オカムラが宣言する「人を想い、場を創る。」―― オカムラはオフィスをはじめ商業施設、病院、学校、博物館や美術館、そして物流施設と多様な場づくりを展開しています。自分らしく「活きる」人を増やし、笑顔があふれる社会づくりの一端を担ったといえるようなエピソードを「オカムラの仕事を訪ねて」と題し紹介します。みなさんが訪れたあの場所や空間に、場づくりの段階で実はオカムラも携わっていた……ということがあるかもしれません。
オカムラは、2025年4月に開校した通信制高校サポート校「HR高等学院」の新校舎「YOYOGI BASE」の空間づくりを学校と一緒に進めました。YOYOGI BASEは、学生たちが自分の興味関心に基づいて実験を繰り返しながら成長していくための「秘密基地」。デスクやイスの配置に決まりはなく、多くの可動式家具やソファを組み合わせて、多様な学びにフレキシブルに対応できる空間となっています。また、前編でも紹介したように多くの起業家や企業の社員が訪れ、社会とのつながりが育つ場でもあります。後編では、自らの未来を主体的に切り拓くための新しい学びの場を、HR高等学院とともにつくり上げたオカムラの役割と想いを探ります。
2025年5月取材
HR高等学院
HR高等学院は、2025年4月に開校した通信制高校サポート校。オンライン・オフライン両方を活用した課題解決学習を通じ、非認知能力やキャリアへの探究心を育てるカリキュラムが特長。基礎学力を育てる教科学習も組み込むことで、高校卒業資格の取得や大学進学、海外進学などを視野に入れた幅広いキャリアを目指すことも可能。
それぞれのペースで学べる「秘密基地」
2025年春に開校した通信制高校サポート校「HR高等学院」。その学びの拠点が、東京都渋谷区代々木にある「YOYOGI BASE」です。開放感あふれるフロアには、学習に合わせて自由にレイアウトできる可動式のデスクやイスが配置され、壁のカラフルなペイントが明るくポップな雰囲気。整然とデスクが並ぶ従来の教室のイメージとは、まったく違う空間が広がっています。HR高等学院 事業本部長 恒弘 大輔さん
空間づくりにあたっては、「学校っぽくない場所にしたい」という想いからスタートしました。HR高等学院に通うのは、自分のペースで学びながら成長する学生たち。学業だけでなく、起業やクリエイティブな活動に関心を持つ人もいます。HR高等学院 事業本部長の恒弘大輔さんは、「従来の学校空間に窮屈さを感じている人もいます。もっとワクワクして通いたくなるような場所にするには、どんな学習体験や空間が必要かを、オカムラのみなさんと考えました」と話します。
オカムラ 首都圏営業本部 渋谷支店 小野 真由歩
オカムラの営業としてYOYOGI BASEを担当したのが小野 真由歩です。当時は入社1年目で、渋谷支店に配属されるとまもなく、この物件を手がけることになりました。「入社前から営業として学校案件に関わりたいと思っていました。ただ、1年目で実務経験が浅く、さらにHR高等学院は一般的な学校とは異なるユニークな案件だったので、戸惑うことも多くありました。そのため、教育施設や文化施設を手がける専門チームの営業や設計メンバーにフォローしてもらいながら進め、所属支店の先輩にも随時相談しながら取り組みました」と振り返ります。
2025年4月の開校に間に合わせなくてはいけないタイトなスケジュールだったため、毎週、定例の打ち合わせを開催。HR高等学院のデザイナーとオカムラのデザイナーの意見をすり合わせながら、空間デザインをブラッシュアップしていきました。
「最初は一般的なスクール形式に近いデザインを提案しましたが、最終的に今の形になりました。教室らしくない空間を目指すとしても、やはりデスクやイスは必要ですので、可変性の高い家具を選べばフレキシブルな学びにも対応できることなどをお伝えしました」(小野)
2025年4月の開校に間に合わせなくてはいけないタイトなスケジュールだったため、毎週、定例の打ち合わせを開催。HR高等学院のデザイナーとオカムラのデザイナーの意見をすり合わせながら、空間デザインをブラッシュアップしていきました。
「最初は一般的なスクール形式に近いデザインを提案しましたが、最終的に今の形になりました。教室らしくない空間を目指すとしても、やはりデスクやイスは必要ですので、可変性の高い家具を選べばフレキシブルな学びにも対応できることなどをお伝えしました」(小野)
YOYOGI BASEでは、授業の内容に応じてデスクやイスの配置を変更する
