オカムラは、探究学習プログラム「クエストエデュケーション」のうち、中高生と企業が本気で対話し、働く意義や経済活動を学ぶ「コーポレートアクセス」に2022年度から参画しています。オカムラの従業員が実際に学校を訪問し、生徒たちの探究学習のサポートに取り組んでいます。
2025年度のコーポレートアクセスの伴走役として初めて参加したのが、ワーク&ライフクリエイション事業本部で医療施設の空間設計を担う木村 牧子です。今回生徒たちに提示したオカムラのミッションは、「社会に『豊かな余白』を生み出すオカムラの新事業を提案せよ!」。正解のない問いに地道に取り組み、圧倒的な時間と思考の厚みをかけて自分たちの答えを導き出そうとする中高生たちの姿に、ある重要な原点を突きつけられたといいます。それは、効率や機能の先にある価値を生み出すために、本来どれほど徹底的に思考を掘り下げて提案をつくるべきかという、仕事への熱量とそのプロセスでした。プログラムへの参加を通じて得られたリアルな気づきをインタビューしました。
2026年6月取材
クエストエデュケーションの取り組みについてはこちらを参照
同僚の姿と親としての関心が、参加への背中を押した
――まずは、木村さんの普段のお仕事について教えてください。木村 牧子(以下、木村):普段は、病院やクリニックなど医療施設の設計を担当しています。待合や診察室のように患者さんが利用する場所から、手術室のような専門性の高い空間まで、病院空間に関する提案に携わっています。
ワーク&ライフクリエイション事業本部 ライフプレイスソリューション本部 施設設計部 木村 牧子
木村:最初のきっかけは、同僚が2年連続で参加していたことです。ミーティングなどで活動報告を聞く機会があり、参加している従業員も、生徒さんたちも、とても活き活きしているように見えました。その様子を聞くうちに、私も一度参加してみたいと思うようになりました。
また、個人的な関心もありました。私の子どもが小学4年生になり、そろそろ中学校や高校のことも少しずつ考える時期になってきたんです。学校見学でも学校の雰囲気はわかりますが、それでは見えない日常の様子や先生との関わり方を知りたいという気持ちがありました。
コーポレートアクセスであれば、実際の授業の中で生徒さんたちがどのように考え、話し、行動しているのかを見ることができます。そこにとても魅力を感じました。
――普段接する機会の少ない中高生と向き合うことに、不安はありませんでしたか。
「訪問前、どんな雰囲気で学んでいるか、どんな言葉なら受け取ってもらえるか、想像していた」(木村)
木村:ありましたね。今の中高生がどんな価値観を持ち、何を考えているのかわからないので、緊張もありました。コーポレートアクセスは、生徒さんたちの学びの場に入り、言葉を交わし、一緒に考える活動です。そもそも会話が成り立つのかな、面倒に思われないかなという不安はありました。
大人として何かを教えなければいけないと構えすぎても、生徒さんたちの考えを狭めてしまうかもしれません。一方で、ただ見守るだけでは、企業人として参加する意味が薄れてしまいます。その距離感をどう取るかは、参加前から気になっていました。
ただ、不安だけではなく、普段接することのない世代と話してみたい、今の中高生が何を考え、どのように生活しているのか知りたいという期待もありました。
――どのような準備をして学校を訪問していたのでしょうか。
木村:学校を訪問する前には、必ずホームページを見て、どのような特色がある学校なのか、授業はどのように構成されているのかを事前に確認するようにしていました。
また、コーポレートアクセスに関する各学校の取り組みの進度について資料が共有されます。それを事前に確認し、今の段階でどのような声かけをするのがよいかを考えてから現場に向かっていました。
大人として何かを教えなければいけないと構えすぎても、生徒さんたちの考えを狭めてしまうかもしれません。一方で、ただ見守るだけでは、企業人として参加する意味が薄れてしまいます。その距離感をどう取るかは、参加前から気になっていました。
