「働く」を再定義することをキーワードに、さまざまな企業が参画する「point 0 」。最大の特徴は、参画企業がコミッティ※1を編成していること。仕事に必要なオフィスのインフラをシェアするだけでなく、技術やアイデア、実験データなどをシェアしながら新たな価値創造を目指す活動を展開しています。今回は、「協創/共創のコンソーシアム※2」とも言えるpoint 0で、新たな働きかたを実践している各社のみなさんと、「これからの働きかた・働きがい」をテーマに意見交換を行いました。
※1:一般的には「委員会」という意味。point 0では参画企業の集合体のこと。
※2:共通の目的のもと、複数の企業や組織が協力するための事業共同体のこと。
point 0 とは
point 0には、オカムラをはじめ、業界や領域を越えて、これまでに多くの企業が参画。参画企業による実証実験や、コラボレーションを通じた新たな事業の創出を目的としています。一般的なコワーキングスペースは、スタートアップや個人事業主が主体ですが、2019年に東京・丸の内にオープンしたpoint 0 marunouchiは、企業による協創/共創を目的としたコワーキングスペースとして、これまでにない取り組みを実施している施設です。参加企業の従業員も利用可能で、各社のさまざまなビジネスにも活用されています。
働く時間と場所の変化が「働きやすさ」を変える
――本題に入る前に、みなさんの自己紹介とpoint 0 marunouchi(以下、point 0 )で取り組んでいるプロジェクト、普段の仕事内容などについて教えてください。
――それではさっそく本題です。コロナ禍でリモートワークが普及し、オフィスでもない、自宅でもないpoint 0のようなサードプレイスの活用も進んでいます。多様な働きかたが増えた中、みなさんは、どんなことに「働きやすさ」を感じますか。
濵村:働く場所を自由に選べることですね。例えば、社外共創で大学の研究室と取り組んでいることもあるので「この日は大学で仕事しよう」とか。働きやすさだけでなく、仕事とプライベートの両立にもつながると思います。
竹本:私は、業務に対する自由度ですね。以前いた営業部門では、毎日のように出社していました。今は企画部門に異動して、業務内容の変化が影響しているかもしれません。子どもが幼稚園に通っているんですが、仕事を調整して私が送り迎えをする日もあります。働く時間や場所を主体的にコントロールできれば、働きやすいですよね。
塙:丹青社は事業内容上、施設の現場担当者は数か月オフィスに出社しないこともあります。竹本さんが言うように、主体的であるためには周りの理解も大事ですよね。「あの仕事を担当しているから、こういう働きかただよね」と、お互いの働きかたを認める企業文化も重要だと思います。
長尾:私はコロナ禍の2020年に入社しました。リモートが普及して働きかたが変わった……というよりは、最初から選べることが普通でした。業務の内容で場所を変えたり、働く時間を調整したり、選択肢の広さは働きやすさにつながると思います。
サードプレイスとしてpoint 0が変えた「働きかた」とは?