オカムラは納期や費用を考慮して、できるだけ理想に近い実現可能なプランを提案。実際の製品選定は、HR高等学院の方々をオカムラのショールームに案内し、デスクやイスを体感してもらいながら進めました。「ショールームはとても素敵な空間で、惹かれる製品がたくさんありました。その中で、学生が探究の学びを追求でき、空間にもフィットするもの、という難しいオーダーをしたのですが、空間に合うものを提案してくれました」と恒弘さん。
メインのデスクには、可動式の「CROSCO(クロスコ)」の作業台を選択。高さを揃え、アクティブラーニングがメインとなる授業に適した使い勝手のよい空間に仕上げました。「フリーアドレスで日々座る場所を変えられるので、新しい交流も生まれやすいと思います」と恒弘さん。実際、グループワークが始まると、学生がさっとデスクを寄せ合い、対話の場をつくりだしています。また、窓際にはソファ席やプランターも配置され、リフレッシュや気分転換しやすいエリアになっています。
デスク以外では、シンプルなミーティングチェア「ena(エナ)」、荷物置きを備えたスツール「pino(ピーノ)」、電源を設けた「Alt Piazza(アルトピアッツァ)」シリーズのカウンターテーブルなど、オフィスでも利用される使い勝手のよい製品が採用されています。「限られた面積の中で効率的に席数を確保できるよう、レイアウトも工夫しました」と小野は説明します。
床の色がHR高等学院の「赤」を引き立てる
クリエイティビティを刺激する場づくりもこだわった点です。「学生が答えのない問いに挑む授業が多いので、思考を狭めず、自由なアイデアがどんどん出てくる雰囲気を目指しました」と恒弘さん。壁のサインや柱にはHR高等学院を象徴する「赤」が使われており、オカムラはそれらが映える落ち着いた床色などを提案しました。
入学式翌日にはワークショップを実施し、学生と一緒に壁の一部とプランターを塗りました。「この学校はみんなでつくり上げていく学校だと学生にも伝えています。日々の学びの体験はもちろん、空間もそう。卓生が担った最後の仕上げはまさに画竜点睛で、彼らにとってもより愛着のわく場になったと思います」と恒弘さん。今後はカウンターや間仕切りされた空間の壁などを塗っていく予定です。
入学式翌日にはワークショップを実施し、学生と一緒に壁の一部とプランターを塗りました。「この学校はみんなでつくり上げていく学校だと学生にも伝えています。日々の学びの体験はもちろん、空間もそう。卓生が担った最後の仕上げはまさに画竜点睛で、彼らにとってもより愛着のわく場になったと思います」と恒弘さん。今後はカウンターや間仕切りされた空間の壁などを塗っていく予定です。
YOYOGI BASE ギャラリー
オンラインとリアルのハイブリッド学習がもたらす新たな価値
HR高等学院の授業はパソコンを用い、オンラインとリアルのハイブリッドが基本です。オンラインではメタバース空間で受講することもあります。「パソコンを活用した発表やディスカッションが多いことを前提に、通常の学校に多いスクリーンやプロジェクターではなく、75インチの大型モニターを設置しました。反射しにくく、角度がつけられるので、どの席からも見やすくなっています。また、ソファや壁際のテーブルなどに電源を多めにつけています」と小野。黒板がわりの大型モニターの設置も学生の使い勝手を考えてのこと
オカムラは長年、小・中・高等学校から大学、専門学校まで幅広い教育施設を手がけており、変化していく教育のスタイルに対応してきました。また、オフィス環境事業においてはリモートワークと出社のハイブリッド、コミュニケーションや共創の大切さを提案してきました。今回の場づくりにはこうした経験や知見が活かされています。
「リアルな場とオンライン、どちらも重要で、相互補完し合う関係になっています。たとえば、オンラインで発言が少なかった学生が、リアルの場に足を運び、温かな雰囲気に安心感や自信を得て、オンラインでの発言が増えた事例もあります」(恒弘さん)
「HR高等学院ではリアルとオンラインで、同じ内容の授業を行っている」(恒弘さん)
YOYOGI BASEでは自ら問いを立てて学びを深める探究活動だけでなく、企業社員や起業家とのリアルな対話を通じて越境的な視点を養い、学校の枠を超えて未来を考える力を育みます。企業連携PBL(※)も実施しており、今後はオカムラともPBLを実施する計画があります。「オカムラが手がけたこの空間を活用したPBLができると面白いのではないかと思っています」と恒弘さんは構想を語ります。
※:Project Based Learningの略。学生自らが課題を見つけ、その課題を解決する力を身につける学習法