ただ、不安だけではなく、普段接することのない世代と話してみたい、今の中高生が何を考え、どのように生活しているのか知りたいという期待もありました。
――どのような準備をして学校を訪問していたのでしょうか。
木村:学校を訪問する前には、必ずホームページを見て、どのような特色がある学校なのか、授業はどのように構成されているのかを事前に確認するようにしていました。
また、コーポレートアクセスに関する各学校の取り組みの進度について資料が共有されます。それを事前に確認し、今の段階でどのような声かけをするのがよいかを考えてから現場に向かっていました。
2025年度、オカムラのミッションは
「社会に『豊かな余白』を生み出すオカムラの新事業を提案せよ!」
今回のオカムラのミッションは、「タイパ・コスパ、効率化が重視される一方で、社会や日々の暮らしの中から余裕や余白が失われているのではないか」――そんな問題意識を背景に設定されました。効率だけでは測れない、「人が前向きに動き出す余地」にはどのような価値があるのか。生徒たちは、その問いを企業への新事業提案として探究しました。
従業員ワークで痛感した「余白」の捉え方の多様さ
――「社会に『豊かな余白』を生み出すオカムラの新事業を提案せよ!(以下、「豊かな余白」)」というミッションは、大人でもすぐに答えが出せるものではないように感じます。学校を訪問する前に、社内でも同じテーマに向き合う時間があったそうですね。木村:はい。生徒さんたちが取り組む前に、まずは私たち従業員自身も「豊かな余白」について考えてみようということで、コーポレートアクセスに参加する社内メンバーでグループワークを行いました。
まずは、「余白」から思いつく言葉を付箋にひたすら書き出し、ホワイトボードに貼りながら共有していきました。出てきた言葉をグルーピングしたり、言葉同士のつながりを話し合ったりしながら、それぞれの捉え方を広げていくような時間でした。
実際に体験してみると、言葉を出すことや、異なる発想を一つのコンセプトに集約することの難しさを痛感しました。業務上、普段から提案書を作成することが多いため、私は「余白」を紙面の美しさや調和といった二次元で捉えていました。一方、他のメンバーからは、時間軸や三次元、社会の文脈で捉える視点が出てきて驚きました。
事前にグループワークをしたことで、生徒さんがつまずきやすいポイントや、思考を促すための効果的なアプローチを、具体的にイメージできるようになりました。
自分たちでも「豊かな余白」について事前に考えた
「生徒の思考をかき乱すことで、『深く考える手前』で終わらせないように意識した」(木村)
木村:大切にしたのは、答えへ導くのではなく「考えを深める問い」を投げかけることです。具体的には、生徒さんの考えに対して、「それってどういうことだろうね?」と一緒に考える姿勢を大切にしていました。一見すると抽象的な言葉でも、「なぜその言葉が出てきたのか」「どんな場面を思い浮かべているのか」を聞いていくと、少しずつ背景が見えてきます。そのとき、大人の言葉に置き換えすぎないことを大切にしていました。
「それはこういうことだよね」とまとめてしまえば、会話は早く進みます。しかし、生徒さん自身が「自分たちは何を言いたかったのか」に気づく時間が失われてしまいます。だからこそ、あえて少し遠回りをしながら、生徒さんの言葉が出てくるのを待つようにしていました。この関わり方は、空間設計の仕事にも通じます。お客様が最初から答えを持っているとは限りません。対話を通じて「まだ言葉にならない要望」を少しずつ形にしていくプロセスは、まさに日々の仕事の姿勢そのものでした。
