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為末大×社長・中村雅行 「人が活きる」社会に、いま何が必要か?〈後編〉

2022.08.23

株式会社オカムラは、経営理念「オカムラウェイ」のもと、「人が活きる」社会の実現をめざしています。そのオカムラウェイをテーマに、さまざまな角度からオカムラがこの先めざす姿を紹介していくのが、連載「Okamura Way and Beyond」です。

前編に引き続き、元プロ陸上選手・為末大氏と株式会社オカムラ 代表取締役 社長執行役員・中村雅行の対談をお届けします。二人のトークは、ビジネスパーソンも共感できるオリンピアンの取り組みや考え方から、テクノロジーの進化がもたらすこれからの時代における「人の役割」まで広がります。
2021年6月取材

オリンピアンに学ぶ、目標設定のコツ

為末大(以下、為末):先ほど(前編参照)中村社長が「オカムラウェイ」の根幹にあるとおっしゃった「人が自分らしく活きる社会の実現」。とても素晴らしい考えだと思うのですが、「人が活きる」、その“活かし方”は難しい問題ですよね。アスリートの世界では、選手のサポート体制が盤石になるにつれて、タイムが伸び悩むという皮肉な状態に陥ることがあります。

中村雅行(以下、中村):選手の自主性がなくなり、コーチが手取り足取り教えるようになって伸び悩んでしまうんですね。

為末:そうですね。また、練習の取り組み方でも変わってきます。例えば陸上では、インターハイで優勝する選手を多数抱える高校と、オリンピアンを輩出する高校は必ずしも合致しません。その理由を私が考えるに、インターハイで勝つためにはある種のセオリーがあって、それに沿った画一的な練習に取り組むことで、結果は出る。でも高校時代という“時点”でトップになるためにハードな練習をするので、そこが選手のピークになってしまう。一方、オリンピアンになった選手は、インターハイに勝つためのセオリーではなく、自分で地道に考えながら練習してきたケースが多いんです。

中村:なるほど。面白いですね。
 
「オリンピアンに多い、毎日の小さな目標を具体的にイメージして取り組むスタイルは、ビジネスパーソンにも応用できる」(為末氏)
「オリンピアンに多い、毎日の小さな目標を具体的にイメージして取り組むスタイルは、ビジネスパーソンにも応用できる」(為末氏)

為末:さらに興味深い話もあります。以前、約10人のオリンピアンに、共通点を探ろうとインタビューをしました。その結果、子供の頃からオリンピック出場を明確にめざしていた選手はほとんどいなかった。一方、全員に共通していたのが、毎日練習場に行く前に、その日のトレーニング内容、意識する点を明確にしていたことでした。言い換えれば、漠然とした大きな目標よりも、小さな目標、その日の練習の目的を意識できる人の方が伸びるのではないかと思いました。

中村:そうかもしれません。ビジネスでも、日々明確な課題をもって仕事をする、その積み重ねが結果として大きな目標の達成につながると思います。一方、アスリートの世界との違いとして、ビジネスは集団で戦っている点があります。もちろん、一人ひとりが真剣にやらないといけないわけですが。

為末:その点、陸上界、特に個人競技を専門にする選手は、目標に向かって圧倒的な努力を積み上げられる人こそ多いですが、人と協力するのが苦手な人が少なくないんです(笑)。
 

為末大が語る、アスリートが失敗に寛容な理由とは?

為末:とはいえ、同じ陸上でも、リレーにはチームプレーが求められます。リレーを見ていて思うのですが、チームワークを最大化する秘訣は、各メンバーが自分の特性を客観的に知ることにあるのかなと。メンバーが自己評価に固執して、その人に対するチームメイトからの評価がズレていると、メンバーの得意・不得意を埋め合わせられないので、チーム力が最大化されない。その意味では、自分を正しく知ることが、チームに貢献するためのスタートラインだと思います。

中村:会社でも同じことが言えますね。多くの人が自分で自分を評価してしまう。「一生懸命やっているのになんで評価されないんだ」って。でもそれは自己評価です。「自分が活きる」ためには、自分を知る。他人からの評価にこそ耳を傾けなければいけないと思うんです。

為末:そうですね。ただ、「自分を知る」という言葉には誤解も多いと思うのです。自分の客観的特性を知ること、周囲に知られることを「自分の弱さを認めれば周囲からの信頼を失う」と考える人が少なくないんです。でもそうではない。自分の等身大を正しく認識できてこそ、進むべき道が見えてきます

中村:自分の等身大を知るということは、ビジネスパーソンでも大事な視点ですね。つまり、「あなたは何ができるのか?」という問いに、明確に答えられるか。自分が今やっていることを確実に自分のものにして、専門性を高めていく。その積み重ねが、会社の成長と「人が活きる」社会の実現につながるのではないかと思います。
 
「ビジネスはロマン。白いキャンバスに絵を描くようなもの。苦しくても、次への情熱をもつ。それが活き活き働く秘訣だと思う」(中村)
「ビジネスはロマン。白いキャンバスに絵を描くようなもの。苦しくても、次への情熱をもつ。それが活き活き働く秘訣だと思う」(中村)

為末:「人が活きる」社会を実現するうえで、社会の思い込みも変えていく必要があると思います。例えば、男子100mで桐生(祥秀)選手が日本人で初めて9秒台を記録したら、一気にサニブラウン選手、小池(祐貴)選手……と続きましたよね。その意味で、社会で限界とされているもの、あるいは思い込みが一度でも外れれば、社会もガラッと変わるんじゃないかと。ただ、そこで足かせになるのが、日本社会における失敗に対する寛容度の低さです。失敗に対するとらえ方が変われば、もっとチャレンジする人も増えると思うのですが……。

