子育て世代が活きる「育児休職のリアル」 Vol.2
商環境事業本部 西日本営業部 中四国第一支店の吉川 大貴(よしかわ・だいき)。2017年に新卒で入社し、広島を拠点に中国地方のスーパーマーケットを中心とした地域密着型の営業活動に取り組んできました。2023年、第2子の誕生を機に、当時在籍していた支店の男性営業職としては初めて、育児休職を取得。7ヵ月という長期間の取得は、少数精鋭で業務を担う地方拠点では珍しいケースです。周囲と丁寧に調整を重ねた長期育休の実現は、制度活用のみならず、吉川自身の新しい働き方のきっかけにもなったといいます。仕事と家庭、両方に誠実に向き合った育児休職を通して得た気づきや成長とは――。地方拠点で働く営業ならではのリアルも交えながら、吉川に話を聞きました。
吉川の育児休職タイムライン
2022年 | 9月 | 妻の第2子妊娠がわかる |
2023年 | 1月 | 上司や支店メンバーへ相談 |
4月 | 育児休業申請 | |
5月末 | 第2子誕生、育児休業(7ヵ月) | |
2024年 | 1月 | 復職 |
「長く休んで本当に大丈夫?」――営業職ゆえの葛藤と決断
――はじめに、育児休職(以下、育休)を取得された経緯を教えてください。吉川 大貴(以下、吉川):第2子の妊娠が分かったとき、「今度こそ、しっかり育児に関わりたい」という思いが強く芽生えました。第1子が生まれた当時は、男性が育休を取ること自体、社内でも社外でもまだ珍しく、自分が取るなんて考えもしなかったんです。そんな中、同じ事業部の首都圏で勤務する先輩が、育休を取得したことを知り、大きな刺激を受けました。
また、第1子のときは、結果的に妻に大きな負担をかけてしまったことも反省点として残っていて、「今回は自分もしっかり育児の当事者になろう」と夫婦で話し合い、育休取得を決めました。
――ご夫婦で話し合われたんですね。実際、育休取得にあたっては、どんな課題がありましたか?
吉川:一番は人手です。地方拠点はどうしても人員が限られますが、その分、一人ひとりが大きな役割を担い、担当範囲も広くなります。自分が抜けたら周りにどれだけ負担がかかるかを考え、すごく悩みました。育休から復帰した後、お客様との関係がどうなるのかというのも、不安の一つでした。
――そのような中で、どのように気持ちを固めていったのでしょうか。
吉川:第1子のときも、家事や育児に関わっていたつもりでしたが、今振り返ると妻の負担はそれほど軽減できていなかったように思います。業務の進行をふまえて、区切りのよさそうな期間として当初は3ヵ月間の取得を考えていましたが、準備を進めるうちに「それだけでは育児の大変さを実感しきれない」と感じるようになりました。せっかくならしっかり向き合いたい。そんな思いで家族と相談を重ね、最終的には年内いっぱいの7ヵ月間、育児に取り組むことを決めました。
吉川:妻が安定期に入ったタイミングで、課長や支店長に意思を伝えました。当時私が所属していた西日本の支店では、男性営業職の育休取得は初めてで、実際に周囲も戸惑っていたとは思います。それでも、「育休を取るなら、しっかり取ってください」と背中を押してもらえてありがたかったです。同僚からも「吉川さんが抜けるなんて……」と不安の声もありましたが、それが職場の意識が変わるきっかけになればと思いました。引き継ぎについては、正直とても苦労しました。繁忙期と重なり、思うように進められず、引き継ぎ資料の作成も初めてで手探りの連続でした。
吉川:上司に相談し、関係者を集めた引き継ぎ会議を開いてもらいました。やはり資料だけでは伝わらないことも多かったので、直接話をしながら具体的に引き継ぎを進めることができたと思います。
また、あらかじめ「育休中の就業申請」をしていたので、必要があれば対応できる体制を整えていました。ただ、最初は「育休中の人に連絡していいのかな……」と、周囲も少し遠慮している雰囲気がありましたね。
“家族と向き合う”日々――育休で気づいた大切なこと