「それはこういうことだよね」とまとめてしまえば、会話は早く進みます。しかし、生徒さん自身が「自分たちは何を言いたかったのか」に気づく時間が失われてしまいます。だからこそ、あえて少し遠回りをしながら、生徒さんの言葉が出てくるのを待つようにしていました。この関わり方は、空間設計の仕事にも通じます。お客様が最初から答えを持っているとは限りません。対話を通じて「まだ言葉にならない要望」を少しずつ形にしていくプロセスは、まさに日々の仕事の姿勢そのものでした。
答えを急がず、生徒自身の言葉が出てくるのを待つ
――生徒さんたちとの関わりで、最初に感じたことはありますか。木村:最初に印象的だったのは、生徒さんたちが「豊かな余白」というテーマを、自分たちの身近な感覚から捉えようとしていたことです。大人のワークでは、比較的ポジティブで抽象度の高い言葉が多く出ていましたが、生徒さんたちは「自由」や「ゆとり」など、いま自分たちがリアルに欲しているものに目を向けている印象でした。
大人は経験がある分、言葉の引き出しも多く、アイデアを広げやすいところがあります。一方で、生徒さんたちは「自分が今どう感じているか」を言葉にする経験がまだ少ないため、どうしても身近な言葉で止まりがちになります。その差が、言葉の選び方にも表れていました。
――生徒さんたちなりのリアルな感覚が、「豊かな余白」の捉え方にも表れていたのですね。そこから木村さんはどのような伴走を意識し、生徒さんたちにはどのような変化が見られましたか。
木村:すぐ答えを与えるのではなく、「それはどういう状態なのか」「なぜそう感じるのか」「それを形にするとしたら、どんな空間になるのか」と問いかけながら、一緒に考えていきました。
最初から完成された答えがあったわけではありません。立ち止まりながらも考え続け、誰かの問いかけを受けては、もう一度自分たちの言葉に戻ったり、いったん決めたアイデアを疑い、コンセプトに立ち返ったり。そうした積み重ねの中で、提案の輪郭が少しずつ変わっていきました。
たとえば、「ゆとり」という言葉が出てきたときに、「それってどういう状態?」「体現するにはどうする?」と、もう一歩先を考えるように促すなどです。最初は手前の言葉で止まっていた生徒さんたちも、問いに対する答えを考えることで、少しずつ深掘りする姿勢を身につけていったように感じました。
「問いを重ねることで、言葉と提案が少しずつ結びついていった」(木村)
――中間発表では、どのような点を意識してフィードバックされたのでしょうか。
木村:中間発表では、各チームのプレゼンを聞き、内容をさらにブラッシュアップする視点でアドバイスを行いました。
その段階で改めて見えてきたのは、最初に掲げたコンセプトと、最終的なアイデアがうまく結びついていないチームもあるということでした。たとえば、とても詩的で魅力的なコンセプトを掲げているのに、最終的な提案が「みんなが自由に過ごせる複合施設」のような、どこかで聞いたことのあるアイデアになってしまう。そうすると、最初に掲げた言葉とのつながりが弱く見えてしまいます。
そこで、「そのコンセプトから、なぜこのアイデアに至ったのか」「最初に大切にしていた言葉は、提案のどこに反映されているのか」といった視点でフィードバックをしました。
この視点は、普段の仕事にも通じていると感じました。私たちも、コンセプトからレイアウトを考え、提案を組み立てています。生徒さんへのフィードバックは、自分が日々の業務で行っている提案づくりの経験を、別の形で活かす機会にもなりました。
オカムラ企業賞に輝いた実践女子学園高等学校「SMILE」チーム
オカムラ企業賞を受賞したのは、
感情に寄り添う新しい余白のかたち
「クエストカップ2026 全国大会」は、企業から出されたテーマに中高生が向き合い、自分たちなりの答えを提案する探究学習の発表の場です。全国から選抜された中から、実践女子学園高等学校の「SMILE(スミレ)」チームがオカムラ企業賞を受賞しました。