中村:ビジネスでも、失敗を恐れるあまり、チャレンジしないケースが少なくありません。たしかに、事業は利益を出して、黒字になるまでが一番苦労します。オカムラも、現在利益を出している事業のほとんどが、もともと赤字でしたから。それでも、先人たちが耐えて、続けてきたからこそ、今がある。努力したうえでの失敗には寛容であるべき。積極的にチャレンジして、会社の財産にしなければ、花は咲きません。会社で失敗への寛容度を高めるには、そうしたバックグラウンド、先人たちの挑戦した息吹みたいなものを感じる、知るというのは大切かもしれません。

為末:そうかもしれませんね。ちなみに寛容度という点では、アスリートは失敗に対する耐性が強いと思います。負けた選手や、新しい取り組みをしている選手を揶揄する選手はいません。なぜかといえば、「明日は我が身」ということを知っているからではないかと。自分以外もハードな練習に取り組んでいること、結果を出すために試行錯誤していることを知っているから、周囲への寛容度も高まるんだと思います。
 

AIの時代だからこそ、「人にしかできないこと」を考える

中村:人が活き活きと働くためには、そうした失敗への寛容さに加えて、会社が多様性を受け入れる環境でなければいけないと思います。例えば、みんなでりんごを切ったとします。その際、みんながみんな同じ切り口の会社からは、なかなか新しいアイデアが生まれない。だから私は、社内でよく「はみ出しなさい」と言っているんです。これは極論ですが、創業者である元会長の吉原謙二郎は、人が集まる空間を提供したいからと、しゃぶしゃぶの店をやりたいと言っていました。実現こそしませんでしたが(笑)。
 
「オカムラウェイ」を紹介したフライヤーを手に取った為末氏が注目したのは、基本姿勢の「SMILE」。
「オカムラウェイ」を紹介したフライヤーを手に取った為末氏が注目したのは、基本姿勢の「SMILE」。

為末:オカムラの基本姿勢「SMILE」に当てはめれば、「More」を体現していますね(笑)。ところで、私は「SMILE」を拝見したとき、行動規範というだけでなく、従業員の充実感につながるような内発的なメッセージでもあると思いました。概して引退が近づいたアスリートはキャリアの終わりが見えてきた段階で、オリンピックで金メダルを取るのが難しいことを悟る。その中で、彼ら、彼女らが思うのは、「自分は悔いが残らないほどやれただろうか」ということなんです。それをクリアした自負があれば、笑顔で引退できる。この姿勢は、「SMILE」に込められたメッセージに近いんじゃないかと思います。
 
オカムラの基本姿勢「SMILE」。Shine、More、Imagine、Link、Expertの頭文字から。
オカムラの基本姿勢「SMILE」。Shine、More、Imagine、Link、Expertの頭文字から。

中村:そうかもしれません。何より私は、オカムラで働く人に前向きな気持ちを持ち続けてほしいんです。もちろん、何に満足するかという点は人によって異なると思いますが、「どうしたら良くなるか」というセンス・オブ・ワンダーを持って、高みをめざしてチャレンジしてほしい。心の持ちようによって、人の成長、充実感はまるで違ってきますから。

為末:近年、激動する社会にあって、マルクス※を読む人が多いと聞きます。その背景に、AIなどが発達していった未来、「人間はロボットに、とってかわられるのではないか」という恐れがあると思うんです。裏を返せば、現代は、「人間にしかできないこと」について多くの人が考えている時代。テクノロジーを受け入れながらも、人間だからこそつくれる価値、人間だからこそ得られる充足感、人間らしさが大切にされる社会になってほしいと思います。

※:カール・マルクス。ドイツ出身の哲学者、経済学者。資本主義社会を分析した著書『資本論』で知られる。


中村:そのとおりです。最新技術によって、それまで10時間かかっていたことが1時間で済むようになれば、空いた9時間を別のことにあてられる。そういった技術開発は豊かな社会につながります。

為末:技術開発と言えば、この施設には競技用義足開発のデータ解析や工作作業を行うラボラトリーを併設しているんです。私は、社会で「人が活きる」には、みんなでサポートするだけでなく、思い込みによる「壁」を取り払っていくことの方が重要なのではないかと考えています。その中で、着目したのがアスリート用の義足でした。義足によって「壁」を取り払えば、いつか義足のアスリートが勝つ時代がくるかもしれません。この事業には、そんな想いを込めて取り組んでいます。

中村:「壁」を取り払う姿勢は大切ですね。オカムラも、ものをつくって売るメーカーから、視野を広く持ち見方を変えることで、例えばオフィス事業で言えば、働き方自体を含め広く提案をおこなうトータルソリューション企業に変わってきました。今後はさらにオフィスや商業施設、物流施設、公共施設とさまざまな環境を「人が活きる」という視点から考えて、社会を豊かにしていくことに貢献したいと考えています。
 
「腰やひざを痛めるアスリートは多い」と為末氏。対談後、オカムラのサイトを見ながら中村がイスの機能を説明する場面も。
「腰やひざを痛めるアスリートは多い」と為末氏。対談後、オカムラのサイトを見ながら中村がイスの機能を説明する場面も。

対談後記

後編では、「人が活きる」を実践していくうえで、目標設定や失敗への寛容性、活き活きとした働き方など、具体的なアクションのヒントがいくつも飛び出しました。なかでも、テクノロジーの進化にともなう人の役割は、未来を考えるうえでアスリートやビジネスパーソンといった垣根を越えて考える必要があるように思いました。
 

Profile

為末大
Deportare Partners代表/元陸上選手
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2022年7月現在)。現在は執筆活動、会社経営を行う。Deportare Partners代表。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。Youtube為末大学(Tamesue Academy)を運営。国連ユニタール親善大使。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。

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