オフィスビルの共用スペースなどを自律走行して床掃除を行う業務用掃除ロボット「STRIVER(ストライバー)」。ビルメンテナンス業界の人手不足や高齢化などの課題を解決する製品として、2022年4月の初号機発売以来注目されています。従来の業務用掃除ロボットとは一線を画し、市販の業務用掃除機を乗せ、技術的に難易度が高い壁際1cmまでの掃除を可能にしました。革新的な機能を搭載したSTRIVERの開発・製造を手がけているのは、フォークリフトなど産業車両用のトランスミッションの開発を担うパワートレーン事業部。今回は、STRIVERプロジェクトチームのメンバー5人による座談会をお届けします。STRIVER誕生の背景と、そこに込められた想いを探ります。
Profile
参加してくれたSTRIVERプロジェクトチームのメンバーを紹介します。
鬼柳透(きやなぎ・とうる)
パワートレーン事業部 製造部 第二工作課
2009年入社。STRIVERの製造・量産品の組み立て・試作改造などを担当。
吉田佑平(よしだ・ゆうへい)
パワートレーン事業部 営業部 営業課
2019年入社。STRIVERの販売窓口、お客様対応(ショールーム案内、デモンストレーション、納品)などを担当。
児島俊哉(こじま・しゅんや)
パワートレーン事業部 技術部設計課
2019年入社。外装・内部構造・電子回路の開発・設計を中心に、STRIVERの設計を担当。
清水耕史(しみず・こうし)
パワートレーン事業部 技術部設計課
2022年入社。機構・構造を中心に、STRIVERの設計を担当。
浦崎日菜(うらさき・ひな)
パワートレーン事業部 製造管理部
2022年入社。部品の発注、製造現場向けの生産計画作成など、STRIVERの製造管理を担当。
「壁際1cmまで接近」を追求。ビル清掃の負担を減らす製品を
――まず、STRIVERとは、どのような特徴を持つ製品なのか教えてください。
吉田佑平(以下、吉田):STRIVERは、市販の業務用乾式掃除機(以下、業務用掃除機)を搭載し、自律走行で床を掃除できるロボットです。主にオフィスビルの共用部での使用を想定して開発しました。特殊な車輪を採用しており、旋回や真横の移動がスムーズなので、初めてご覧になられた方は「斬新だね」と驚かれます。
他社からも、業務用掃除ロボットは販売されていますが、STRIVERの大きな特徴は、主に2つ、「業務用掃除機を搭載できる点」「壁際1cmまで掃除が可能な点」です。
吉田:他社製品は、掃除機とロボットの一体型が主流ですが、STRIVERは分離型を採用しています。そのため、サイズが合うものという縛りはありますが、すでにお使いの業務用掃除機を乗せるだけで、吸い込み能力を保ったまま自動で掃除できます。もし既存の業務用掃除機がない場合は、推奨する掃除機とセットでの提供も可能です。もちろん、掃除機なしでも販売しています。
また、壁から10cmほど離れたところまでしか掃除できない製品がほとんどなのですが、STRIVERでは壁から1cmというギリギリのところまで掃除できるように工夫を凝らしました。壁際10cmまでしか掃除できないと、その分人手が掛かってしまうのですが、壁際1cmまで掃除できれば、ほぼ人手を必要としません。
こうした特徴を持つSTRIVERは、清掃品質をしっかりと担保できる製品として、ビル清掃業界の省力化・効率化を後押しできます。
――ビル清掃業界は省力化・効率化を必要としている、ということでしょうか。
吉田:はい、その通りです。ビル清掃業界は、人手不足かつ高齢化が大きな課題です。それを解決するためには、やはり業務の省力化・効率化が必要です。そこで役立つのがロボット掃除機で、実際に導入を検討されるビルメンテナンス会社様は、増えたように感じています。
業務用掃除ロボットの分野では、STRIVERは後発なので、他社製品にはない特徴でしっかり価値を提案しなければなりませんでした。それもあって、省力化・効率化につながる壁際1cmまで掃除できる機能にはこだわりました。
鬼柳透(以下、鬼柳):大型の業務用掃除ロボットを壁に寄せること自体、かなりリスクを伴います。というのも、それなりの重さがあるので、壁に当たったら傷をつけたり壊したりしかねないからです。そのため、安全装置はかなり慎重に開発されています。
吉田:お客様の課題に寄り添った開発が可能だったのは、お客様のところに足を運んで、課題や要望をヒアリングさせてもらえたからだと思っています。営業職の私がヒアリングした内容は、技術職のメンバーに共有して、開発に役立ててもらいました。