提案したのは、AI搭載ミラー「Hymira(ハイミラ)」です。鏡を見た人の表情を読み取り、その人の感情に寄り添う言葉を表示することで、日常の中にささやかなゆとりや前向きな気持ちを生み出すアイデアです。オカムラのミッション「豊かな余白」に向き合いながらプロトタイプを制作し、学校内で実証実験まで行うなど、提案の完成度と実行力の高さも印象的でした。
「提案の完成度はもとより、そこに至るまでに費やした時間と思考の厚みにも心を動かされました」と木村さん。
実践女子学園高等学校「SMILE」チーム
生徒たちの姿が教えてくれた、課題を深く見つめる大切さ
――「豊かな余白」とは何か、簡単に正解を出せないからこそ、生徒さんたちもたくさん悩んだのではないかと思います。その時間を、木村さんはどのように見ていましたか。木村:「豊かな余白」は、とても捉えどころのない言葉です。だからこそ、正解のない問いに向き合い、あれこれと手探りを続けながら、自分たちなりの輪郭をつかんでいく必要があります。その過程こそに価値があるのだと感じました。
今は、AIに聞けばそれらしい答えがすぐに出てくる時代ですが、その答えが本当に人にとって、自分にとって最適なのかを考える力は必要だと思います。その力を鍛えるためにも、こうした自分で考え、判断する力を養う機会には大きな意味があると感じました。
――生徒さんたちが問いに向き合う姿を見て、木村さんご自身の仕事の進め方や提案づくりを振り返る場面もあったのではないでしょうか。
木村:ありました。私自身、仕事でタイパやコスパを求められ、納期に追われて深く考える時間を省きそうになることがあります。弱点や課題まで見つめて「ここが課題だからこそ、この提案が必要です」と伝えられれば、お客様にも「本当によくわかってくれている」と信頼してもらえるはずです。
たとえば、「病院の待合室の座席数が足りないので増やしたい」とお客様から要望があったとします。ロビーチェアの台数を増やせば、一見座席数が増えたように感じますが、それによって座席の前後間が狭まり、座りにくい席が増え、結果「座れる席」は増えるどころか減ってしまう可能性もあります。病院の待合システムや患者さんの特性、その病院の抱えている課題点を見つけて提案していくことで、本当の解決につながります。
ですので、生徒さんたちが「豊かな余白」という答えのない問いに向き合い、考え続ける姿を見て、自分も安易な提案に逃げていないか、相手の未来を本当に良くする提案とは何か、その原点に立ち返る時間となりました。
「コーポレートアクセスでの体験は、自分の子どもとの接し方にもよい影響があった」(木村)
木村:自分たちで答えのない問いに向き合い、企業について調べ、考えを形にしていくプロセスにこそ、大きな意義があると感じました。生徒さんたちが「人が活きる社会」を考えられるようになったかはわかりませんが、少なくとも「自分が活きる」という感覚には近づけたのではないかと思います。
オカムラにとって、「人が活きる場をつくる」ことは、空間づくりだけに限りません。生徒さんが発言しやすくなる雰囲気をつくること、考えを出しやすい環境をつくることも、「人が活きる場をつくる」ことにつながるのではないでしょうか。その意味で、コーポレートアクセスは、オカムラのパーパスである「人が活きる社会の実現」を、教育現場で実践する場でもあったのではないかと感じています。
インタビュー後記
木村に話を聞いて印象に残ったのは、生徒さんたちの探究に寄り添う「まなざし」のやわらかさでした。問いを投げかけるとき、大人の言葉でさっと整理してしまうのではなく、生徒さんたち自身の内側から言葉が立ち上がってくるのをじっと待つ。その姿勢には、相手の考える力を信じる強さを感じました。コーポレートアクセスは、生徒さんにとって探究の場であるだけでなく、参加する従業員が自分の仕事の原点を見つめ直す場でもあります。生徒さんたちの率直な問いに触れることで、大人もまた、自分の固定観念や日々の仕事のあり方を問い直していく。このことにこそ、オカムラが掲げる「人が活きる社会の実現」へとつながる、確かな学びがあるのかもしれません。(編集部)