「人が活きる社会の実現」を目指す、株式会社オカムラ。ここでいう「人」は、世間一般の人々、顧客、そしてオカムラで働く私たち自身も含みます。このシリーズでは、「人が活きる」組織となっていくための、オカムラの進化や変革にスポットをあてて紹介します。
2022年4月からの改正育児・介護休業法の段階的な施行に伴い、男性の育児休業取得促進のための柔軟な育児休業の枠組みの創設や、育児休業の分割取得といった改正内容への対応が必要になります。オカムラでは、以前からの有志メンバーによる活動を引き継ぐ形で2021年10月に「こそだて支援プロジェクト(愛称:はぐくむプロジェクト)」を発足しました。男性の育児休職希望者がスムーズに取得できるような、人事制度の改訂と風土醸成を目的に、事業部を超えてメンバーが集まり、1年の活動期間でさまざまな取り組みを行ってきました。
今回は、「はぐくむプロジェクト」で活動してきた望月浩代、井坂麻実、藪陸歩、そしてプロジェクトアドバイザーの鈴木宗隆による座談会をお届けします。「はぐくむプロジェクト」を通して見えてきた、男性育休の可能性や今後の課題について話し合ってもらいました。
Profile
今回の座談会に参加したメンバーを紹介します。望月浩代
サステナビリティ推進部 D&I推進室
2016年、ダイバーシティ推進のための女性活躍「ソダテル」プロジェクトからはじまり、オカムラのD&I※1推進に関わってきた。「はぐくむプロジェクト」では、昨年10月の立ち上げからプロジェクトリーダーを担当。
※1:ダイバーシティ(多様性)&インクルージョン(包摂、受容)の略称。多様性を活かし、尊重し合うこと
井坂麻実
オフィス営業本部 地方創生ビジネス推進部
自治体庁舎への営業促進をメインに担当している。3児のママ。子育て経験を活かして、「はぐくむプロジェクト」に参加。
藪陸歩
人事部 人事企画課
タレントマネジメント、人事ローテーション、働き方、契約関係など制度に関わる業務を担当。人事部の知見を活かすため、「はぐくむプロジェクト」に参加した。
鈴木宗隆
富士事業所 技術部
生産事業所から、男性育休取得者が複数名出ていることに基づいた知見を活かすべく、プロジェクトアドバイザーとして参加。マネジャー(部長職)の立場から後押しする「イクボス」代表としてアドバイス。
イクボスとは?
イクボスは、「育児(イク)」と「上司(ボス)」からなる造語。職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランスを考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織としての成果を出し、自身も仕事と私生活を楽しめる上司(経営者・管理職)のこと。イクボスの対象は男性管理職に限らず、女性管理職も含む。
子どもだけでなく、いろいろな関係性を“はぐくむ”ために
望月浩代(以下、望月):まず「はぐくむプロジェクト」の概要について振り返りましょう。2022年4月に改正された育児・介護休業法に対応するため、人事制度改定と理解浸透、そして育休を取得したい人が取得できる環境をつくること。この2つを目的としたプロジェクトでした。私たち自身が、「人が活きる」を実現する会社をめざすため、当事者だけでなく周囲の理解も欠かせないと考え、「育休取るの?(まさかとらないよね?)」ではなく、「育休はいつ取るの?」という会話が自然に生まれるような雰囲気づくり、を合言葉にしてきました。井坂麻実(以下、井坂):参加したのは、所属部署も違えば、男性育休の当事者、ベテランのパパ・ママ、藪さんのような若手など、ダイバーシティに溢れたメンバーでしたね。男性育休にフォーカスしたプロジェクトですが、男性が育児に関わることは女性の働きやすさ、そしてキャリアアップにつながります。その観点から、自分の「想い」をプロジェクトに反映できたらいいなと思い、すぐに参加を決めました! 鈴木さんや藪さんはどうでしたか?
