赤坂インターシティAIRに入居する、オカムラのラボオフィス「CO-Dō LABO」の一角にある、共創空間・Open Innovation Biotope “Sea”。Seaはこの春、ニューオータニ・ガーデンコート3階にある「オカムラ ガーデンコートショールーム」内に移転をすることが決まっています。
2024年1月17日(水)、「CO-Dō LABO」内のSeaとしての、社外向けラストイベントが行われました。イベントタイトルは、「世の中は、動物園から変えられる。- 人を感動させる仕事の生み出し方」。北海道・旭川市にある、旭山動物園の園長・坂東 元さんをゲストにお迎えしたトークイベントでした。実は、このイベントの前に、「動物園×はたらく」をテーマにした社内向けワークショップ「旭山動物園にはたらく場を作ろう」が開催されていました。
動物園とはたらく?一見つながりの見えない2つを掛け合わせたワークショップ。意外性と野生味あふれる社内ワークショップの様子を、このイベントを企画した「はたらく」を変えていくオカムラの活動 WORK MILL メンバーの小倉 悠希よりお届けします。
ワークショップのはじまりのおはなし
ワークショップに集まったのは、オフィス環境事業本部 働き方コンサルティング事業部の空間デザイナーを中心とした34名。「動物園にはたらく場?」疑問を持ちながらも、わくわく・どきどきの様子で集まるみなさん。旭山動物園にいる動物名のチームに分かれて、15:00のスタートを待ちます。
「時間になりましたので始めていきたいと思います!」と声をかけたのは、Seaのコミュニティマネージャーの岡本 栄理。岡本と一緒に、ワークショップを進めるのは、Seaの共創パートナー・フジッコ株式会社の豊田 麻衣子さんとオカムラ・ワークデザイン統括部の六車 文明です。かわいいホッキョクグマのスライドがSeaのスクリーンに映し出され、ほっこりした雰囲気に。
ワークショップのスタートは、テーマ同様、一見関係性の見えない、坂東園長、豊田さん、岡本、3人の「なれそめ」のお話から。
豊田さんと岡本が出会ったのは、2017年。名古屋で開催された「働き方改革」にまつわるイベントで、偶然、参加者どうし、隣に座ったことから始まったご縁。豊田さんは、海上自衛隊を経て、2017年にフジッコ株式会社に入社。ダイバーシティ推進室で、働き方改革や組織風土改革を推進し、その後もさまざまなかたちで社内改革に取り組まれ、現在はインナーブランディングのご担当をされています。
坂東 元
1961年北海道旭川市生まれ。酪農学園大学酪農学部獣医学修士課程卒業。獣医となり1986年より旭山動物園に勤務。飼育展示係として行動展示を担当。1997年の「こども牧場」から「ぺんぎん館」「あざらし館」「ちんぱんじー館」「レッサーパンダ舎」「エゾシカの森」「きりん舎」「かば館」などすべての施設のデザインを担当、数々のアイデアを出し具体化。また手書きの情報発信やもぐもぐタイムなどのソフト面でも具体化、システム化を図ってきた。現在は、「ととりの村」の設計を手がけている。ボルネオでの活動も本格化しており、マレーシア・サバ州での野生生物レスキューセンターの建設に着手し第一期工事を終える。2009年より現職。
豊田 麻衣子
2002年3月防衛省海上自衛隊入隊。広島県江田島市にある海上自衛隊幹部候補生学校を経て、横須賀、岩国、市ヶ谷等において、契約・法務・補給・監察・監査・総務などの業務を担当。2017年4月にフジッコ株式会社に入社。ダイバーシティ推進室において、働き方改革を立案・実行する傍ら、組織風土改革を推進。その後、人事総務部門で、社員食堂や社内報の改革、健康経営の推進など、社内にまん延したこれまでの当たり前を体当たりで改革。コア事業本部で広告宣伝・PR業務を経て、現在は、インナーブランディング、食育・社外イベントを担当。旭山動物園への訪問は150回以上となっている。自他共に認める坂東園長ファン。
写真:齋藤大輔
「ずばり、私の『推し活』です!」と言い切る豊田さん。豊田さんの旭山動物園の訪問回数は、150回をこえると言います。「旭山動物園が、坂東園長が好き。何かお役に立ちたい!」その想いをついにぶつける時がやってきたのが2022年5月のこと。その年の春にオープンしたばかりの「えぞひぐま館」の前で、豊田さんは坂東園長を突撃し、講演を打診。そこから、地元・神戸でのイベントへの出演をお願いしたり、オカムラの大阪の共創空間・beeでのイベントを実現させたりと、「好き」という想いと行動力で、ご縁を育まれています。
ワークデザイン統括部 兼 WORK MILL統括センター
岡本 栄理
東京の共創空間・Open Innovation Biotope “Sea”を拠点に、より全国規模の共創を創発するリーダーとして活動中。「自然体でおもしろい」場づくりを大切にしている。楽しい場、おもしろい人が大好き!の、共創をライフワークにしたい人。
動物園とはたらく???
