株式会社オカムラは、経営理念「オカムラウェイ」のもと、「人が活きる」社会の実現をめざしています。そのオカムラウェイをテーマに、さまざまな角度からオカムラがこの先めざす姿を紹介していくのが、本連載「Okamura Way and Beyond」です。
コロナ禍をきっかけに「新しい生活様式」が浸透し、働き方改革を加速させた企業は少なくないのではないでしょうか。オカムラではかねてより、働く場づくりをリードする企業として、常に「これからの働き方」を試行し続けており、40年以上に渡り、働き方や働く場づくりを研究しています。2022年4月には、書籍『エシカルワークスタイル 自分にも人にも優しい働き方を考えてみる(日経BP刊)』を出版しました。
そこで今回は、コーポレート担当 CHRO 常務執行役員 佐藤喜一と、書籍の著者であるワークデザイン研究所 池田晃一の対談を実施。「人が活きる」実践につながる働き方を探ります。
Profile
佐藤喜一(さとうよしかず)
株式会社オカムラ 常務執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部・シェアードサービス部・秘書室)
1982年、株式会社岡村製作所(現:オカムラ)経営情報システム研究所に入社。経営企画部、1999年労働組合中央執行委員長、2009年総務部長を経て、2015年人事部長に。定年延長・賃金制度などの人事制度改革、採用(新卒・キャリア)、労務、健康経営推進、D&I、働き方改革の推進などを担当。2019年からCHROとして人財開発も含めた戦略人事に従事する。2022年4月より現職。
株式会社オカムラ 常務執行役員 コーポレート担当 CHRO(人事部・人財開発部・お客様相談室・サステナビリティ推進部・シェアードサービス部・秘書室)
1982年、株式会社岡村製作所(現:オカムラ)経営情報システム研究所に入社。経営企画部、1999年労働組合中央執行委員長、2009年総務部長を経て、2015年人事部長に。定年延長・賃金制度などの人事制度改革、採用(新卒・キャリア)、労務、健康経営推進、D&I、働き方改革の推進などを担当。2019年からCHROとして人財開発も含めた戦略人事に従事する。2022年4月より現職。
池田晃一(いけだこういち)
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 チーフリサーチャー
2002年、株式会社岡村製作所(現:オカムラ)入社。当時のオフィス研究所に配属後、20年間働き方の研究に従事。専門はグループワーク分析、場所論。2007年から2010年にかけてリカレント教育として東北大学に国内留学。2015年から一年間、休職して東北大学大学院医学系研究科助教(広報・コミュニケーション担当)を務めた。著書に『オフィスと人の良い関係』(共著、日経BP)『はたらく場所が人をつなぐ』(単著、日経BP)などがある。
株式会社オカムラ ワークデザイン研究所 チーフリサーチャー
2002年、株式会社岡村製作所(現:オカムラ)入社。当時のオフィス研究所に配属後、20年間働き方の研究に従事。専門はグループワーク分析、場所論。2007年から2010年にかけてリカレント教育として東北大学に国内留学。2015年から一年間、休職して東北大学大学院医学系研究科助教(広報・コミュニケーション担当)を務めた。著書に『オフィスと人の良い関係』(共著、日経BP)『はたらく場所が人をつなぐ』(単著、日経BP)などがある。
幸福な働き方の新提案「エシカルワークスタイル」
池田晃一(以下、池田):私は20年以上にわたり、働き方や働く場について研究してきました。健康で働き続けるためにはどうしたらよいのだろう、と考えた結果、「エシカル」という概念にたどり着きました。エシカルは「倫理的にまっとうなこと」を意味する言葉で、この数年でよく知られるようになったと思います。わかりやすい例は「エシカルファッション」で、地球環境や人権に配慮した商品のこと。
これまでの働き方って、生産性や効率性、給料の額に価値観の重きを置いていたと思うんです。確かにそれも大事なのですが、人生100年時代の今、心身ともに健康でいる状態を長く保つには、多様な人が共存共栄して、各々が利他の精神を持ち、豊かに働ける職場環境を整えることが大事ではないかと。さらに言えば、地球環境に配慮した働き方も意識する必要があります。まとめると、エシカルワークスタイルとは、「健康」「利他」「ダイバーシティ」を三本柱にした、これからの時代の働き方の提案です。