――では、みなさんの会社がpoint 0に参画したことで、働きかたにどんな変化がありましたか。
塙:会社と訪問先だけでなく、サードプレイス活用が当たり前になりましたね。point 0の参画企業は、事業主様でもないし、協力会社でもない。社内の同僚とも違う。けれど、目的が合えば共創パートナーになる。そういう関係性は、場所以上の意味があると感じています。
竹本:私も同感です。普段の仕事だと受発注の関係になりがちですが、point 0は各社がフラットな関係。いろいろな会社の考えかた・働きかたが見えてくるので、自社の物差しだけで見ることもなくなります。
――他社との関りで視点が広がるわけですね。何か具体的な例はありますか。
竹本:どの会社でも他社のやり方が気になる点はあると思います。例えば、コロナ禍の働きかたは、何が正解かわからず、探り探りでしたよね。そんなときに「あの会社はこれがOKでしたよ。ウチもやりませんか」みたいなことは、上司に話したときに同意が得やすかったですね。
濵村:フラットな関係という点では、point 0には、全員「さん付け」で呼ぶルールがありますよね。他にもランチ会や部活など、異業種交流の取り組みがたくさんあります。私も取り組みを参考に、社内の交流促進を実施しました。
長尾:私にとってpoint 0は居心地がよくて、いろいろなトライをしやすい環境です。協創や共創への理解があるので、実証実験も快く受け入れてくれます。自社内だけよりも、いろいろな会社の方が協力してくれると多様なデータが取れます。
――働く場所としてのサードプレイスのメリットもありますが、どんな人と働くか、どんなふうに働くか、という要素も働きかたや働きやすさに影響ありそうですね。
長谷川:企業文化も考え方も違う人たちが集まっているのが、point 0の特徴です。しかも共創だけを目的とするのではなく、その先の事業化を目指して活動しているから、メンバーの真剣度も高いですね。
――共創の先にゴールがある点は、みなさんの働きかたにも影響を与えているんですね。そんなpoint 0では、「働く」の再定義をキーワードとして挙げています。「働く」の再定義、みなさんはどうとらえていますか。
濵村:私は現在、妻と2人暮らしです。もしこの先、子どもが生まれたら育児のために在宅勤務の頻度が増えるかもしれません。ライフステージやライフスタイルにあわせて、最適な働きかたに変えていくことが再定義のイメージです。
竹本:私は普段の仕事で、モノ的な価値より、意味的な価値、つまり体験価値をどう売っていくか、について考えています。商売の方法に付随して、「働く」の定義も変わっていくのではないでしょうか。
塙:そうですね。周りの人やビジネス環境の影響もありますよね。働く場所や時間、付き合う人、転職を含めた職場、リスキリングもそうかもしれない。能動的に環境を変えていくことが「働く」の再定義なのかなと個人的には思いますね。
長尾:一方で、自分に合う働きかたとして最適な選択ができる人と、自由だけれど何を選べばいいかわからない人が出てきそうですね。なので、私にとっての再定義は、働きかたの選択肢に対して、それぞれのメリットとデメリットをふまえて、協力しながら働くことですね。
長谷川:みんなが言うように、「働きかたを自由に選んでいい」となったとき、何を軸に選ぶか、そこが重要です。ゴールから逆算して、「どこで何をやったら成果が出るのか」を考えることも大事。つまり、「成果の出しやすさ」で働きかたや場所を変えていく。生産性を高められる場所と働きかたの選択が、「働く」の再定義につながると思います。
point 0メンバーが考えるサードプレイスの活用と課題
――先ほどpoint 0の活用による働きかたの変化をうかがいましたが、いわゆるオフィスでもない、自宅でもない、point 0のような「サードプレイス」を活用するメリットについては、どのように感じていますか。塙:私は一人暮らしで、自宅で自分だけだと休みたくなってしまう(笑)。point 0はプライベートな空間ではないので人の目もありますし、会社での仕事モードとは少しちがう感覚で働けるのがいいところ。サードプレイスがあることで、仕事に向き合う真剣さの種類を使い分けられる感じがします。
竹本:それはありますね。パソコンに向かっているだけでは、いいアイデアが出てこないことも。point 0には個室やフリーアドレスのオープンスペース、カフェスペースなどがあるので、意図的に場所を変えると景色が変わって、違うインスピレーションを得られることもあります。逆にビジネスのアイデアを詰める段階になったら、オフィスで集中的に作業するほうが効果的な場合も。長谷川さんが言うように、「どこで仕事をしたら成果につながるか」という視点で使い分けていますね。