鈴木宗隆(以下、鈴木):私は育休取得者が部下をはじめ、富士事業所内に複数いたことから、アドバイザーの立場で参加しました。
藪陸歩(以下、藪):私は人事部の立場で参加しました。育休は人事テーマの一つであるものの、当事者でないこともあり、実態としてよく分からない部分も。そのため、不安ながらも、これを機にいろいろ学ぼうと前向きな気持ちでした。
望月:みなさん、それぞれの状況や立場で男性育休の必要性を感じ、主体的に活動してくれました。実際、希望する人が育休を取れる環境をつくるためには、同僚や上司など周囲の人たちの理解を深め、意識を変える必要もあります。それは、親子関係や上司との関係など、いろいろな関係性をはぐくむこと。「助け合うマインドをはぐくむ 皆で子育てアライ※2になろう。部下のいる人はイクボスになろう。人が活きるために」。そんな思いを込めて、「はぐくむプロジェクト」という愛称を採用しました。
※2:「同盟、支援」を意味するallyが語源。もともとは性的マイノリティを理解・支援する人や考え方。本プロジェクトでは子育ての理解者・支援者の意味。
藪:プロジェクト概要を最初に聞いた時は、パパ・ママにフォーカスするようなイメージでしたが、みなさんの話を聞き、社内みんなが「はぐくむ」対象なのだと理解しました。今ではこの愛称がプロジェクトをよく表していると思っています。
望月:1年という期間限定のプロジェクトで成果を出すため、「制度」「啓発」「広報」、3つの分科会をつくり、同時並行でさまざまな活動をしてきましたが、アドバイザーの鈴木さんも啓発分科会に所属して、積極的に参加してくれましたね。
鈴木:本業がある中で自発的に取り組んでいるメンバーの姿を見たら、できるかぎり参加したいと思ったんです。管理職啓発セミナー(イクボスセミナー)や、育休取得事例集(業務引き継ぎガイドブック)の作成など、「想い」を形にしていく様子にリスペクトを感じながら参加していました。井坂さんも、広報分科会リーダーと啓発分科会メンバーのかけもちをして大活躍でしたね。
井坂:制度分科会はなんだか難しそうだったので、まず啓発分科会に参加しました。そして、啓発の中から誰かが広報をやることになったときに立候補。広報ってなんだか楽しそうじゃないですか(笑)。
藪:私は、“ちょっと難しそう”な制度分科会担当です(笑)。法令を正しく理解するところからはじめるなど、制度づくりに関しては専門知識が必要です。人事の立場から正確な情報を発信し、受け手がきちんと理解できたうえで育休を「取る」「取らない」の選択ができる環境をつくりたいと考えていました。
男性育休の取得率16.2%→59.5%。成功のカギは?
望月:育休取得の意向確認が義務化された2022年4月から、男性の面談希望者も増えてきましたが、「上司に言い出しにくい」など、まだまだ悩みを抱えている人が多いようです。育休を取りたい人が取れるようにするには、社内全体の理解浸透を進めないといけないと改めて実感しました。鈴木:今は核家族化や共働きが進んでいますからね。男性育休の必要性を強く感じています。イクボスセミナーでは、夫が一緒に子育てをしなかった場合、「妻から夫への愛情」が回復しないというデータを見てゾッとしました…… なので、育休を取ろうか迷っている人には、「子育ては最初が肝心。自分の存在感を出して!」と背中を押しています(笑)。
井坂:まず、「男性も育休を取りましょう」の啓発から必要なんですよね。私自身、夫も育休を取れたはずなのに、産後は実母に1か月仕事を休んでもらって、サポートをお願いしていました。「育児は女性がするもの」というアンコンシャス・バイアス※3があったんだと思います。