佐藤喜一(以下、佐藤):ここ最近の世の中の変化が、エシカルワークスタイルという提案につながったというわけですね。私が管轄する人事部やサステナビリティ推進部では、健康経営やD&I※1に積極的に取り組んでおり、働き方改革関連法を遵守するために労働時間の管理を徹底することによる従業員の健康の維持に注力しています。すべての根幹には、「人が活きる」という視点があると言えるし、それがオカムラの働き方の価値観やカルチャーにつながっています。
※1:ダイバーシティ&インクルージョン。多様性を受け入れ、尊重する考え方。
池田:かつては、60歳まで会社勤めをしたら、あとは老後を過ごす時間と言われました。けれども、今は定年が以前より延長されるなど、65歳、70歳まで働くことは珍しくなくなりましたよね。もしかしたら、今後定年を迎える年齢はさらに延びるかもしれません。そうすると、これまでとは人生設計が変わってきます。そこを意識した場合、「健康」「利他」「ダイバーシティ」を重視して働き方を設計しないと、幸せな人生に結びついていかないと思うんです。
佐藤:幸福な働き方を考える上で、「健康」「利他」「ダイバーシティ」は重視すべき項目かもしれませんね。オカムラでは、独自の働きがい改革「WiL-BE(ウィル・ビー)」を推進しています。
オカムラでは、「Work and Health運動」として90年代から会社と労働組合で連携して、長時間労働の是正と有給休暇の取得、健康診断の受診率向上などを進めてきた歴史がありますが、「WiL-BE」を通じて働き方改革から働きがい改革へとさらに取り組みを加速させています。「人が活きる」社会の実現を掲げるオカムラとして、まずオカムラで働く従業員自身が活き活きとしていてほしい。エンゲージメントを高める取り組みを積極的に進めてきています。
池田:「健康」に関して言えば、心身ともに健康な状態の維持は、働き続けることに直結します。また、「利他」については、どうしたらいろいろな人が共存して働けるのかを考えることで、結果として働きやすい環境の創出にもつながります。「ダイバーシティ」も同様で、多様な価値観を持つ人が働いている組織は、活発な議論が起きやすく、ひいてはイノベーションが起こることを期待できます。そして、イノベーションは事業の持続性につながります。
「健康」「利他」「ダイバーシティ」をワークスタイルの柱にすることで、企業活動によい影響を及ぼすサイクルが生まれるのではないかと思っています。
一律の制度に紐づかない「柔軟な働き方」とは
池田:人事制度の充実とは別に、研究所として、「時間」「場所」「タスク」の3要素の組み合わせによって柔軟性を上げていこうと、2012年から「柔軟な働き方」の実証実験を進めてきました。組織で「柔軟な働き方」を実現するというのは、バラバラに働いていいよということではありません。仕事の伝授や意思疎通などは必要ですし、集まって働くことで、1+1が3や4になるという奇跡が起きることもあるわけです。そこで重要なのは制度自体を柔軟にすること。全員が一律の制度に基づいて働くのではなく、職種やライフステージによってバリエーションを持たせることが大事です。佐藤:コロナ禍の緊急事態宣言が出た当初は出社できない状況の中で、オカムラも販売部門の従業員の多くがリモートワークをしてきました。現在はアフターコロナに向けて移行のフェーズに入っていますが、コロナ禍前の働き方に完全に戻ることは難しい中、リモートと出社を組み合せた「ハイブリッドワーク」をどうするかなど、従業員アンケートの結果をふまえて、池田さんをはじめ研究所の皆さんに意見をもらいながら検討しています。
池田:私も研究所の知見やエビデンスを人事の制度に活かしていければと思っています。
佐藤:人事制度に必要なのは、労務管理をすることではなく、一人ひとりが最大限パフォーマンスを発揮するためにどのような仕組みをそろえられるかという点です。企業である以上、利潤を追求していかなければいけない中で、個人とチームの評価にどう納得性を持たせるか、まだまだこれから精度を上げていかなければいけないと思っています。
息切れせず、働き続けるために何が必要か
池田:人生100年時代の働き方を考えるうえで重要だと思っているのは、働くモチベーションを後押しすることです。いま多くの人は20代前半で会社に入り、働きながら専門性を身につけていきます。ただ、途中で息切れしてしまう人も少なくない気がします。そこでキャリアを重ねた段階で、新たな仕事の柱を持つ選択肢があってもよいのではないしょうか。私たちはそれを「セカンドブースター」と呼んでいます。もし、「何を目標にしてよいのか」、「どう成長していけばよいのか」を思い描きにくいと感じたときは、「リカレント教育※2」「サバティカル休暇※3」などが、解決のための具体的手法として考えられます。人生のキャリア形成を考えるうえで、人によって学びなおしや長期休暇で留学や資格取得をすることは有効だと思います。一直線ではなく、マルチトラック(複数の道筋)なキャリアを歩むことで、パフォーマンスを高めながら貪欲に働き続けられると考えています。