「PBLにおいてリアルな場があることの良さは、意見をリアルタイムで拾えて、ディスカッションのスピードが上がり、よりクリエイティブなコミュニケーションが起きることだと思っています。そもそも中高生にとって、大人との接点は大事。むしろ大人と関わる機会を欲しています。YOYOGI BASEが、大人や企業の人と有機的に関わり合う場として機能すれば、学生たちの世界がどんどん広がっていくでしょう」(恒弘さん)
学生が書いてくれたオカムラへのメッセージ
取材中、コーチの提案で小野や取材チームがそれぞれの仕事を簡単に説明する場面があり、学生からは質問も出ていました。
放課後には「オカムラありがとう」というメッセージをホワイトボードに即興で書いてくれて、取材チームが感動する場面もありました。
なお、HR高等学院では、学びの伴走者を「先生」ではなく「コーチ」と呼んでいます。これは先生と学生、教卓と机・椅子という配置が上下関係を生みやすいという考えから。フラットな立場で学びをサポートするというスタンスの表れです。
放課後には「オカムラありがとう」というメッセージをホワイトボードに即興で書いてくれて、取材チームが感動する場面もありました。
なお、HR高等学院では、学びの伴走者を「先生」ではなく「コーチ」と呼んでいます。これは先生と学生、教卓と机・椅子という配置が上下関係を生みやすいという考えから。フラットな立場で学びをサポートするというスタンスの表れです。
未来の教育を切り拓く「探究のモデルルーム」
恒弘さんはYOYOGI BASEを「探究のモデルルーム」だと表現します。「日本はまだ受験教育がメインで、ヒントになるような場所はほぼなく、参考にしたのは海外の探究の学びの事例でした。今回、なかなか前例のない難しい挑戦に対し、オカムラのみなさんが本気の場づくりに一緒に取り組んでくれたことに感謝しています。今後は拠点を増やす際には、場所に合わせてアレンジしていきたいと思います」
小野にとっては非常に大きなチャレンジになりました。「内装を含めた提案や造作家具への対応をはじめ、テナント様とのやり取りや中小企業スタートアップ補助資金申請の見積もりなど、さまざまな業務に取り組みました。入社1年目ですから当然すべてが初めての経験で、限られた時間での対応が大変なこともありましたが、とても大きな経験になりました」(小野)
「YOYOGI BASEの空間づくりは、忘れられない仕事になった」(小野)
YOYOGI BASEはいわゆる一般的な学校の教室とは違い、ソファやカウンター席といった家具の多様性や、ビルの1フロアを活用するレイアウトなど、オフィスに近い要素も含んでいます。長年、教育施設とオフィス空間の両方を手がけてきたオカムラならではの提案で、新しい学びの場が生まれました。
この空間の存在は、すでに学生がHR高等学院に通うモチベーションになっているようです。授業は10~15時ですが、早めに登校し17時の閉校ギリギリまで残る学生も多く、仲間と自由に過ごしています。恒弘さんは「いい時間を過ごしていて、うらやましいくらい。やはり高校時代は、10代最後の特別な時間。かけがえのない高校時代のチャレンジを応援していきたいです」と笑顔を見せました。
小野は「実際にここに来て自分たちが手掛けた空間で学生が活き活きと過ごしているのを見て、支店の先輩が言っていた『営業のやりがいは、納品後にこそわかるんだよ』という意味が実感できました」と充実した表情で語りました。
取材後にコーチや学生たちと記念撮影
編集後記
オフィスや学校、病院、公共施設など、さまざまなノウハウを持つオカムラの幅広い対応力が活きた今回のプロジェクト。学生の活き活きとした表情や自由な空間の使い方を見ていると、空間が気持ちや行動に与える影響の大きさがわかります。また、取材チームも実際に生徒との対話を体験し、YOYOGI BASEが大人との接点が生まれる場として機能していることを実感しました。仕事紹介に対する質問やお礼のホワイトボードなど、次の行動が早いことも印象に残っています。放課後のにぎやかな様子はまさに青春そのもので、リアルな場のコミュニケーションの意義を改めて感じることができました。(編集部)
Profile
恒弘 大輔
HR高等学院 事業本部長
早稲田大学教育学部卒。2018年に株式会社トライグループに入社。家庭教師事業・個別教室事業を中心に新規事業開発責任者、事業戦略、マーケティング、拠点拡大、採用育成など幅広く従事。累計1000名を超える家庭の教育コンサルティングと課題解決を行う。 世界の様々な教育を学びたいという思いから、2023年同社を退職し教育をテーマに世界一周、5大陸53カ国を訪れ各地の教育機関や学校を訪問。現在HR高等学院の運営責任者、学校企画を担当。