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為末大×社長・中村雅行 「人が活きる」社会に、いま何が必要か?〈前編〉

2022.08.16

株式会社オカムラは、経営理念「オカムラウェイ」のもと、「人が活きる」社会の実現をめざしています。そのオカムラウェイをテーマに、さまざまな角度からオカムラがこの先めざす姿を紹介していくのが、本連載「Okamura Way and Beyond」です。

今回は、元プロ陸上選手・為末大氏と株式会社オカムラ 代表取締役 社長執行役員・中村雅行の対談をお届けします。為末氏は、オリンピアンとして自分を磨き上げたアスリート時代を経て、現在は執筆活動、会社経営に携わっています。自分も会社も活かす、そんな為末氏の姿は「オカムラウェイ」に通じる点があるかもしれません。アスリートと経営者、二人の対話から、未来の「人が活きる」社会に必要なことを探ります。

2021年6月取材

オリンピアン・為末大を支えた「言葉」の力とは?

中村雅行(以下、中村):為末さんの著書『諦める力』(プレジデント社)を読ませていただきました。私が普段社内に伝えている内容と共通点が多く、大変興味深かったです。

為末大(以下、為末):ありがとうございます。概してアスリートは、「勝つ」という目標に対して直線的に向かっていきます。とはいえ、合理的に、迷いなく目標に邁進できるかといえば、そうではありません。私の現役時代を振り返っても、陸上で勝つために100mを諦めてハードルに転向した際など、数々の迷いに直面しました。そうした「現実」と「自分らしさ」の狭間の葛藤、悩む環境を伝えたかったんです。

中村:私も経営判断に悩むことは少なくありません。その際、私が立ち返る拠り所がオカムラの経営理念です。同じように、オカムラで働く人にとっての判断の拠り所を明確化すべく、今回オカムラウェイを策定する運びとなりました。そうした“哲学”を共有することで、一人ひとりが「自分らしく」働きながら、チームとして目標に向かっていける。その想いが社内に、ゆくゆくは社外に広がることで、人が自分らしく活きる社会の実現につながるのではないかと。
 
為末氏(左)と中村。対談は、為末氏が館長を務める「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」で行われた。
為末氏(左)と中村。対談は、為末氏が館長を務める「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」で行われた。

為末:「人が活きる」社会の実現ですね。

中村:そうです。「ミッション」「オカムラ宣言」「私たちの基本姿勢」の3つからなる「オカムラウェイ」も、人が活きる社会の実現が根幹にあるんです。言わば、オカムラの製品・サービスからソリューションまで、すべてに一貫しているバックボーンです。
 
オカムラウェイを通じて、すべての人々が笑顔で活き活きと働き暮らせる社会の実現に貢献。
オカムラウェイを通じて、すべての人々が笑顔で活き活きと働き暮らせる社会の実現に貢献。

為末:今回の対談にあたって「オカムラウェイ」を拝見いたしましたが、私も共感する言葉が多くありました。ある種の哲学という点で、多くのアスリートが座右の銘を持ち、それに“なりきる”ことに通じるかもしれません。私の場合、「これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如(し)かず※1」という孔子の言葉でした。これを私は、「自分がやっていることを楽しめば、自然に困難を乗り越えていける」と解釈した。だから、陸上をとことん楽しめる人間になろうと思ったんです。

※1:『論語』におさめられた言葉。「知っているというだけの人は、それを好きな人には及ばない。それを好きな人も、それを楽しむ人には及ばない」という意味。


中村:言葉に“なりきる”ことで、いつの間にかそれが自分のものになる。やはり言葉には力がありますよね。実は「オカムラウェイ」には、創業当時から受け継がれてきた、オカムラのチャレンジ精神とチームワークも反映されています。オカムラは戦後の激動期に、技術者たちが集い、資金や技術を出し合って創業した会社です。そうした中で、みんなで団結して、「よい品は結局おトクです」をモットーに、当時珍しかったスチール製のデスクや椅子を開発しました。このように、オカムラにはチームとして挑戦してきた歴史がある。メンバーが、それぞれのポジションで役割を全うしてきたからこそ、今があるんです。こうした良き精神を残しながら、これからの時代に必要なものを明文化したのが「オカムラウェイ」なんです。
 

アスリートとビジネスパーソンに共通する、「勘」の磨き方

中村:『諦める力』で印象的だったのが、「スポーツも人生も同じ。人生は舞台に立って演じているようなもの」という箇所。ビジネスパーソンでいえば、演じる舞台が「会社」なのだと思います。その舞台で追いつくことができない「差」がどうしても生まれる。

為末:はい、そうですね。実は意図していなかった反応があって、その書籍を読んだ中学生から、「この本を読んで陸上を諦めます! 陸上部を辞めます!」という声が寄せられたんです(笑)。私が言いたかったのはそういうことではありません。目標に向けて必死になって頑張れば、おのずと限界に直面します。そうした逆境に何度も直面し、葛藤していく中で、自分がわかってくる。自分の進むべき道が見えてくる。私のハードルへの転向もその葛藤から導き出された道だった、ということを伝えたかったんです。
 