3人のつながりは見えてきましたが、今回のワークショップ開催までの道のりはどのようなものだったのでしょうか?さかのぼること数か月……あるレストランでの坂東園長、豊田さん、岡本のなにげない会話と妄想が始まりだったようです……。豊田さんは旭山動物園の休憩スペースで、やむを得ず仕事をすることがあるそうです。すると、鳥がぴちくり鳴いたり、猿が「きーきー」わめいたりしている声が聞こえ、そういった瞬間に、ふと、思いがけないアイデアや考えが浮かんでくる瞬間がある、とおっしゃいます。
さらに、そのことを、坂東園長が何気ない会話の中で聞いたり、豊田さんが実際に仕事ができる場所を探している様子を見かけたりする中で、「動物園にはたらく場があってもいいんじゃないか」とひらめいたそうです。そこから、動物園ではたらくことによって、普段とはまったく違う思考回路を呼び覚ましたり、モノの感じ方に変化が起きたりするのではないか、と想いをめぐらせるようになったとおっしゃいます。こんな話を、食事をしながら話したことが、今回のワークショップ開催のきっかけです。
坂東園長が考える、動物園の中での「はたらく場」とは。
「毎日生き物と接していると、彼らや彼らの棲家である地球や自然環境のに起きている問題を、差し迫った危機であると感じる」とおっしゃる坂東園長。地球という命のつながりの中に生きる私たちが、そういった事実を自分ごととして想像できている人は、どれくらいいるでしょうか。
「いまと同じような生活や活動をしていたら、10年後にいまの環境は、間違いなくなくなる。昔と違って、地球環境に対するアクションが本気で必要な世の中になってきました。今この瞬間が、自分達の生活や自然への態度を見直す最後のチャンスと言ってもいいのかもしれない。僕は、そういう危機感を持って生き物に向き合っている」
「彼らの棲家を含めた地球環境に対する思いやりの気持ちを育み、自然と共生する未来を選択する社会をいかに作っていくべきか。動物園という場所が、その架け橋になれるんじゃないか」
自分が置かれた環境のなかで、生き物や地球とのつながりを感じ、感謝や尊敬の念を込めた仕事を生みだしたりすることができるような、「はたらく場」が、動物園にあってもいいのではないか……と坂東園長は語ります。さらに、人口減少が進む旭川で都市部からの訪問者と接していると、この国の未来の意思決定をしているのは、東京のど真ん中で働く人々である、と感じることがあるそう。
「だからこそ、自然や命のいとなみに触れ、危機を『自分ごと』として、『何をすべきか』を考えるトレーニングが必要なんです。しかし、残念ながら、政府や企業活動の多くは、自然や命とは分断された場で行われており、自ら目覚めて行動を起こすということを期待するのは、困難であると言えるでしょう」
都会の最前線で働いている人こそが、理想を掲げて実現してほしい、と坂東園長は続けます。
このような想いから、日々はたらく場づくりに取り組むオカムラメンバーに、「動物園のはたらく場」を制約なしで考えてほしい、と今回のワークショップ開催が決まったのです。ヒトという生き物に、刺激を与え、感性をくすぐる場があれば、幸せや豊かさを感じやすくなるのでは?生き物たちの暮らしを目の当たりにすることで、生きることの原点を問い直しつつ、はたらくことができる場が生み出せるのでは?と参加者に対し、今回のワークショップに対する期待と想いをお話いただきました。
描いていきます!幻の15枚目のスケッチ……?