※3:unconscious bias。無意識の偏ったモノの見方、思い込み、偏見。
鈴木:確かに、部下が初めて育休をとったとき、「大丈夫なのかな?」という気持ちもあったかもしれません。今後も続く男性社員がいるのかな、と。でも、「為せば成る」ではないですが、誰かが道を切り拓くことができれば、次につながっていくんですよね。オカムラは制度に限らず柔軟な対応ができる会社なので、多くの社員が長く働けるよう、自分自身が良いと思った制度や社風を後輩たちに伝えていきたいです。
藪:今は女性の育休取得率に男性が追いつけていないから、男性に向けた育休取得にフォーカスされていますが、いずれ同じくらいの取得率になるといいですよね。
望月:実際、「はぐくむプロジェクト」がスタートして成果は出ています。前期男性育休の取得率が16.2%でした。今期からは義務化となった意向確認を実施しており、目標30%を大幅に超えて上半期で59.5%※4と急増しています。
※4:数値は2022年度からの意向確認者を分母とした取得者と取得予定者の実績・推計値であり、2021年度までは年度内の配偶者の出産者数が分母となります。
井坂:多くのマネジメント層が、イクボスセミナーを受講して変わったように思いました。朝礼で、イクボスセミナーの話をしてくれたマネジャーがいて、「自身は経験してこなかったことでも、セミナーの内容を受け止めてくれたからこそ、みんなの前で話してくれたんだろうな」と嬉しくなりました。
実際に育休を取得して
現在、育休(部分的に就業)取得中のプロジェクトメンバー稲葉拓人(オフィス営業本部 外資法人支店)のコメントを紹介します
「第一子誕生時、育休を取りたかったものの、周りに取得者はおらず、上司に相談もせず諦めてしまいました。その経験もあり、育休を取りにくい状況をなくしたい、そんな想いでプロジェクトに参加しました。活動中に妻の第二子妊娠がわかり、今回は育休を取得。現在、家事育児修行の毎日です。
当初、育休中は家事育児に専念したいと考えていましたが、検討の結果、会社の大きなイベントである新製品発表会期間などは就業することに。部分的に働けるようになったことで、産後1か月という最も大変な時期に育休を取得することができました。母親の安静が推奨される期間はホルモンバランスが不安定なことや、上の子どものケアの大切さを実感しています。育休中の人員不足をどう補うかなど課題はまだありますが、オカムラだけでなく社会全体で育休取得のハードルは下がりつつあります。検討している人には、ぜひ取ってもらいたいです」(稲葉)
「実際は休めない」をなくすため、想定外の方向転換も
望月:プロジェクトを進めていく中で、想定外なこともありました。当初は「育休中は育児に専念すること」を前提に検討していました。しかし、部分的にでも就業できるようにすることで休職への不安が減り、育休を取得しやすくなるのではないかと考え、そこから180度方向転換しました。就業もできるという選択肢を増やせば、育休を取得しやすくなり、周囲の理解も得やすくなるのではないかと思います。藪:「育休を取りやすいと思えること」が大事だと思います。何となく取れない、または取りにくいと思う人にとって、「育休を取りながら就業する」選択肢が用意されていることに意味があるんじゃないでしょうか。今回、育休取得の機会を広げる第一歩として、労使で協議を行い、「産後、父親が育休中に就業できる」制度の導入に至りました。世間的には「男性も育休を取ろう」という空気感が醸成されてきているものの、「休めない」と思っている男性社員もまだ多いのが実態。鈴木さん、富士事業所で初めて男性育休取得者が出たとき、現場はどんな雰囲気でしたか?
