「人が活きる社会の実現」を目指す、株式会社オカムラ。ここでいう「人」は、世間一般の人々、顧客、そしてオカムラで働く私たち自身も含みます。このシリーズでは、「人が活きる」組織となっていくための、オカムラの進化や変革にスポットをあてて紹介します。
釜石ワーケーションのキーマンに聞く
オカムラグループは経営理念「オカムラウェイ」を通じて、全ての人々が笑顔で活き活きと働き暮らす社会の実現に貢献していきます。
今夏、グループ会社の株式会社エヌエスオカムラの拠点である岩手県釜石市で、従業員向けサステナビリティ研修が実施されました。釜石ではグループ会社があることに加えて、釜石市、株式会社かまいしDMC、日鉄興和不動産株式会社、オカムラの4者によるワーケーション事業を展開しています。
今回、釜石という地からオカムラグループが関わる二つの取り組みについて、二回にわたりお伝えします。
前編の「サステナビリティ研修 in 釜石・エヌエスオカムラ」レポートに続いて、後編では地方創生とこれからのワークスタイルの研究・提案にむけて展開するワーケーション事業について、キーマン二人にお話を伺いました。
釜石市で展開する、官民協業のワーケーション事業とは
「ラーニング・ワーケーション」プログラム、施設「Nemaru Port」を展開
2021年、釜石市、かまいしDMC、日鉄興和不動産、オカムラは、地方創生とこれからのワークスタイルの研究・提案を目的として、釜石市でのワーケーション事業実施における包括連携協定を締結しました。4者各々が知見やノウハウを提供し合い、具体例としてはワーケーション施設「Nemaru Port（ねまるポート）」を開設、大都市圏のワーカーによる利用を想定し、さまざまなトライアルを行っています。同時に、ワーケーションプログラム「ラーニング・ワーケーション in 釜石」を通じ、自然体験・地域貢献に関連する研修など釜石ならではの体験ができる環境を整備。釜石市のさまざまな人・団体等と連携してワーカーや企業の新たなイノベーション、ビジネスチャンスをつくる活動をしています。これまでに多くの企業がラーニング・ワーケーションを体験しており、実施後アンケートなどからは非常に満足度が高いという結果が出ています。
震災復興で得たつながりをオープンイノベーションに活かす
キーマンが語る① 「ワーケーション事業を地域活性・人口減の対応策に」
ワーケーション事業の推進は、釜石市の「オープンシティ戦略」の一環です。東日本大震災後、復興へのプロセスを通じて得たさまざまなつながり。このつながりを一過性に終わらせず、釜石に関わり続ける可能性を最大化し、地域内外の交流を通じてオープンイノベーションを生むことで、自律的なサイクルの構築を目指しているのです。
事業推進を担当されている、釜石市 総務企画部総合政策課 オープンシティ推進室の神山 篤さんにお話を伺いました。
神山 篤さん
「人口が減っていくこと自体は仕方のないこととはいえ、釜石市に関わる活動やつながりを持つ『つながり人口』が増えることで、減少を緩和したいと考えています」
震災後、釜石には復興をめざす過程で多くの知見や人材が集まったそうです。
「得た知見や人材を一時的なもので終わらせてしまうのは非常にもったいない。このつながりを地域活性に展開し、人口減という課題への対応策としていきたいと考えています」と神山さん。
実践の手段として、ワーケーション事業の有効性を神山さんは実感しているそうです。
オープンシティ戦略のもと、都市部の企業や大学とのパートナーシップを構築し、ワーケーションをはじめインターン等でも多くの社会人や学生が釜石市を訪れており、「学びの場」としての関心が高まっています。市全体を屋根のない博物館と見立て、人や自然、文化、歴史を体験できる「釜石市オープン・フィールド・ミュージアム」構想の実現に向けた取り組みを進めています。
「釜石にはもともと、鉄鋼業に携わるためさまざまな地域から集まる人を迎え入れてきた風土がありました。製鉄所があったことで第二次世界大戦時は日本本土で初めて米軍から艦砲射撃を受けましたが、戦後内外の協力を得て復興してきた歴史もあります。ここには温泉などのいわゆる観光資源はないけれど、こういった釜石ならではの場所と人の特色が強み。オープン・フィールド・ミュージアムで体験できる対象は、釜石の『人』も含みます。いろいろな場所や人とのつながりを広げて、新しい流れが生まれていけば、と考えています」（神山さん）
震災の復興にあたっては、その地域自体をはじめ、地域外とともに進めた取り組みや、外部から得た知見も多くあったとのこと。神山さんのお話からは、この貴重なつながりを継続し、今後の地域活性化につなげるという釜石市の強い姿勢が伝わりました。
グループ会社のエヌエスオカムラという拠点をもち、釜石とゆかりが深いこともあり、オカムラもこの取り組みに参画しています。ワーケーション事業での協業と同時に、オカムラ従業員がねまるポートでテレワークをしたり、研修を受講することが、釜石とのつながり人口になるきっかけとなります。今後も連携していくメンバーが増えていくことでしょう。
「ラーニング・ワーケーション」を通じた学びを、仕事に対する気づきにつなげる
