オカムラDNAタイムライン Vol.9
2025年10月に創立80周年を迎えるオカムラ。その経営理念である「オカムラウェイ」の根底には、「創業の精神」「社是」「モットー」があります。これらは「オカムラDNA」として、いまも私たちに受け継がれています。本企画では、さまざまな事業領域に広がるオカムラ80年の歴史を振り返りながら、「オカムラDNA」を感じられるストーリーを探ります。それは過去だけにとどまりません。現在はもちろん、未来も視野に。今回のテーマは、ロビーラウンジとそこで使われる「ロビーチェア」です。オフィスのロビーや銀行をはじめ、病院、空港、学校、図書館、美術館、駅や公園など公共空間でも、何気なく座っているベンチやロビーチェア。人が集まる場所に欠かせないものです。そこには場所や利用者に応じたさまざまな工夫がなされています。オカムラのものづくりの中心には、いつも「人」があり、こうした空間も例外ではありません。今回は、そんな公共のロビーラウンジをテーマに、原点となった製品から、使用する「人」に応じた進化まで、時代の変化とともにふりかえります。
オカムラのロビーラウンジ原点は、在日米軍の将校クラブにあり!?
まずは、オカムラの歴史の中でも、もっとも古い時期までさかのぼってみましょう。1945年10月、岡村製作所(現・オカムラ)は創業。最初期は、鍋、フライパン、弁当箱など金属加工技術を活かした生活用品を製造していました。その後、GHQ(連合国軍総司令部)が施設で必要とする物品のうち、特にテーブル、ラウンジチェア、ソファ、ベッドなどのスチール家具の大量発注に対する各種入札に参加。当時、これらGHQ向け製品の製造は、事業の大きな柱でもありました。米軍キャンプ向けガーデンファニチャー
その中のひとつが、パイプ家具のガーデンファニチャー「テーブル&チェアセット」です。全国に駐留する多くの米軍キャンプにつくられたクラブや将校クラブなどで使用されたそうです。オカムラの歴史を俯瞰すると、このガーデンファニチャーは、現在に続くオフィス家具の端緒であり、公共の場で利用されるベンチやロビーチェアの原点と考えられます。
その他、テーブルやチェアなどを含めたGHQ向けクラブ什器は、のちに多くの公共空間を手掛けることになるオカムラの初期の事例の一つと言えるかもしれません。
また、米軍基準の「米国連邦規格」に基づく品質管理や製造開発の技術は、以後の製品にも継承されます。この時代に培われた堅牢性と快適性を兼ね備えたものづくりのDNAは、公共空間で使われる家具にも欠かせない要素でもあるのです。
その他、テーブルやチェアなどを含めたGHQ向けクラブ什器は、のちに多くの公共空間を手掛けることになるオカムラの初期の事例の一つと言えるかもしれません。
また、米軍基準の「米国連邦規格」に基づく品質管理や製造開発の技術は、以後の製品にも継承されます。この時代に培われた堅牢性と快適性を兼ね備えたものづくりのDNAは、公共空間で使われる家具にも欠かせない要素でもあるのです。
クラブ家具「ラウンジセット」
高度経済成長とともに広がるロビーチェアの役割
やがて米軍基地内住宅向けDXシリーズのソファ、応接などは、オカムラがスチール家具の製造へ移行するきっかけにもなりました。そこからオカムラは、オフィス家具のメーカーとして成長していきます。やがて、その守備範囲は、オフィスだけでなく公共空間へと広がります。高度経済成長期には、オフィス事業も銀行や自治体の待合いなど「人が集まる場」へと拡大。長イスやFRPチェアベンチといったロビーラウンジで活用される製品が生み出されていきました。
90年代以降、海外提携やデザイナーとのコラボレーションでデザイン性も向上
これらの製品で重視されたのが、使う人を起点にデザインする姿勢です。これは、「デザインオリエンテッド企業」としてのオカムラグループのデザインポリシーにつながっています。とくに「ユニバーサルデザイン」の視点は、多くの人が集う公共施設向けの製品においては欠かせないもの。当時からオカムラは、そうした視点で「人」を中心にしたものづくりに取り組んできました。
90年代、公共施設の大きな事業の柱となった空港と病院
1990年代、オカムラが手がける公共施設向け事業は、空港と病院という2つの分野で拡大しました。ここでは、それらの事例からオカムラのロビーチェアの進化を振りかえります。90年代に入り、日本の航空ビジネスが国際的に変化し、羽田空港(東京国際空港)に新ターミナルが完成、24時間運用可能な関西国際空港も開港しました。これに伴い、オカムラは空港向けロビーチェアの開発を本格的に開始。空港ごとの特注品から標準化へと移行し、効率的な製造体制を整え、国内外の主要空港で展開が進みました。
上海浦東空港に納入したロビーチェア
1992~1994年の新東京国際空港(成田)への納入ではレイアウト性能や耐久性、人間工学に基づいた快適な座り心地、大人数が効率的に着席できる点などが評価されました。
関西国際空港第三ターミナル(2017)
1994年にはイタリアの建築家レンゾ・ピアノ氏デザイン監修のロビーチェアを関西国際空港に納入。東京国際空港(羽田)の新国際旅客ターミナル建設に伴っては、安全性の向上やダイバーシティを指針に新しいロビーチェアの開発に取り組みました。また国内に限らず1999年の上海浦東国際空港にはじまり、2010年の上海虹橋国際空港など海外の空港にもロビーチェアを展開しています。