――育休期間中は、どんな風に過ごしていましたか?吉川:朝は朝食の準備から始まり、午前中は掃除や洗濯、子どもと遊んで過ごしていました。午後は買い物に出かけたり、夕方には上の子を連れて公園や散歩に行ったり……。毎日が子どもと家事を中心に回っていましたね。少しでも妻の負担を減らしたいという思いがあったので、自分にできることはなるべく自分でやろうと心がけていました。ただ、上の子も下の子も全くお昼寝をしないタイプで……。子どもたちにかかりっきりで、自分の時間はほとんどありませんでした。
吉川:育休中は、引き継ぎが完全に終えられなかったこともあり、育休中の就業申請を活用しながら必要に応じて、一部の業務に関わらせてもらう場面もありました。職場と相談しながら、急ぎの対応や業務調整が必要な場合に限って、スポットで出社するなどの対応を行っていました。家庭と両立しながらも、自分ができる範囲で貢献できたことは、自分にとっても良い経験になったと思います。
――新しいライフスタイルになって、生活の変化、そしてご自身の心境の変化はありましたか。
吉川:育児の大変さは、想像以上でした。家事と育児を並行してこなす毎日は、気がつけば一日が終わっているような感覚です。でも、そんな中で子どもの笑顔を間近で見たり、成長を日々感じられる時間を過ごせたりしたことは、何にも代えがたい経験でした。育児に“関わる”のではなく、“一緒に過ごす”ことで、家族としての絆も深まったように思います。
育休を経て見つけた、「自分らしい働き方」
――7ヵ月の長期育休を経て、職場復帰されたわけですが、何か変化は感じられましたか?吉川:育休で一度仕事から離れたことで、自分のキャリアを客観的に見つめ直す時間が持てました。8年間、同じお客様を担当し続けてきた中で、築いてきた信頼関係が自分にとってはすごく大きな財産だとあらためて実感しました。また、営業という仕事が自分に合っているんだなと感じられたのも大きかったです。
――働き方に対する意識は変わりましたか?
吉川:一番大きかったのは、家族との時間をより大事にしたいという気持ちが強くなったことです。そこから自然と、限られた時間で成果を出すためにどう工夫するか、効率を意識するようになりました。そうした工夫が成長につながり、周囲に目を配る余裕も生まれて、良い循環ができていると感じています。
また、復職後は後輩と関わることも増えてきて、自分の働き方を見せていくことの大切さも感じるようになりました。これまでの経験を活かして、チーム全体がより働きやすい環境になるよう、自分なりに貢献していきたいと思っています。
――ご家庭と仕事の両立のために関連する制度も利用したのでしょうか。
吉川:はい、今はフレックスタイム制を活用しています。朝6時台に出社して、他のメンバーが来る前に事務作業を終わらせることで、日中は後輩のサポートやお客様対応に集中できるようにしています。その分、夕方はできるだけ早く帰宅して、家族との時間を持つよう心がけています。また、夕方の会議はなるべく避けたいと職場にも伝えていて、周囲にも理解してもらっています。子育てに協力的な環境があることに、とても感謝しています。
「自分が動けば、空気が変わる」――職場を変える一歩に
――吉川さんの育休取得は、職場にどのような影響を与えたと思いますか?吉川:私が育休を取ったことで、少しずつですが職場の空気が変わってきたと感じています。実際にその後、設計職のメンバーが7ヵ月の育休を取得したり、別の支店の営業担当者も3ヵ月の育休を取得したりと、育休を取る人が続けて増えました。自分の経験が誰かの背中を押すきっかけになっていると思うと、とても嬉しいです。
――吉川さんの育休取得が、周囲にも大きな影響を与えたんですね。実際に取得してから少し時間が経った今、あらためて育休をどう捉えていますか?
吉川:育休は、単に仕事を離れて子どもと過ごす時間というだけではなく、自分自身の働き方や生活のバランスを見つめ直す貴重な機会だと感じています。家族と過ごす時間が増えたことで、育児の大変さだけでなく、その分喜びもより深く実感できましたし、自分自身の成長にもつながったと思います。
――育休を経験して、ご自身の中で改めて気づいたことはありますか?
