS ONEのピッキングロボットを設置。対象商品の事前登録を不要とするAI活用による自律したピッキング(※7)の検証を行っています。また、プラネット埼玉はGWES導入を進めており、オカムラとGROUNDの物流ロボットシステムが実際に稼働しています。プラネット埼玉で行われる見学会において、両社の取り組み事例として紹介されています。

※7:物流倉庫で出荷指示をもとに保管場所から対象の商品を選び出し、出荷用に集めること
 

 

オカムラとGROUNDで、この先の物流をどう変えていくか?

――オカムラが目指す「人が活きる社会の実現」をふまえて、この先の物流はどうあるべきでしょうか。

田尻:GROUNDは物流業界の中でも新しいことに取り組んでいるベンチャー企業です。協業することでオカムラ社内やお客様にも、新しいことに取り組む印象が広がり、いい影響も出ています。自社でもAIを使ったピッキングロボット「PROGRESS ONE」を開発しており、先進的なチャレンジはどんどんしていきたい。GROUNDとの資本提携はその一つの象徴かもしれません。いろいろな相乗効果で新しいオカムラの物流システム事業を展開していきたいですね。

宮田:テクノロジーが進化しても、物流倉庫から人がゼロにはなりません。人にしかできないこと、ロボットが担うべきこと、こうしたすみ分けが大事です。今回の資本業務提携強化を通じて、さらなる物流倉庫の労働環境改善を実現していきたいと思います。
 
オカムラとGROUNDは営業連携、相互送客、連携提案の取り組みを強化する
オカムラとGROUNDは営業連携、相互送客、連携提案の取り組みを強化する

――物流におけるAIやロボットなどの活用は、オカムラのパーパス「人が活きる社会実現」につながりますね。

宮本:そうですね。「人が活きる」という側面から、人財育成も重要です。物流システム事業はこれまでの10年間、マテハンにロボットを組み合わせて成長してきました。次の10年は、そこにAIが掛け合わせられてさらなる発展を遂げるでしょう。そのためには、データを活かせる人財が必要です。やはり、事業の源泉たる部分は“人”ですから。AIやデータを駆使できる優秀な若い人財を育てて未来の物流の発展につなげていきたいですね。
今後は、例えばGROUNDのコンサルタントやデータサイエンティストの知見を活用して、テクノロジーに関するスキル習得の体系化など、オカムラの従業員の育成や人財交流にも取り組んでいきたいと考えています。
 
「これまでもGROUNDとオカムラでセミナーを共催して情報を発信してきた」(宮本)
「これまでもGROUNDとオカムラでセミナーを共催して情報を発信してきた」(宮本)


――では、最後にこの先、オカムラ×GROUNDが目指す未来についてもお聞かせください。

宮田:日本の市場がシュリンクしていく中で、海外に目を向ける必要があるのではないでしょうか。GROUNDは開発者が海外メンバー中心で、すでに海外市場を意識した実証実験もしています。

田尻:アメリカでは企業経営の柱としてロジスティクス(※8)を重視していて、物流は社会課題の一つとしてとらえられています。オカムラの従業員にも、物流は「社会課題に直結する大事な仕事」だという意識を持ってもらいたい。その意味でも、オカムラがGROUNDと取り組む挑戦は、物流に関わる従業員の誇りにもつながる「新しい発信」だと考えています。

※8:物流を含む調達・生産・販売・回収などの分野を統合して需要と供給の適正化を図ること
 

取材は、リニューアルしたオカムラのラボオフィス『CO-Dō LABO』で行われた
取材は、リニューアルしたオカムラのラボオフィス『CO-Dō LABO』で行われた

取材後記

今回は、オカムラとGROUNDの共創を通じて、物流改革に取り組む姿勢をそれぞれの立場から語ってもらいました。オカムラは開発力や提案力を活かして、新たな物流ソリューションの展開に力を入れています。GROUNDはソフトウエアやOS開発など、先進的なコンセプトで取り組んでいます。その目的は、物流倉庫から人の仕事を減らすのではなく、働き手不足を解消し、さらに人が付加価値の高い業務に集中できる環境を整えること。2社の関係は、単なる歴史あるメーカーとベンチャーの協業ではなく、お互いの強みを活かした共創によって物流の新たな価値創造につながると感じました。(編集部)
 

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