My Okamura Way Vol.4
現在、神奈川県横須賀市にある技術技能訓練センターに所属する齋藤竜世(さいとう・りゅうせい)。2020年に新卒で入社、2022年まで青年技能者の技能レベルの日本一を競う大会「技能五輪」に出場する選手を経験。金属の板材を曲げてさまざまな形状に加工する技術「曲げ板金」で、2022年の技能五輪で銀賞を獲得しました。2023年から技能五輪にチャレンジする後輩の指導を担当しています。「これまで培ってきた経験を活かして、技能五輪で金賞を獲る人を育てたい」と語る齋藤のこれまでとこれからについて聞きました。時間と精度の両立で銀賞獲得。金賞への思いを後輩に託す
――入社以来、どんなお仕事をしてきたか、教えてください。
齋藤竜世(以下、齋藤): 技能職で入社し、一年に一度開催される技能五輪※1にオカムラの代表として出場するため、選手※2としての訓練を受けていました。オカムラでは選手として技能五輪に挑戦できるのは、入社から3年程度です。そのため、昨年(2022年)の全国大会を最後に引退し、現在は指導員として技能五輪に出場する後輩の育成に取り組んでいます。
※1:国内の青年技能者(原則23歳以下)を対象とし、技能尊重機運の醸成を目的とした大会。競技職種は、機械系、金属系、建設・建築系など42職種に及ぶ。参考:中央職業能力開発協会「技能五輪全国大会とは」
※2:技能五輪に出場して技能競技に取り組む青年技能者のこと。
――入社から昨年(2022年)までの3年間、技能五輪の出場にむけて技術・技能を磨いてきたのですね。どのように過ごしてきたのでしょうか。
齋藤:2020年4月に入社、6月に開催される神奈川県の予選会に向けて、「曲げ板金」の基礎を学びました。具体的には、鉄板を触るところからはじまり、切ったり曲げたりする加工や、立体にするための計算などです。予選会は合格して、11月の全国大会に初出場しました。
ただ、全国大会での成績は散々なものでした。渡された図面をもとに、鉄とアルミの板でイスをつくる課題だったのですが、時間内に何とかかたちにすることで精いっぱい。形状に違和感があったり、表面に傷ができていたりと、仕上げの精度まで追求できていなかったので、当然の結果だったと思います。ほかの選手の作品を目の当たりにして、レベルの違いに驚きました。
――初めての挑戦は苦い思い出でしたね。その経験をふまえて、どのような努力をされたのでしょうか。
齋藤:初年度で精度の重要性を感じたので、そこを追い求めていたのですが、次の2021年の大会では、時間内に終わらずに2分くらい時間をオーバーしてしまったんです。前回よりも仕上がりはよかったのですが、受賞はできませんでした。
精度と時間を両立させる大切さを実感したので、時間内に終わらせることを必須として、精度を上げる工夫を意識しました。図面通りのサイズにつくるだけではなく、絶対に傷をつけない、絶対にズレないようにする、隙間を均等にするなど、製品としてきれいに見せるにはどう工夫すればいいのか研究しました。そして迎えた最後の年、3年目の挑戦で銀賞を獲得できました。このときの課題は、ポストでした。
――有終の美を飾られて、すばらしいですね!
齋藤:指導してくださった先輩や、応援してくださった社員の皆さんの支えや協力がなければ、銀賞は獲れなかったので、少しは恩返しできたかなと思っています。とくに加工で使う工具を手づくりしてくださった先輩には、とても感謝しています。
――現在は、指導員をされています。今度は教える立場になられたわけですね。
齋藤:はい。いずれは製造現場で働くこともあると思いますが、まずは後輩に自分が学んだことを伝えたいという気持ちが強く、指導員の道に進みました。金賞に届かなかった悔しさもあるので、次は後輩が金賞を獲れるように力になりたいです。金賞を獲れる選手を育成するためには、一方的に説明したり、簡単に答えを教えたりするのではなく、自分で「ここをこう加工すれば、こうなるんじゃないか」と気づいて、工夫する力を身に着けてもらう必要があると思っています。
ただ、自身の経験から、何度試しても結果が出ない時に、一人で考え続けるのは精神的にもつらいときもあるので、指導員として一緒に考えるようにしています。うまくいかないときは、「なぜ?」を繰り返し質問して、どこに問題があるのか一緒に考える、そんな指導を心がけています。
――なるほど。方法を教えるだけではなく、ともに考える姿勢が大事なんですね。関わり方のバランスが難しそうです。
齋藤:僕自身もまだ指導員になってから日が浅く、やりがいがあると言えるまで到達していません。今は、次の予選会や大会まで、どのような技能を高めることが必要なのか、後輩のスキル習得度合いを見極めながら、漏れのないように訓練スケジュールを立てることに注力しています。また、今年(2023年)は課題がポストから変更になると想定しているので、それに応じて技能要素も変わります。指導員として、新しい技能要素にいち早く対応しないと教えられないので、自分も同時に学ぶ必要がありますね。
オカムラが取り組む、ものづくりのための人財育成
オカムラは、ものづくりを学ぶ場を設け、高い技術力と発想力を有する人財を育ててきました。1960年代には岡村製作所技能訓練所(のちに岡村工業技術学校に改称)を、1990年代にはオカムラ技術短期大学校を開設。現在の技術技能訓練センターにいたるまで、普遍的かつ時代ごとに必要とされる教育に取り組んでいます。
2011年2月に開設した技術技能訓練センターでは、今回紹介している技能五輪の選手育成のほか、ものづくりに携わる従業員の教育も行っています。技術職だけでなく、営業やデザイナーなどが参加する新入社員向けの集合研修も実施。技術技能訓練センターは、職種を問わず、オカムラのものづくりにおける考え方や姿勢を学ぶ場でもあるのです。
技能五輪に惹かれてオカムラへ。熱意溢れる先輩から刺激をもらった
――オカムラで働くことを選んだ経緯を教えてください。齋藤:高校2年生のとき、学校で開催された会社説明会で、オカムラの技能五輪選手だった先輩(同じ高校の卒業生)が講演をされていて、それを聞いたことがきっかけでした。そのとき初めてオカムラという会社を知りました。
僕は工業高校の機械科で学んだのですが、卒業後の進路としては自動車メーカーをはじめとする製造業の技術職を選択する生徒が多いです。僕はコミュニケーションが必須の職種には少し苦手意識があったので、黙々と作業するイメージの技術職を希望していました。でも、技能五輪の存在と、オカムラでチャレンジできるという可能性を知って、ゼロからすべて自分でつくるものづくりに興味を持ちました。正直、曲げ板金のことはあまり知らず、技能五輪に挑戦してみたいという気持ちだけで、オカムラを選びました。
――これまでのお仕事を通して、仕事観に影響を及ぼしたものはありますか?
