オカムラのDXとひと口に言っても、その範囲は製品・サービスから社内の業務改善まで多岐にわたります。その取り組みの一部はこのサイト、オカムラライブスマイルでも紹介してきました。その背景にあるものは何なのか。今回は、DX戦略部 DX戦略課 課長 鎮西 啓に、需要創出型企業を目指すオカムラが描く、DXの全体像と変革の道のり、取り組みで大切にしていることを聞きました。
2025年8月取材
全従業員参加で進めるオカムラのDX
――オカムラが取り組んでいるDXについて、概要や基本的な考え方からお聞かせください。鎮西 啓(以下、鎮西):現在取り組んでいるDXは、2023年2月に策定したDX戦略方針がベースになっています。2021年に会社として本格的にDXに取り組むことを社内外に表明する「DX宣言」を出して、2022年4月にDX戦略部を発足させ、2023年2月にDX戦略方針策定、という流れですね。
DX戦略方針の根幹にあるのは、オカムラの経営理念「オカムラウェイ」の中核概念である「人が活きる」という考え方です。社会課題の解決と持続可能な社会の実現に向けて、先端のデジタル技術を積極的に活用していこうというものです。
DX戦略部 DX戦略課 課長 鎮西 啓
鎮西:はい。DX推進室は2019年に発足しています。また、私がDX戦略部の前にいた業務改革部も2016年に発足していてデジタル活用の土壌はあったものの、やはり2021年の「DX宣言」で改めて旗を掲げたのは大きかったですね。
それまでは社内の働き方改革に目が向いていましたが、DXではビジネスやサービス、顧客や社会に向けての価値向上という視点が加わりました。「中期経営計画2025」で掲げている「需要創出型企業」を実現するには、多様な価値観から生まれる多様な需要に対応していかなければなりません。そのためには、世代も職種も性別も違う人たちの価値観を受け入れ、うまくミックスしていくことが必要。DX戦略の一環として人財育成にも取り組んでいるのはそのためです。
――80周年を迎えるオカムラの歴史の中では、DXは比較的新しい取り組みに見えます。
鎮西:確かにDXの旗を掲げたのは最近の話ですが、DXにつながる挑戦の精神は昔からありました。1980年代には納期応答システム(※1)を導入していましたし、独自のCADソフト(※2)「OK CAD」も開発していました。私が2001年に入社してからも無線LANを他社よりいち早く導入するなど、新しいことに挑戦する精神はずっとあったと思います。
私自身は入社後、情報システム部に配属され、2016年から業務改革部、そして現在のDX戦略部と、ずっとそうした先端の取り組みを見てきました。ただ、オカムラはメーカーとしてものづくりに注力してきた歴史があり、大多数の従業員がシステム面において新しいものをどんどん取り入れることに、数年前までそこまで積極的ではなかったというのが正直な印象です。
※1:顧客からの受注に対して製品やサービスの納品可能な正確な期日を迅速に回答する仕組み
※2:コンピュータを使って設計図を作成するツール
――そうなのですね。今はどうでしょうか。
鎮西:大きく変わりつつあります。世の中もデジタルが当たり前になり、社内でもデジタル活用が日常になってきている。DXが一部の人だけではなくて、みんなで実現していくものだという意識に変わってきているのを感じます。
PCSによる作業の様子(1960年代)
オカムラが他社に先駆けて取り組んだOA化の推進
1959年、アメリカを視察した当時の経営陣は、一般企業に普及しているOA(オフィス・オートメーション)の実態を目の当たりにします。そこでオカムラは、1960年にIBM社のPCS(※3)を導入。さらに、1966年には、IBM社のMOS(※4)が稼働しはじめ、OA化はさらに進みます。これによってオカムラの生産・流通・販売などの各部門が全国的なネットワークでつながり、製品の受注、売上、在庫、経理などの重要情報がコンピュータ上で一括管理されることになりました。このように、オカムラでは1960年代からコンピュータ・システムを経営や各業務に最大限活かそうという企業風土が早くから形づくられていたのです。
※3:パンチ・カード・システム。電子計算機の登場前、パンチカードを利用してデータ処理を行った機器
※4:マネジメント・オペレーティング・システム。コンピュータによって企業の活動を一元管理する仕組み
従業員の体験価値向上も重視、オカムラのDX戦略方針
――2023年に出したDX戦略方針にはどんなメッセージが込められているのでしょうか。「社会やお客様だけでなく、従業員の体験価値向上もDXの大きな柱」(鎮西)
鎮西:DX戦略方針は、「事業のDX」「業務のDX」「経営のDX」「人財育成」「システム基盤強化」の5軸で推進しています。ポイントは2つあって、ひとつは事業のDXの中にある「社会・顧客の体験価値向上」です。これはお客様にオカムラが提供するサービスや製品を、より「人が活きる」ものにしていこうという大きな柱です。もうひとつは業務のDXにある「従業員の体験価値向上」です。「人が活きる」の「人」には、社会・顧客だけではなく、従業員やステークホルダーも含まれると考えているので、地道に価値を提供して三方よしのような状態を目指していきたいと考えています。
――「従業員の体験価値向上」という表現は、オカムラならではかもしれませんね。