「書籍では『やめる』を『選ぶ』と再定義した。それは努力した先、自分の価値観で選ぶという意味」(為末氏)
「書籍では『やめる』を『選ぶ』と再定義した。それは努力した先、自分の価値観で選ぶという意味」(為末氏)

中村:私も、人が成長する、何かを自分のものにするためには、夢中になって働く経験を積む必要があると思います。一方、スポーツの世界では明確な「差」がありますよね。例えばカール・ルイス(元男子100m世界記録保持者)と同時代に短距離をやっていたら、どうあがいても追いつけない差に打ちひしがれるのではないかと。

為末:そうですね。私でいえば、フェリックス・サンチェス(アテネ五輪金メダリスト)に対して絶対的な差を感じました。ただ、アスリートの場合、トップとの差に気づきながらも、それを見て見ぬ振りをして、トレーニングに励む人が多いかもしれません(笑)。ビジネスでいう埋められない差は、どういうものがありますか?

中村:それはアイデアです。例えば、「扇風機には羽がある」という固定観念を覆した、「羽のない扇風機」があります。あれはアイデアで差を生み出した好例かもしれません。要は新しい市場をつくれるかどうか。他社に「追いつけない」と思わせるような製品をつくると、市場ができて、売上と利益がついてくる。そのためには、為末さんの本にもあった、ある種の「勘」が大切です。ビジネスで活躍するためには、「経験」「知識」「勘」の3つが必要だと考えていて、なかでも「勘」の養い方が難しい。新しい市場を作るアイデアと少し矛盾しますが、最初は良いものを取り入れたり、真似したりすれば、新しいアイデアのきっかけとなる何かを学べると思います。

為末:真似をするにも、作法といいますか、難しさがありますよね。アスリートでいえば、長い間、手取り足取り教えてくれたコーチが離れた瞬間、その選手が伸びなくなるケースがある。そこでキーになるのが「揺さぶり」ではないかと。殻を破るために自分から、新しい環境に身を置いたり、新しい練習法を取り入れたりできるかが問われると思います。

中村:ビジネスでも同じですね。人間、数年同じ職場にいると、仕事を流す術を覚えてしまう。これでは成長が止まります。その点、新しい仕事につけば、否が応でもそれに適応する必要があるので、人は成長します。例えば、異動をどう考えるか。まったく違う分野に行くことを、従業員には自分にとって成長するチャンスととらえてほしいですね。
 

スポーツでもビジネスでも、成長する人に欠かせない「好奇心」

為末:中村社長から見て、成長し続ける人、伸び悩む人の違いはどこにあると思いますか?

中村:私の好きな言葉に「センス・オブ・ワンダー※2」があります。つまり、自分を取り巻く環境、自分が経験することすべてに対して、「なぜ、そうなっているのか?」という好奇心を持ち続けられるかどうか。この違いこそが、人の成長に大きく関係すると考えています。

※2:「神秘さや不思議さに驚嘆する感性」や「不思議な感動」を表す概念。アメリカの生物学者レイチェル・カーソン(1907年~1964年)の著作『The Sense of Wonder』から。

 

「人間は環境変化に適応する。ただ、好奇心がないと、あるところで止まってしまう人もいる」(中村)
「人間は環境変化に適応する。ただ、好奇心がないと、あるところで止まってしまう人もいる」(中村)

為末:なるほど。アスリートの世界で、日本代表レベルと、その手前で伸び悩むグループの差もそこにあるように思います。それを象徴するのが、アスリートに対するアドバイスの変化ですね。選手の成長期は「一生懸命やれ」と言われ、途中から「考えてやれ」と言われるようになる。そして成熟期以降は「馬鹿になれ」と。たしかに無邪気で好奇心の強い選手ほど、結果を出し続けるケースが多いように感じます。

中村:アスリートとして日本代表レベルになれるかどうか、その違いに通じますね。実際、好奇心や探究心が旺盛な人は、新しい発想を生み出したり、逆境を乗り越えたりしていける。そのマインドを持ち続けられる人は、ずっと成長していけるんです。

〈後編につづく〉
「新豊洲Brillaランニングスタジアム」は、全天候型60m陸上競技トラックとパラアスリートを支援する義足開発ラボラトリーが併設された、世界で初めてのユニークな施設です。
「新豊洲Brillaランニングスタジアム」は、全天候型60m陸上競技トラックとパラアスリートを支援する義足開発ラボラトリーが併設された、世界で初めてのユニークな施設です。

対談後記

前編では、言葉の持つ力、勘の磨き方、成長のために欠かせないポイントなど、アスリートと経営者、それぞれの立場から語りあってもらいました。為末氏がアスリート時代に得た「己の限界に直面した際、自分の進むべき道が見えてくる」という知見、長年オカムラを支えてきた中村が「オカムラウェイ」に込めた想い……。二人の対談には、ビジネスパーソンの仕事と働き方に活かせるヒントがいくつもあったように思います。後編では、オカムラが考える「人が活きる」を軸にしたトークの模様をお届けします。お楽しみに。
 

Profile

為末大
Deportare Partners代表/元陸上選手
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2022年7月現在)。現在は執筆活動、会社経営を行う。Deportare Partners代表。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。Youtube為末大学(Tamesue Academy)を運営。国連ユニタール親善大使。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。

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