※2:生涯を通じて学び続けていくこと。学びなおし。
※3:長期勤続者に対して与えられる一定期間の長期休暇を与える制度
佐藤:そうですね。日本のビジネスパーソンは、自分のために勉強する時間が持てないと言われています。要因としては、長時間労働が考えられます。これからは会社も働き方を見直すとともに一人ひとりの学ぶ気持ちを喚起することが大事だと思います。会社にできることは、制度として学びやすい環境をつくること。オカムラでは、いつでもどこででも学べるE-learningシステムの導入や、自身が思い描くWork in Lifeを実現できるように、自ら考え、学びたいものを学ぶ「オカムラ ユニバーシティ」を社内研修制度として用意しています。
池田:会社に、そういう環境があるのは、すごくよいことだと思います。一方で、仕事をしながらの勉強って、精神的にも肉体的にも、「つらいな」と感じてしまうこともあるんですよね(笑)。そこのケアは、組織としても必要かもしれませんね。そのひとつとして、ロールモデル(考え方や行動の規範になる人物)の存在は大事だと思います。ロールモデルや然るべき人に相談できるかどうか、そして成功失敗問わずチャレンジした人のモデルを増やして、その経験をどんどん広めていくと、会社としてよいサイクルが生まれるような気がします。
「人が活きる」の体現に向けて。多様性を理解するマインドが必要
佐藤:オカムラウェイの概念「人が活きる」とは、どのような状態なのか、人によって考え方はさまざまです。ひとつの指標に縛られるのではなく、個人が「自分にとって活きるとは何だろう」と考えながら日々を過ごし、1日の中でたくさんの幸せを感じることができる、それが「人が活きる」につながっていくのではないでしょうか。人事の観点からみても、従業員が活き活きと働いている状態をつくりたいと思っています。誰かの意見を否定したり、上からの意見を押し付けたりするのではなく、「いろいろな価値観や考え方があって当たり前だよね」という根底部分さえ理解できれば、やるべきことは見えてくると考えています。
池田:コロナ禍前までは、「多様性の尊重」は高齢者、障がい者、外国人、LGBTQなどを包摂する言葉として使われてきた側面があります。ただ、コロナ禍以降は、多くの人が一人ひとり多様で異なることに気付き、いろいろな働き方の存在を意識するようになりました。ひとつの価値基準で測れない今、人事部門は考慮するべきことが多くて、ホントに大変ですよね……。
佐藤:オカムラでは働き方にまつわる調査結果なども踏まえながら、従業員自らの働き方に関する制度を柔軟に整えています。これまで働き方は理想論で語られることが多かったかもしれません。けれども、今後はエビデンスやアンケートに基づいて検討することが重要になってくると考えています。最近は制度実施に移すまでのスピードが速くなっています。働き方を提案する企業として、従業員自らが柔軟に働ける環境や制度の整備に向けて、今後もさまざまな取り組みを実践していきたいです。
対談後記
VUCA(予測困難)な時代に突入した今、企業の持続的な成長のキーとなるのは、他ならぬ「人」です。これまでコストとして見なされてきた「人」の価値を最大化することは、投資家などのステークホルダーや社会からの要請でもあります。オカムラでは、数字では測れない「人間の幸福」に目を向け、従業員の多様な価値観に寄り添うことで、働き方改革を進めてきました。これは企業価値を高める観点からしても合理的であり、同時に会社としての情の深さや優しさを感じます。「健やかに、楽しく、活き活きと働く」――基本的なことかもしれませんが、実現するには難しい課題。これに対して佐藤と池田は、異なるフィールドに身を置きながらも、協力し合いチャレンジしています。そんな二人の姿勢からは、オカムラの「人が活きる」への実現に向けた本気の想いが、ひしひしと伝わってきました。書籍紹介
ワークデザイン研究所 池田晃一著
『エシカルワークスタイル 自分にも人にも優しい働き方を考えてみる』(発行:日経BP)
これからの働き方や働く場について、「健康」「利他・ダイバーシティ」、そして「地球環境」の3つの判断基準によって生み出される「エシカルワークスタイル」が今後の豊かな社会、地球を支える有効な手段であることを提唱。オカムラだけの知見ではなく、外部有識者との対話を通して、建築、地域、地球環境、副業、リカレント、サバティカル、情報通信技術の進化など、多角的に働き方を考察。コロナ禍を経て、オンラインとリアルを行き来する「ハイブリッドワーク」が当たり前になった今、この先の働き方を考えるためのヒントが詰まった一冊です。