齋藤:選手時代に、先輩が自分以上に熱意を持って指導してくださったことは、自分の仕事観に大きな影響がありました。「これでいいかな」と思って提出した課題に対して、「これじゃダメ」「まだレベルが足りていないよ」と指摘されるとショックでしたが、先輩の熱意がありがたかったですし、応えたいと思ってやる気が出ましたね。
趣味は愛車のスポーツカーでドライブ
「趣味は自動車」と話す齋藤。休日は、もっぱら親友2人と愛車でドライブに出かけているそうです。「横浜周辺で、とくにみなとみらいの夜景を見に行くことが多いです。車と運転が大好きで、去年思い切ってスポーツカー『トヨタ GR86』を購入しました。見た目がかっこよくて大好きなんです。これからカスタマイズにも挑戦したいと思っています」
後輩のために道具を製作。新しい技術を獲得すると「活き活き」する
――この先、仕事を通してどんな「自分」になりたいですか?齋藤:今は指導員という立場になったので、後輩が金賞を獲れる指導者になることが一番です。そのためには、先ほどもお話ししましたが、指導する後輩の力量を見極めたり、技能五輪の開催を見越して計画を立てたり、そうした指導員としての能力を高めていきたいです。
また、自分の技術・技能も引き続き磨いていきたいと思っています。例えば、板金を曲げて綺麗なアーチをつくろうとしても、どうしても飛び出てしまう部分ができ、思い通りの形状にならないこともあります。そんな時、自分なりに改善する方法を見つけてクリアできた達成感は、やりがいに直結します。
金属の加工は、手先の器用さや工具はもちろんのこと、体重移動など体の動かし方も意識することで上達します。まさに心技体をひとつにして臨む必要があるので、達成できるとモチベーションが上がります。
――オカムラは「人が活きる」社会の実現をめざしていますが、齋藤さんは「人が活きる」に対してどんなイメージを持っていますか?
齋藤:「人が活きる」とは、僕にとっては新しい技術を習得して自分の成長を感じ、また次に挑戦したいテーマを見つけることだと思います。技術技能訓練センターでは、技能五輪をめざす選手も指導員も、全員で同じ目標に向かって努力しています。技能五輪で結果を継続的に出し、全体の技術・技能レベルをさらに上げていくことが、ひいてはオカムラの製品の価値を上げることにつながると信じています。
――では、齋藤さんが「活き活き」するのは、どんなときですか。
齋藤:繰り返しになりますが、新しい技術が身につくと思えたときに「活き活き」しますね。今、治工具(じこうぐ)※3仕上げを身につけるため、技能検定試験に挑戦しています。治工具仕上げ検定は、図面から設計者の意図を読み取り、個々の部品サイズを決め、高い精度(0.01㎜)の加工を弓ノコ、やすりを用いてすべて人の手で行う、基本要素を網羅したものです。その精度が評価されます。
治工具仕上げの精度を高めることは、曲げ板金の精度に直結します。実は、オカムラでは先輩の指導員が、後輩の五輪選手の治工具を製作していて、僕も先輩につくってもらいました。なので、僕も今、後輩のために治工具を製作しています。次の大会に向けて、使いやすい治工具を渡すためにスキルを磨いているときが、今の自分にとって活き活きする時間だと思います。
※3:素材などの加工や組み立ての各工程で使われる器具の総称。治具ともいう。
インタビュー後記
技能五輪の選手として3回目の挑戦で見事に銀賞獲得を実現した齋藤。今後は、指導員として金賞を取れる選手を育成するのが、齋藤のテーマ。本人も語っていたように、指導するために自らも学び続けているのは、かつて指導してくれた先輩の影響です。静かな語り口の中にも、さらに技術・技能を磨こうとする、齋藤の熱い思いを感じました。オカムラが培ってきたものづくりの技術・技能の継承とは、このような姿勢も含まれるのかもしれません。齋藤が育成する新たな技能五輪選手たちの活躍を期待しています。(編集部)