濵村:私はオフィスが大阪なので、point 0には出張で来ることがほとんど。point 0がなければ、用件の時間に訪問先に行き、終わったら大阪に帰っていたと思います。予定時間より早く来てpoint 0で過ごしたり、用事がなくても空き時間に立ち寄ったり。有効に時間を使えるのはメリットですね。最近はダイキン専用の部屋だけでなく、オープンスペースで過ごす時間も増えました。
長尾:オープンスペースは、過ごしやすいですよね。塙さんが言うように、人の目があって仕事モードになれるけれど、かといって過度な緊張感はないので。他のコワーキングだったら、少し席を外すときでも荷物に気を遣いますし、本来はそうすべきですが、point 0は知らない人ばかりではないので、気分的にも違います。
――各社、共創プロジェクトのメンバー以外でもpoint 0を活用できますが、反応はどうですか。
長尾:いわゆるコワーキングスペースとして活用しているオカムラ社員も多くいて、「居心地がいい」「過ごしやすい」「出張の際に立ち寄って作業ができて便利」という話を耳にします。point 0のオープンスペースで実証実験をしているプロジェクトも多く、久しぶりにテレワークで訪れたオカムラ社員が、レイアウトの変わりように驚くことも。自社オフィスにはない刺激を得られるのも、サードプレイスのメリットかもしれないですね。
――point 0の場合は、参画企業による異業種交流が、一般的なコワーキングスペースとは異なる点です。こうした異業種交流は、みなさんの仕事にどんな効果をもたらしていますか。
竹本:参画企業はpoint 0の運営に、事業化を目的に携わっています。ですから、担当者内で新しいアイデアを出したりや取り組みをするだけに終わらず、成果をしっかり出さなくては、という意識をそれぞれが持っていると思います。
濵村:そうですね。事業化という目的があるから、得意分野のかけ算で何かできないかと、常に考えています。各社の実証実験や取り組みは、新しいアイデアのヒントになっていますね。
塙:他社の技術や考え方、ビジネスモデルや研究開発のアプローチなどに触れて、視野が広がりましたね。他社のよさを知るとともに、「自分たちは、こういうことが得意なのかもしれない」みたいな自社のよさを再発見する効果もあると思います。
――ありがとうございます。point 0のサードプレイスとしての活用について、みなさんの実体験をもう少し教えてください。
長尾:新素材開発の共創では、point 0での会議が多かったですね。実験結果の振り返りなど、みんなで集まるときに東京・丸の内という立地は便利です。特に、研究開発拠点や生産拠点が地方や郊外にある会社は多いですからね。
竹本:最終目的は共創の事業化ですが、途中の段階では、とりあえずやってみる。うまくいかなくても、出た課題は次に活かせますから。「やってみよう」をやってみる。トライしやすい場所としてサードプレイスを使っています。
塙:竹本さんに共感するのは、トライアルに最適な点。社内だと、目標値や効果を細かく設定しないと進めない…… というケースも多くあります。point 0だと、「それ、いいね」と共感してもらえたら、実施までがスムーズでスピーディ。イノベーションを起こすには、こういう場所のほうがよいと思います。
濵村:あるとき、アサヒビールさんとのプロジェクトで、2時間の会議をしてから、オープンスペースで雑談していたんです。そうしたら話が盛り上がって、会議にいなかったメンバーも参加して、結局1時間半くらい話をしていました(笑)。そういう雑談から、新しい共創のアイデアが出てくることもあります。
長谷川:みんなが話してくれたとおり、point 0では、各社の担当者同士の「こんなこと、できたらいいよね!」は、「すぐやってみよう!」につながるんですよね。
――みなさん、大いにpoint 0を活用されていますね。一方で、サードプレイスだからこその課題と感じていることはありますか。
塙:会員型といっても、技術や情報、知的財産に関しては、point 0の参画企業が相手でもオープンにできるもの、そうでないものがあると思うんです。共創と情報セキュリティの両立という課題はあると思います。
長尾:社内で「point 0で他社と何をしているのかわかりにくい」という声を聞いたことがあります。会社として参画しているので、社内認知や理解度もさらにあげていきたいです。
竹本:塙さんから情報セキュリティの話がありましたが、ルールで縛りすぎると、point 0のよさが失われるジレンマもありますよね。例えば、point 0に限らず、これまでの大きなビジネスやイノベーションに対して、「そのアイデアは本当に密室で生まれたか?」と思うこともあります。事業化のための共創なので、情報の扱いかたに慣れていく必要もあると思います。
濵村:たしかに、ルールを決めるのか、柔軟に働けるようにするのか、これは課題ですね。point 0に限らず、サードプレイスをビジネスで活用できる価値ある場所にしていくためには、信頼の中で成果を上げていくことが必要かもしれないですね。
これからの「働きがい」を考えるうえでのキーワードは?