今も、お客様の声に耳を傾け、反映させながらSTRIVERプロジェクトチーム全員で製品の機能向上に取り組んでいます。営業がお客様からヒアリングした情報をもとに、すぐに開発に反映できるところが、このチームの強みかもしれません。
――STRIVERの開発・製造はパワートレーン事業部が担っていますが、なぜ業務用掃除ロボットを手がけることになったのでしょうか。
鬼柳:パワートレーン事業部は、主にトランスミッション※1とトルクコンバータ※2を製造しています。これらは、フォークリフトや除雪車、建設機械などの産業用車両、いわゆる「働く車」に搭載されています。
オカムラはオフィス家具のイメージが強いですが、もともとは飛行機製造の技術者が集まって創業した会社です。国内初トルクコンバータ式オートマチック車「ミカサ」を開発した歴史もあり、「動くものをつくる」事業を継承している点からも、パワートレーン事業部の仕事はオカムラのルーツに直結しているといえます。
近年は、環境配慮型製品の需要の高まりもあり、エンジンからモーターへの転換期を迎えています。実際に、フォークリフトなどは、電動車両むけの製品が増えつつあります。事業部内では、サプライヤーとして電動車両向け製品を提供するだけではなく、いつかは最終製品を自分たちでつくりたい、という希望がありました。そんなとき、業務用掃除ロボット開発の打診があり、ぜひやりましょう、ということで、最初は当時先行で開発を担当していた他事業部とともに手掛けることになりました。
※1:変速機。エンジンの回す力(トルク)や回転数を速度や負荷に応じてギアを切り替えるしくみ。
※2:流体変速機。エンジンの動力を伝達する装置で、身近なところではオートマチック車のクラッチに使用されている。
吉田:中村社長がビルメンテナンス会社様の課題を知り、それを解決できる製品をパワートレーン事業部でつくろうという話になったのが、STRIVERの出発点でした。パワートレーン事業部は、オフィス家具を主力事業とするオカムラのなかで取り扱っている製品の特性上、ユニークな存在。なかでもこのSTRIVERプロジェクトの開発チームはさらに独特かもしれません(笑)
職種を超えた連携。ワンチームでSTRIVERの開発に臨む
――本日お集りいただいた皆さんは、設計、製造、事務、営業と職種がさまざまですが、STRIVERの事業にどのように関わっているのでしょうか。
児島俊哉(以下、児島):設計としてSTRIVERの外装の樹脂カバー設計、内部の板金の骨組みの設計、バッテリーと掃除機を繋ぐ電気回路設計などを担当しています。
清水耕史(以下、清水):2023年1月からSTRIVERの設計に携わるようになりました。主に児島さんがメインで設計を担当されているので、私は細かい部品の設計を担当しています。たとえば、お客様のご要望を受けて、市販の業務用掃除機で標準搭載されているノズルではなく、STRIVERの車体幅に合わせた、吸い込み口が広めのノズルを開発しました。
浦崎日菜(以下、浦崎):私はSTRIVERの部品発注や出庫指示など、事務を担当しています。
鬼柳:私は製造を担当しており、STRIVERの効率のよい組み立て方法の検討や、生産ラインの構築に携わっています。
吉田:営業として、主にビルメンテナンス会社様や、ビルマネジメント会社様を対象に、ショールームで実機をご紹介したり、お客様が所有するビルでデモンストレーションを実施したりしています。
鬼柳:それぞれの職種や所属部門の担当業務はもちろん決まっていますが、今回のSTRIVERプロジェクトでは細かく役割を分けず、営業と技術職が一緒に動くなど、ワンチームで手掛けているところも特徴的です。外部展示会で初めて発表してから2年経ちますが、今もお客様のご要望を反映しながら、現在進行形で改良改善に取り組んでいます。
私はそれがすごく楽しくて、組み立てていて、ちょっと作りにくいなと感じることがあれば、すぐに設計にフィードバックしたり、お客様からの要望を営業から聞いてすぐに反映したり。これまでとは異なるものづくりをしている感覚があります。児島くんや清水くんも、よく組み立て現場に来ているよね?
児島:はい、図面上は問題なくても、組み立てると図面通りにいかないことは多々あります。なので、鬼柳さんの意見を参考にしたいと思って、よく組み立ての現場に顔を出しますね。
――職種ごとに決められた作業に取り組むのではなく、連携を取りながら開発や製造を進めていらっしゃるのですね。他の皆さんは、STRIVERを通してどのようなことに挑戦しましたか?