坂東園長の想いをうかがい、いよいよ「動物園のはたらく場を考える」ワークに進みます。ワークのアウトプットは、「スケッチ」。スケッチであることには理由があります。旭山動物園は、1980年代後半から入園者が減少し、閉園の危機にさらされたことがありました。「人間の都合で動物を飼育して、人間の都合で動物をつまらなくして、動物園がなくなる、なんてことはあってはいけない、どうにかしなければいけない」と考えていた旭山動物園の飼育員さんたちは、動物園の想いや夢について語り合い、スケッチに描いたそう。坂東園長は「言葉だけでなくて、絵にしてみることによって、いろいろなことを考えた。思考が整理された。」と振り返ります。1990年代後半から、このスケッチを実現していく過程で、個々の動物が本来持っている能力を最大限にひき出し来園者に見せる工夫をした施設が話題となり、それが「行動展示」と呼ばれ、動物達の活き活きとした、ありのままの姿を伝えたいという飼育員さんの想いが結実した動物園として注目されるようになっていきます。いま残る当時のスケッチは14枚。今回のワークは、このスケッチのエピソードをなぞらえ、15枚目のスケッチを描く、というものです。
詳しいワークの進め方は、ワークデザイン統括部の六車が説明しました。14枚のスケッチは伝え方を表現しているのではないか、と六車。動物たちの生活や生き方をどう伝えるかをつきつめて考え、描かれた14枚に対して、今回のワークショップで描く15枚目は、インプットを活かして自分の生き方やどのようにはたらくか、アウトプットしていく場になるのでは?と解説します。各テーブルに配布されているものは、模造紙、スケッチブック、色鉛筆、マーカー。
① キャッチコピーと施設の名前
② 施設の狙い 誰に、どんな価値を提供するか
③ 施設のスケッチ(イメージ) 雰囲気や機能、どのように使われるか
以上3点を模造紙にグループごとに描くことが、今回のワークです。模造紙の使い方や描き方は自由。描くときは、わくわく・どきどきすることがひとつ大きなポイント、とワークのルールも解説されました。想像力・妄想のふくらむ、楽しい時間になりそうです。時間は1時間。この日のために特別に用意された旭川の銘菓を食べながらチームでの対話とスケッチ制作のスタートです。
感じたこと、考えたことを伝え合う。手を動かす。
順番に想いやアイデアを共有し始めるチーム、まずは個人のアイデアを書き出したり描く時間をとるチーム、かたちのイメージを描き始めるチームなど、やり方はさまざまです。あるチームの対話の様子を聞いていると、
「動物のリズムで1日を過ごしてみたら?」「なぜ忙しく自分たちは働いているのかな?」「動物の仕事=餌をとる、狩りをする。動物はつらいと思うのかな?」「動物は残業するかな?」……さまざまな疑問やアイデアの種がふつふつと湧き出しています。
アイデアを出し、かたちにしてみる。1時間のワークの時間はあっという間に過ぎてしまいます。早々に模造紙にスケッチを描くチーム、真っ白な模造紙の前で対話が盛り上がるチームも。「ワークの時間、延長したほうがいいかな?」と運営側の会話もありながら、それぞれのチームの様子を坂東園長にも見ていただき……ワーク終了時刻の16:30を迎えました。「作業時間、5分延長します」の六車の声に、最後の仕上げにとりかかる各チーム。発表に向けての確認をするチームもいます。
伝えたい、生きるとはたらく
いよいよ発表です。豊田さんからの「発表の順番は、早いもの勝ち!」との呼びかけに、次々と手が挙がり、あっという間に発表順番が決まりました。
一番手、チーム・エゾモモンガのアイデアのタイトルは、「動物を愛するすべての人の心を豊かにする、旭山ズートピア計画」。模造紙に描かれたかわいらしいイラストと、シーンが盛り込まれた発表に会場からは大きな拍手が。「旭山動物園納税」などのアイデアを組み合わせ、動物園を中心に、人の心を豊かに、そして地域を活性化する、という壮大なプロジェクトに、坂東園長も思わず「意表をついてきた!」とコメント。