――point 0やサードプレイスの活用で、「働きかた」の変化はわかりました。そこで、働く場所や環境の違いが、「働きがい」にどれだけ影響しているのか、それぞれのご意見をお聞かせください。
塙:私にとっての働きがいは、2つあります。ひとつは、企画の立案から推進まで狙いどおりにいって、会社のためになったとき。もうひとつは、仲間から感謝されたとき。例えば、商談の場に同席して説明をしたあとで「おかげでお客様にしっかり伝わった」と営業担当者に言われると嬉しいですね。そういう視点からも、企画やインプットという、働きがいにつながる環境は重要です。
竹本:今の業務における働きがいは、すべて自分でできるところ。自分で決められる自由と責任ですかね。Point 0は、気軽に第三者の意見を聞けるので、在宅勤務では、生まれていないアイデアもあると思います。
濵村:私にとって、研究開発のおもしろさは、わからなかったことがわかること。仮説を立て、実験して、検証する。データを見ながら、仮説どおりにできたか、できないか、その理由を考えているときが一番楽しいです。そういうことをできる環境が、私にとって働きがいのある場所ですね。
長尾:今の業務だと、担当製品に関わるシステムの課題を解決したとき、やりきった感があります。そして、次に同じような課題が発生しても「対応できるだろう」という手応えというか、成長を実感すると働きがいを感じます。自分が先陣をきって、システムの開発からできるステージに立てたら、働きがいも大きくなる気がしています。ステップアップしていきたいですね。
――ありがとうございます。最後の質問です。今日うかがってきたように働きかたも多様化が進んでいくと思いますが、この先の「働きがい」は、どんなことがキーワードになってくると予想しますか。
濵村:画面越しのリモート会議は普通になりました。その先には、拡張現実が来るのかもしれないですね。そうすると、「遠隔でいかに密なコミュニケーションを取れるか」が、キーワードになってくると思います。また、もっと共創が広まったら、サッカーのレンタル移籍のような感じで、外部出向がオープンになるかもしれません。「このプロジェクトのために、1年この人を貸してください」というような(笑)。
竹本:マーケティング職や営業職、企画職のように、役職や職種の名詞で仕事を考えるのではなく、「人を楽しませたい」「人が喜ぶ顔が見たい」というように、「仕事を動詞で考えること」が未来の働きがいになると思っています。動詞で考えられると、「うちの部門の業務範囲はここまで」と線引きすることがなくなって、より主体性が出てくるのでないでしょうか。
――役職・職種ではなく、何をするか。おもしろい視点ですね。
塙:私のキーワードは「余白」と「自律」ですね。みなさんも同じだと思いますが、スケジュールに余白がないんですよ(笑)。「いつトイレに行けるの?」というくらい会議が詰まっていて。それで成果を出せているところもあるし、否定はしないですが、「何か新しいことにチャレンジし続けられるか?」と問われたら難しい面もあると思うんです。サードプレイスの存在は精神的な余白につながります。ただ、余白がありすぎると流されてしまうので、自分を律することも必要ですね。
長尾:社会の価値観が変化するスピードはどんどん早くなるでしょうから、変化に対応する「柔軟性」がキーワードだと考えています。変化に対して、自分に合うものを取り入れたり、働きやすいスタイルをつくったり、そういう「柔軟性」が大事になってくると思います。
長谷川:私は「幸福度」がキーワードだと考えています。幸福度が高ければ、結果的に生産性も向上する。幸福度が上がる働きかたをどう見つけるかが、肝心。私にとっては、point 0に関わるメンバーの成長を見ていくことも、幸福度につながる働きかたの実現のひとつです。
みなさんの話をうかがって、point 0での取り組みは、企業における働きかたの新しいモデルになっていると感じました。働く場所として、オフィスとも自宅とも違う空間であり、そこにいるメンバーは自分たちと異なる会社の人たち。しかも、会社の壁を越えて、他社との協創・共創による事業化を目的としている。「人が活きる」ための働きかたを考えるオカムラとしても、自社だけではできないチャレンジは意義深いものだと思います。座談会の中で、「自社とは異なる物差しで視野が広がった」という話がありましたが、編集部としても、メンバーのみなさんの言葉から、新しい働きかた、働きがいのヒントを得たように思います。(編集部)