児島:トランスミッションの場合、試作から実用化まで数年かけるのですが、STRIVERは比較的期間が短いです。トライ・アンド・エラーを繰り返すスピードが速くて、すぐに結果が見えるのでおもしろいですし、自分にとっても新しい挑戦でしたね。
清水:STRIVERの開発項目と、お客様からの要望のタイミングが重なってしまうことがあります。その際に、納期の兼ね合いを考えながら、設計の優先順位をつけながら仕事を進めなければいけないのですが、とてもよい経験になっていると思います。
浦崎:私はSTRIVERに携わるまで、生産計画を立てる仕事がメインだったのですが、STRIVERで部品を発注したり、取引先とメールでやり取りしたりと、業務の幅が広がりました。
吉田:清掃効率を上げるには、稼働時間を延ばすか、スピードを速くするか、一度にたくさん清掃できるようにするか、この三択です。稼働時間を延ばすには、多めにバッテリーを積まないといけないので重量が増えますし、スピードを速くすると衝突の際のリスクが高まります。とすると、残りの一度にたくさん清掃できるようにすることが、現状の最適解です。その一例として、ある企業様向けのオプションで幅広ノズルを開発したのですが、これは清水くんが担当しています。清掃性を高めるためには効果的でしたね。
清水:ありがとうございます。ノズルの幅を広げれば広げるほど、吸引力が弱まってしまうため、その両立を図ることが課題でした。そこで、他社の業務用掃除機のノズルの形状をスケッチすることからはじめて、現状と同等の性能を幅広ノズルでも再現できるように、こだわって設計しました。
「人が活きる」を支えるSTRIVERが活躍できる場所を広げたい
――STRIVERを通して、どのような価値を提案していきたいですか?
鬼柳:人の役に立てる製品をつくりたいと思っているので、ビル清掃に携わる皆さんに、「STRIVERがあって助かった」と思っていただけたら本望です。
清水:他社の掃除ロボットと違って、市販の業務用掃除機を乗せられることが、STRIVERの強みだと考えています。お客様にもっとSTRIVERを活用したいと思ってもらえるよう、これからも製品の機能を磨いていきたいと思っています。
浦崎:私はロボットに掃除機を乗せるという発想がすごく新しいと感じました。STRIVERには、人手不足の解消に向けて活躍してほしいですね。
吉田:現在、STRIVERはビル共有部の清掃に特化して開発していますが、ゆくゆくはオフィスの中や、小売店など、いろいろな場所での清掃に活用してもらいたいと思っています。街のいたるところでSTRIVERが活躍している光景を見られたら、うれしいですね。
鬼柳:私は旅が好きなので、ホテルで清掃員の皆さんと一緒にSTRIVERが活躍していたらうれしいかも(笑)。
児島:吉田さんと鬼柳さんが言うように、STRIVERを身近に感じてもらうことで、ロボットのハードルが下がる気がしています。ちょっと変わった見方かもしれませんが、人間とロボットの心地のよい共存の在り方を考えるきっかけづくりに、STRIVERの価値があるのかなと思います。
――STRIVERはオカムラがめざす「人が活きる」社会の実現に貢献できる製品といえますね。最後に皆さんが「人が活きる」と感じる瞬間についてお聞かせください。
吉田:自分が活躍できる場があると感じたときです。STRIVERは、人が働く場所で活き活きと働く手助けになる製品なので、営業として携わることにやりがいを感じます。
児島:STRIVERの設計には、電気や機械など、ありとあらゆる知識が必要です。それらの知識を融合させて設計できたとき、自分にしかできない価値を生み出せた実感を持てるので、その瞬間「活き活きしている」と感じます。
清水:私は、いろいろな新しいことを知り、学んでいるとき、「活き活きしている」と感じます。STRIVERの設計に携わるようになって半年ですが、たくさんのことを学べました。幅広ノズルを設計できたのも、児島さんや鬼柳さんをはじめ、チームの皆さんと密にコミュニケーションを取って、フィードバックを貰って、設計をし直して、というプロセスを踏めたお陰です。とても多くのことを学べました。
浦崎:自分が関わった製品がお客様に届いて、笑顔になってもらえたらうれしいです。お互いが笑顔になれることが、「人が活きる」ということなのかなと思っています。
鬼柳:このメンバーで、今もよいチームとして動けていると思いますが、販売が拡大すれば、社内でSTRVERに携わる人も増えて、もっとよい雰囲気が広まるのではないでしょうか。私はベテランの立ち位置にいますが、楽しくて活気のある職場づくりに貢献したいので、若手とも一緒の視線で仕事をして、違った意見を尊重し合うことを意識しています。風通しのよい職場環境を築き、何でも話し合える雰囲気をつくること、それが私にとって活き活きとすることかもしれません。
既存の業務用掃除機を搭載する、新しい掃除ロボット「STRIVER」。その誕生の背景には、ビル清掃業における人手不足と働き手の高齢化という社会課題があります。その解決のために、パワートレーン事業部の設計、製造、事務、営業のメンバーが所属の壁を越え、ワンチームで取り組んでいました。今回の座談会でも、チームとしての横のつながりの強さがとても印象的でした。大きな成果を生むため、互いに協力し合いチームワークを発揮する。これはオカムラのDNAとして継承される創業の精神「協同の工業」にも通じます。この先、STRIVERがどう進化していくのか、彼らの話を聞いて、期待が高まりました(編集部)