次のチーム・シロフクロウのアイデアは、「動く物たちのシェアオフィス~人が動くと働くになる」。動物園内に点在した働く空間は、ヒトからも動物からも見られるしかけ。ヒトにも動物にも、平等にいとなみを見せるというアイデア。この空間では、ヒトが働くために必要なものは自ら用意しなければいけません。電気も自分で発電。机が必要だったら、材料を集めて……はたらくことの原点を見つめ直すことができそうです。
動物を絞り込んで、場を考えたアイデアもありました。チーム・ホッキョクグマ、「サルの本能に触れて、人の本能を呼びさます 原点の山」。猿山の内側から、サルの行動を観察し、本能に触れるというアイデア。透明な猿山、という見たことのない構造物に想像がふくらみます。
後半も、ユニークなアイデアの発表が続きました。
チーム・エゾシカの「生きるを見つめる人間舎~最後の審判~」は、一緒に過ごす人との関係性を、動物がいる環境を通して見直すきっかけとなる場。
動物を見つける、というアクティビティを通して感性を取り戻す、というアイデアも。「あの子とかくれんぼ」というかわいらしいネーミングも印象的です。こちらのチーム・エゾリスもふくめ、デジタルデトックス、というキーワードが多くのチームから出てきました。デジタル機器の便利さと、それに振り回されたり、頼り切った生活に、みなさん思うところがあるようです。
最後のチーム・ゴマフアザラシのアイデアは、「動物と共生できる受容の部屋」。動物のリズムで生活することができる空間が動物園内に点在する、というもの。動物を見る対象ではなく、一緒に時間を過ごす仲間として考え、また、動物からも見られる、動物の仲間としての人間という一面も引き出すアイデアでした。
想像をこえた自由なアイデアが発表され、坂東園長はたまに苦笑いも。動物園でのはたらく場は、生き物としてのヒトにとって、忘れていたことを思い出したり、新たな感性や感覚を拓く場になりそうです。アイデアの実現を、全員がわくわくした気持ちで期待しながら、2時間のワークショップは終了となりました。
「伝えるのは、命」命と向き合うことによって見えてくる、「活きる」
ワークショップの醍醐味である、出会ったばかりの人とチームを組み、対話をすることによってアイデアをかたちにしていく。そんなプロセスを社内という安心感のある中で体感してもらった2時間でした。今回のワークショップは、企画から実行までのプロセス、そして、ワークショップのコンテンツ、どちらも「共創」の楽しさや可能性を体現するものでした。組織の壁をこえて多様な人が集い、価値創造を目指す「共創」。このすばらしさを、これからもさまざまなかたちで伝えていきたいと考えています。
動物園とはたらく場。今回のワークショップでは、一見関係のないように思える2つのテーマを掛け合わせることで、思いがけないひらめきやアイデアが見えてきました。テーマに楽しみやすさ、親しみやすさがあり、意外性を軽やかに楽しんでいる参加者のみなさんの様子が印象的でした。
動物園は、長年にわたり「自然への扉」としての社会的な役割を果たしてきました。人々が心を癒し、自然を学ぶことができる、まさに「自然への扉」そのものであり、人々の活動や成長に必要な癒しや活力、学びを提供する場としての力を持つ動物園。生き物たちの生命力に引き込まれる、夢中になる、ということにおとなもこどもも関係ありません。
生きるとは、そして、はたらくとは。日々、はたらくに向き合っているオカムラのメンバーだからこそ伝えたい、「生きる」と「はたらく」の関係性。そんな想いをかたちにしたワークショップでした。
「人が活きる」その根底には、「生きる」と真摯に向き合うということも大切であると感じました。生き物や地球環境へのまなざし、そして共に豊かに生きることを想うことを通して、「活きる」と「生きる」を考え、表現する時間となりました。
※「伝えるのは、命」旭山動物園の理念
セールスプロモーションセンター
小倉 悠希
今回のレポート執筆を担当。名古屋の共創空間・Open Innovation Biotope "Cue" コミュニティマネージャー。サステナビリティ全般をテーマとした共創プロジェクトを企画・実践中。自然も都市も大好き!旅をするように働けるようになりたい人。