鎮西:一般的には「業務改善」や「効率化」といった言葉を使われることが多いかもしれませんね。この考え方は、オカムラが推進する「働きがい改革 WiL-BE 2.0」にも通じていて、従業員一人ひとりの働きがいを高めることが、結果的に顧客価値の向上にもつながると考えています。
――DX宣言も2021年に出したものを更新されたそうですね。
鎮西:オカムラウェイという根幹となる経営理念が策定されたので、DX宣言もそれに合わせてアップデートしました。大きな変更点は、従来の事業と業務の2本柱に加えて、「経営管理の高度化」を3本目の柱として追加したことです。経営のDXも明確に位置づけ、より包括的なDX推進体制を整えました。
――「従業員の体験価値向上」という表現は、オカムラならではかもしれませんね。
鎮西:一般的には「業務改善」や「効率化」といった言葉を使われることが多いかもしれませんね。この考え方は、オカムラが推進する「働きがい改革 WiL-BE 2.0」にも通じていて、従業員一人ひとりの働きがいを高めることが、結果的に顧客価値の向上にもつながると考えています。
――DX宣言も2021年に出したものを更新されたそうですね。
鎮西:オカムラウェイという根幹となる経営理念が策定されたので、DX宣言もそれに合わせてアップデートしました。大きな変更点は、従来の事業と業務の2本柱に加えて、「経営管理の高度化」を3本目の柱として追加したことです。経営のDXも明確に位置づけ、より包括的なDX推進体制を整えました。
さまざまな空間とデジタルが融合する新たな価値創造
――各事業でのDXはどのように進んでいますか。鎮西:順調に進んでいて、経済産業省の「DX認定事業者」にも認定されています。まず、オフィス環境事業では空間づくりと合わせてシステムの提案を進めています。たとえば、「Work x D(ワーク・バイ・ディ)」というサービスでは、ワーカーのIDで働く環境を取り巻くさまざまなシステムを統合でき、座席や会議室予約、タッチレス入退室などが可能になります。さらにオフィスの使われ方が可視化でき、よりよいオフィス改善にも活かせます。
メタバースの取り組みも進めています。デジタル空間も「人が活きる」場のひとつと捉え、メタバース空間に最適化したデジタル家具を販売しているんです。オフィスシーティング「Contessa(コンテッサ)」のデジタル版は2,000円ほど。定価の100分の1程度の価格設定にしています。
――メタバースとは、今後を見据えたユニークな施策ですね。それでは、ほかの事業ではどんなことに取り組んでいますか。
鎮西:商環境事業では「OSCOM CLOUD(オスコムクラウド)」という店舗用データ管理クラウドサービスを展開しています。冷凍冷蔵ショーケースの温度管理を自動化したり、機器の予防保全に活用したり。店舗全体のエネルギー使用量を見える化し、効率的な店舗運営をサポートしています。最近では、デジタルサイネージをカメラと連動させた新しい売り場づくりにも取り組み始めています。来店者の属性を分析し、その人に合った商品やキャンペーン情報を表示したり、店舗での動線分析に活用したりといった展開も視野に入れています。
そのほか、物流システム事業では「PROGRESS ONE(プログレスワン)」というハイブリッド型の物流自動化ソリューションで倉庫のデジタル化を目指しています。社内向けの取り組みとしては、人財育成プログラム「DXラーニングプラットフォーム(DXLP)」を展開しているほか、生成AIを活用した「オカムラAIChat」を導入して仕事の効率化や新しい価値創造を促進しています。
全社員で挑む需要創出型企業への変革
――中期経営計画2025で掲げる「需要創出型企業」としてのオカムラにとってDXはどのような位置づけでしょうか。鎮西:「需要創出」という言葉について、私はこれまでにないニーズを創出していくことだと理解しています。新たな需要創出には、新しい技術の活用が不可欠です。DX戦略部の役割は、各事業部がニーズを捕まえるのを技術面から支援すること。「生成AIで何ができるの?」「メタバースって何?」「量子コンピュータってどういうこと?」 そんな最新技術のシーズ(種)をキャッチアップして、事業部と連携しながらサービスや製品の向上と従業員の体験価値向上を推進していきたいですね。
需要創出にはたくさんのチャレンジが必要です。挑戦には失敗もつきものですが、失敗も経験として成長の糧にすればいいと思っています。
「需要創出に向けて、いろいろなことに積極的に挑戦していきたい」(鎮西)
鎮西:オカムラは今、これまで以上に面白い会社になってきていると思います。デジタルツールも後押しとなり、誰でも挑戦ができる環境になってきて、変革の風土がより育ってきています。「自分のアイデアで会社をよくしたい」や「新規の事業を通じて社会課題の解決を目指したい」という声が増えてきました。DXの推進に加えて、人財育成やパーパス浸透といった取り組みも全社で進んでいるので、今後さらに「人が活きる」会社として進化していけると考えています。
インタビュー後記
DXという言葉は最近よく耳にしますが、オカムラのDXには「人が活きる」視点が根底にあることを再確認しました。特にそれがよく表れているのが「従業員の体験価値向上」という言葉です。効率化や業務改善といった、どこか機械的な響きのある言葉ではなく、働く人の体験そのものを大切にするという考え方に、オカムラらしさが感じられます。需要創出型企業を目指すオカムラのDX戦略。その先にあるのはやはり「人が活きる」世界なのだと実感しました。(編集部)