空港でのスケッチから。ロビーラウンジの利用者を観察して製品設計に反映
例えば、空港のロビーチェアは、外国人も含めて多種多様な人が利用することを考慮し、耐久性や強度も検討されています。また、近年ではSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、エコフレンドリーな素材を活用する動きも進んでいます。
さらに、空港利用者の多様化に伴い、プライバシーを重視した半個室型の座席や、スマートデバイスの充電機能を備えたロビーチェアの需要も高まっています。このように、オカムラのロビーチェアは、空港インフラやサービスの向上とともに、利用する「人」のことを考えて進化を続けています。
デザイン性の高いロビーチェアを広い空間に配置した受付(1990年代)
もう一つの柱である病院のロビーチェアも、医療機関の変化とともに進化しました。
医療機関に診察を受けに来る人は、受付からさまざまな場所を移動します。例えば、初診の場合、総合待合から各科の待合へ、そこで診察室の前の待合を経て診察。そして診察後に会計・投薬という流れが最近は多くなってきました。この背景には、医療機関の運営の変化にともなう予約制へのシフトも影響しています。
そうした変化の中、患者のホスピタリティやプライバシー保護も優先する方向に変わりつつあり、さまざまな配慮がなされています。
医療機関に診察を受けに来る人は、受付からさまざまな場所を移動します。例えば、初診の場合、総合待合から各科の待合へ、そこで診察室の前の待合を経て診察。そして診察後に会計・投薬という流れが最近は多くなってきました。この背景には、医療機関の運営の変化にともなう予約制へのシフトも影響しています。
そうした変化の中、患者のホスピタリティやプライバシー保護も優先する方向に変わりつつあり、さまざまな配慮がなされています。
オカムラは、こうした医療機関のニーズに対応するために実地調査を行っています。こうした取り組みにも、「人」を中心に考えるデザインオリエンテッド企業としてのオカムラの姿勢が表れています。
病院でのスケッチから。待合の様子から病院のロビーチェアに必要な機能を確認
総合待合に、緊急時にストレッチャーになるベンチを配置しているケースもあります。また車イスなどでも移動しやすい動線の確保はもちろん、産婦人科ではおなかの大きな妊婦や小さな子ども連れの方が過ごしやすいように、整形外科では杖の使用や立ち上がりも考えて待合を設計しています。医療機関の待合スペースにおかれたロビーチェアには、こうした多様なラインナップがあります。
ロビーラウンジは、生活に密接した空間で進化
現在もオカムラは、さまざまな空間でロビーチェアを提供しています。空港、医療機関以外では、図書館、学校、美術館に加え、自治体、オフィスや公共空間のホワイエ(※)など、その事例は多岐に渡ります。※劇場やホールなどの入口から観覧席までの広い通路や、大型ビルの入口近くに設けられる広いスペースのこと
例えば、東京都の中野区役所のその一つです。JR中野駅周辺の再開発にともない、2030年までに計画されている11のプロジェクトの先駆けとして、中野区新庁舎が2024年5月に開庁しました。ここでは、オカムラがユニバーサルデザインに配慮し、誰にでも安全でわかりやすい空間づくりを手がけています。
中野区新庁舎のロビーラウンジ
新庁舎1階区民交流スペースの中央に位置する総合情報コーナー”ナカノのナカニワ”は、多摩産材を使用して整備されています。また、子育て相談窓口のロビーには隣接した場所にキッズスペース、親子トイレ、ベビールームが設けられ、子ども連れの来庁者も安心して相談ができるような空間となっています。
オカムラが手がけるロビーラウンジとロビーチェアは、時代の変化とともに、そこに集う「人」を中心に常にアップデートされてきました。病院の待合い、役所の窓口前、図書館の閲覧スペースなど、さまざまな人が暮らし働く場でみなさんが何気なく座るロビーチェアも、もしかするとオカムラが手がけているかもしれません。
「オルガテック東京2025」に出展
2025年6月3日(火)~5日(木)の3日間にわたり東京ビッグサイトにて、未来のワークスタイルを提案するデザイン型ビジネス・プラットフォーム「オルガテック東京2025」が開催されます。オカムラは『チェア、イス、オカムラ 日本の「座る」を支えていく。』をコンセプトに出展します。
この記事で取りあげたロビーチェアに限らず、人は1日の中、さまざまな場面で座って過ごす時間があります。急速な技術革新や価値観の多様化が進む中、いつの時代も変わらないのが「座る」こと。オフィスはもちろん、駅、空港、病院、図書館、学校、スタジアムなど、座るシーンはさまざまです。
「オルガテック東京2025」で、オカムラは約100脚の製品を揃えた展示空間で「座る」への気づきと体験の場を提供します。詳細は、以下の特設サイトをご覧ください。
編集後記
ロビーラウンジ、そしてそこにある家具は、私たちの日常で利用するときにあらためて意識されることは少ないかもしれません。しかし、その背景には、利用者の快適性や安全性を追求してきたデザインオリエンテッド企業としての姿勢が反映されています。私たちも、この記事でロビーチェアと、使われる空間の歴史を振り返ることで、オカムラが「人」を中心としたデザインを考え、時代とともに進化し続けてきたことを再確認しました。身近にあるロビーチェアに座ったときには、そんな視点を少し意識してみたいと思います。(編集部)