キーマンが語る② 「ワーケーションでの“学び”を新たな知見が生まれるきっかけに」
釜石市のワーケーション事業は「ラーニング・ワーケーション in 釜石」の名のもと、震災を経験した釜石だからこそ提供できる震災関連の研修プログラムから、リーダー人材育成やチームビルディング、防災意識の向上、また持続可能な観光実践の先進地から学ぶSDGsなど、企業課題の解決に貢献することを目指しています。研修プログラムの他にも、非日常体験がリフレッシュだけではなく、チームの結束に寄与するという考えのもと、漁業など第一産業を活用したアクティビティ体験など、多様なプログラムを展開しています。研修プログラムを提供する株式会社かまいしDMC 代表取締役の河東 英宜さんに、これまでの4者ワーケーション事業の取り組みと今後について伺いました。
河東 英宜さん
この4者の役割について、河東さんは「それぞれの目的がありながらも、中心には釜石での共創を通じてイノベーションの芽を育てる、というぶれない共通目標があります。お互いの知見を共有し、“しなやか”に連携しながら、事業を展開しています」と言います。
オカムラで今夏実施した「サステナビリティ研修 in 釜石・エヌエスオカムラ」では、一部でかまいしDMC提供の研修プログラムを取り入れました。震災伝承と防災について学ぶ「いのちをつなぐ未来館」訪問や2019年ラグビーワールドカップの試合も行われた「釡石鵜住居（うのすまい）復興スタジアム」を見学、地元漁師の方の案内で漁船に乗る漁業体験など多様なプログラムを通じて震災の記憶と復興を知り、釜石の自然も体感しました。
2021年の協業開始以降、2023年3月末時点で24社、175人が釜石でのワーケーションに参加しました。今年に入ってからはさらに多くの人が釜石に来訪しているとのこと。
「ある自動車会社は今年6回もこちらでワーケーションを開催していて、地域の交通課題についてのヒアリングなども実施しています。従業員の家族も一緒に来てボランティアをするという企業もありますし、プログラムの内容は多岐にわたります」と河東さん。
主に首都圏からのワーカーや学生の参加が多く、災害時の学びからは防災やリーダーシップ、チームビルディングについてのインプットや、また自然に触れることでウェルネスやモチベーションなど、さまざまなものを持ち帰り、仕事や勉強に活かしてもらっているそうです。
今回オカムラで実施した研修に組み込まれていた「いのちをつなぐ未来館」訪問時、かまいしDMCスタッフの佐々さんから実体験を交えた震災時のエピソードを伺いました。亡くなった市民も多く出たという当時の状況を聞いた時は、思わず涙ぐむ参加者もいました。同時に、震災から得た教訓や防災教育の重要性をメインに伝えることで、エピソードが心象に残るだけに終わらず、教育やチームビルディング、リーダーシップ育成という面からの学びにもなり、それを所属組織や家庭で活かそうと思える内容でした。まさに施設だけでなく、釜石の人も含めての「釜石市オープン・フィールド・ミュージアム」実践です。
実際に訪れ体験することで得た学びを持ち帰り、自身の今後に反映する釜石でのワーケーション。多くの人に参加してほしいと思うと同時に、コロナ禍を経た今、参加希望も増加していることでしょう。オカムラからの研修参加者がテレワークで立ち寄ったねまるポートは、もともと和菓子屋さんだった建物を改装した素敵なところですが、規模は小さな施設です。これからの予定についても伺いました。
ワーケーション事業拡大にむけた取り組みの一つとして、新たなワーケーション施設を作ることが検討されているそうです。事業スタート時点で開設したねまるポートとは違うタイプの、50名ほどの受け入れが可能になる予定とのこと。今は2025年開設に向け施設設計から検討している段階で、設計者の公募も実施しました。
「施設の建設自体が目的ではなく、また新施設は宿泊や食事をする場所にはなりません。ワーケーション参加者が現地のお店で食事したり、宿泊をすることは地域活性化につながりますし、釜石での体験の一つでもあるからです」と河東さん。新しい研修施設で、どんな取り組みが行われるかこそが重要だと言います。
「私たちは『サステナブル・ラボ』と呼んでいますが、日常とは違う場所や人との交流といったプログラムを通じての『越境研修』が、参加者や釜石にとって新たな知見が生まれるきっかけになればと思っています」（河東さん）
釜石ワーケーションのキーマンからお話を聞いて
ワーケーションの定義はさまざまですが、釜石という場所を実際に訪れテレワークをしながら、その場所ならではのできごとや人と向き合う越境研修を体験する。そこで得たものを所属する組織で活かすラーニング・ワーケーションは、多くのワーカーにとってよいインプットにつながります。オカムラの「サステナビリティ研修 in 釜石・エヌエスオカムラ」においても、サステナビリティのインプットを増やしたい、地域活性化について実際に体験したいと意欲をもつ従業員が手をあげて参加し、数年後には新ワーケーション施設で研修参加者、地元エヌエスオカムラのメンバーと一緒に学びやアイデアを共有するシーンが見られるでしょう。そこから釜石で、オカムラグループ内で取り組むべき新しい提案が生まれ、主体的な実践へとつながっていくかもしれません。