吉川:私は、「笑顔を忘れないこと」を大切にしています。仕事も育児もプレッシャーやストレスがつきものですが、前向きな姿勢が、家庭や職場の雰囲気を良くすると感じています。特に子どもにとって、親の笑顔が精神的な安定につながると思います。育児を通して、仕事も家庭も人との関わりが大切だと実感し、自分の言動が周囲に良い影響を与えるよう心掛けるようになりました。バランスを取るのは難しいですが、心の余裕が仕事の質や家族の幸せにつながり、キャリアについても前向きに考えられるようになったと思います。
サステナビリティ推進部 七野の解説コラム
人員が限られる職場での長期育休取得――“誰もやったことがない”からこその価値
今回のケースで特に印象的だったのは、本人が言うように人手が限定される拠点の営業職として、長期間の育児休職を取得したことです。本人もお話しされていたように、周囲に参考となる事例がなかった中で、お客様、職場、家庭、そしてご自身の思いを丁寧にすり合わせながら、一歩を踏み出された姿勢に、大きな意味を感じました。
また、引き継ぎに際しては、関係者が集まり「引き継ぎ会議」を実施されたということで、チーム全体の協力体制があってこそ成り立った取り組みだったと感じます。吉川自身も「職場に迷惑をかけたくない」との思いから、どうすればスムーズに引き継げるかを模索しながら、真摯に取り組んでいました。
実はオカムラには、業務引継ぎに活用できる業務引継ぎガイドブックや業務引継ぎリスト(作成:はぐくむプロジェクト )があります。これらは、実際に男性で育児休職を取得した社員の経験をもとに作られており、「誰に、何を、いつ、どう渡すか」といった実践的な事例が紹介されています。(DE&I推進室 七野 一輝)
育休期間の過ごし方
育児休職当時の過ごし方は?7ヵ月間の育休中、2人のお子さんの育児に奮闘したある一日をふり返ってもらいました。朝の時間帯
AM7:00の起床からスタート。朝食の準備や片付け、掃除や洗濯など、2人の子どもが起きてくるAM8:00までは家事に専念。2人育児の忙しさに戸惑うこともあったが、「大変さもあったけれど、この時間があったからこそ家族の絆が深まった」と吉川。
お昼
もともと家事は積極的に担っていた吉川。昼食の準備と片付けを済ませ、子どもたちのお昼寝タイム。その後は家族みんなで近所へ買い物に出かけたり、おうちで遊んだりと、2人の子どもと向き合う時間が続く。
夜
夕方には2人の子どもを連れて公園や近所を散歩。食事のあとは子どもたちをお風呂に入れ、21時頃には寝かしつけ。「昼間はなかなかお昼寝をしてくれない2人ですが、夜はぐっすり眠ってくれるので助かっています」(吉川)
育児休業の取得の推進は、オカムラの「働きがい改革 WiL-BE(ウィル・ビー) 2.0」における取り組みのひとつです。「WiL-BE2.0」は「Inner Communication(社内活性)」「Human Development(人財育成)」「Work Rule(制度)」「Work Smart(デジタル技術)」「Work Place(環境)」5つのアクションによって、働きがい改革の実現を目指しています。なお、育児休職の取得推進は、Work Ruleのアクションに含まれます。
吉川のインタビューを通じて、私自身も子育てと仕事の両立に日々向き合う身として、多くの共感を覚えました。「家族としっかり向き合いたい」「子どもの成長をそばで見守りたい」という思いは、どの世代の親にとっても共通の願いなのだと、あらためて感じます。
「誰かが一歩を踏み出さなければ変わらない」という想いで、地方拠点という環境の中、育児休職に踏み切った吉川。その背景には、少数精鋭の職場で仕事や家庭、そして自分自身の気持ちに丁寧に向き合ってきた姿勢がありました。また
印象的だったのは、仕事以外でも仲間とのコミュニケーションを大切にしていること。拠点メンバーで定期的に開催されるBBQにも参加し、職場の仲間にお子さんと遊んでもらったり、その間に自分の時間を楽しんだりする姿がありました。パパとしての一面を職場の仲間に見てもらえる良い機会にもなっているとのこと。
育休は「特別なこと」ではなく、自分や家族のありたい姿を描くための選択肢。その一歩を支え合える風土こそが、働きやすく、活きやすい組織づくりにつながっていくのだと、あらためて実感しました。(コーポレートコミュニケーション部 古賀 小谷佳)