鈴木:育休取得者はベテランのリーダーが率いるチームに所属していたので、メンバーがひとり減ってもまわりがフォローできると、見込みは立っていました。一方で思いがけない、好ましい変化もありました。育休取得者のフォローをきっかけに、業務改善の打ち合わせをまめに行うようになったことです。ただ、現場で製造にかかわる業務は、育休取得期間中の補充人員確保に備え、早めの対応が必要など、課題もあります。
望月:工場は業務改善や効率化の知見が豊富なので、実施決定事項への対応が早いですね。工場以外でも、先輩の育休をきっかけに、後輩が「私がフォローしないと」とがんばるようになり、成長につながったという話を聞きます。
井坂:活動状況をまとめたものを「はぐくむnews」として定期公開したり、プロジェクトメンバーが交代でそれぞれの考えを記事化したりと、社内発信で育休への理解を深めるのが広報の仕事でした。でも、情報だけ発信しても伝わりきらないもどかしさも感じました。そこを補ってくれたのが、全国のマネジメント層が参加したイクボスセミナーです。イクボスセミナーは、オンライン開催だったこともあり、地方を含め全社、多くのマネジャーに情報を届ける機会にもなったと実感しています。
「人が活きる」環境をつくる会社として、オカムラの変化は続いていく
井坂:「はぐくむプロジェクト」の取り組み自体は2022年9月末で完了しましたが、一時的なプロジェクトとして終わらせずに、働きかけを続けていきたいです。育休を取った人には「取ってよかったこと」「取って大変だったこと」など、いろいろな経験を発信して、後輩たちにつないでいってほしいと思います。鈴木:育休経験がある社員がマネジャーとなっていくと、さらに取得率も上がっていくでしょう。一方で、「みんなは休んでいるのに自分は休めない」という不公平感を抱いている人が出てくるかもしれません。だからこそ、これからも理解促進が大事だと思いますし、今の段階では、たとえば「子どもが生まれたら必ず育休取得する」など、育休を当たり前のものにしていくための制度を検討してもいいかもしれませんね。
井坂:そうですね。育休だけでなく、たとえば介護休職も取りやすくなるといいですよね。私が所属している部署は平均年齢が高いので、「母の通院付き添いで業務中にいったん抜けます」といった話をよく耳にします。お互いが気軽に発信できるようになれば、世代を超えた理解・共感につながりそうです。実際、私も同僚の話を参考にさせてもらっています。育休中にどんなことをして、何を感じていたのか、といった情報も発信する機会があるといいですよね。育休中ただ休んでいたわけではなく、育児を通じて得た学びや成長を伝えられれば、周囲の人も育休が取りやすくなると思います。
藪:私の同世代は未婚も多く、まだ育休を「自分ごと」として捉えにくい人が多いかもしれません。しかし、いずれ経験するかもしれないので、先輩が発信してくれた情報をきちんと受け取り、育休について知っておきたいですね。そして、「私はこういう理由で育休を取りたい」と、自分の想いを発信できるようになりたいです。育休の浸透によって、より休みやすい空気が生まれ、他制度の活用にもつながっていくと考えています。
望月:育休に限らず、いつ誰が長期休みに入ってもいいように、属人的な業務を見直したり、タスクをシェア・分散する働き方にシフトしたりといった変革も必要になるでしょう。誰もが自分の状況をシェアしたり、希望を言い出したりしやすくなるよう、心理的安全性の確保も重要なテーマです。オカムラは「人が活きる」環境づくりをめざす会社。その第一歩として、社内のメンバーが協力し合い、育休をはじめとした制度を誰もが利用しやすい風土をより広げていきたいと思います。
座談会では創業時からの、協力をしあうという精神についても話題に上りました。創業者・吉原謙二郎はかつて「良い家庭は良い人を生み、その良い人が良い会社をつくる」と語っています。「はぐくむプロジェクト」メンバーは、この姿勢は今のオカムラにも活きていると実感できるそうです。創業当時と今では、解釈の違いはあるかもしれません。しかし、その本質は、オカムラDNAとして今でも継承されています。今回の座談会で、とくに印象的だったのが、「これから育休を取る人」「過去に育休を取った人」だけでなく「育休を取らなかった人」「まだ育休を取る予定がない人」も参加し、熱量高くプロジェクトに取り組んでいたこと。「人が活きる」環境づくりを掲げ、一人ひとりが実践しようと取り組むオカムラらしい姿勢を感じられました。「はぐくむプロジェクト」から生まれた、「助け合うマインドをはぐくみ 皆で子育てアライになろう 部下のいる人はイクボスになろう 人が活きるために」というポリシー。ここに込められた想いも未来に受け継がれ、「Work in Life」の実現につながっていくはずです。(編集部)