「人が活きる」社会の実現をめざす、株式会社オカムラ。そんなオカムラの最新トピックをお伝えするのが、この「オカムラを知る!」です。新製品の開発時エピソードから、社内のちょっとした活動まで、オカムラグループのさまざまな取り組みを紹介していきます。
コロナ禍を経て、すっかり当たり前になったWeb会議。最近では、オープンスペースで対面とオンラインでの参加者が混在する、ハイブリッド型のWeb会議も増えました。それによって、周囲の音を拾う、ハウリングなどWeb会議で起きる音に関する多くの課題も発生しています。そうした問題解決のために開発されたのが、オカムラのWeb会議用音声コミュニケーションツール「TALKHUB(トークハブ)」です。
今回は、そんなTALKHUB開発チームのインタビューをお届けします。話を聞いたのは、TALKHUBの企画を立ち上げたオフィス環境事業本部 マーケティング本部 建材製品部の久保文人、デザインを担当したデザイン本部 プロダクトデザイン部の廣瀬りほ、開発を手掛けた株式会社富士精工本社 技術部 システム設計課の平出勝也、辻誠の4人。TALKHUBとはどんな製品なのか、コロナ禍における開発秘話から、これからの展望までを語ってもらいました。
改装工事でも解決しない“音”の問題
――まずは、久保文人さんにうかがいます。TALKHUBついて、どんな製品なのか教えてください。久保文人(以下、久保):TALKHUBは、Web会議や、オンラインとオフラインの参加者がいるハイブリッド会議などで、高音質で快適な音の環境を提供するツールです。オカムラ独自の音声制御技術によって、音漏れやハウリングといった音トラブルを防止します。TALKHUBを介してウェアラブルマイクスピーカーをBluetoothⓇ接続すれば、たとえばオープンスペースでも音漏れを気にせず、Web会議が開催できます。
――どういう経緯で開発がスタートしたか、教えてください。
久保:私の所属は、パーティションやパネル、防水板などの製品企画を担当する建材製品部です。その中で、パーティションのほかに会議室の音漏れを防ぐ、サウンドコンディショニングを担当しています。コロナ禍によるWeb会議の増加にともない、多くの企業で会議での音について相談いただくことが増えました。同時に、私自身もWeb会議の増加を実感していたので、それらを解決するソリューションを開発したいと考えたんです。
――従来は、どういった対策がとられていたのですか。
久保:多くの場合は、PCと置型スピーカーを接続してハウリングなどの問題を解決しようとしていましたが、隣室への音漏れや音質の悪さといったデメリットも。多額の費用をかけて壁や天井を工事したものの、遮音効果には限界があり、課題解決につながらないケースも散見されました。
――工事をしてでも音漏れを防止したい、というニーズがあるのですね。
久保:会議室の数は限られているため、オープンな執務エリアでWeb会議をしたい、というニーズは増えています。機密性の高い会議テーマへの配慮も必要ですし、会議室の隣に役員室があることから、音問題の対応に困っているクライアントもいました。
――スピーカーではなく、ウェアラブルマイクスピーカーを採用したのは、なぜですか?
久保:プロジェクトスタートのきっかけは、「見えない壁を作ればいいのでは?」というアイデアから。気流の幕で室内外の空気の流れを遮蔽する「エアーカーテン」のようなものをイメージしていました。しかし、大きい空間でノイズキャンセルをすることは難しく、いくつかのアイデアを出して試行錯誤する中で、TALKHUBにたどり着きました。
久保:多くの場合は、PCと置型スピーカーを接続してハウリングなどの問題を解決しようとしていましたが、隣室への音漏れや音質の悪さといったデメリットも。多額の費用をかけて壁や天井を工事したものの、遮音効果には限界があり、課題解決につながらないケースも散見されました。
――工事をしてでも音漏れを防止したい、というニーズがあるのですね。
久保:会議室の数は限られているため、オープンな執務エリアでWeb会議をしたい、というニーズは増えています。機密性の高い会議テーマへの配慮も必要ですし、会議室の隣に役員室があることから、音問題の対応に困っているクライアントもいました。
――スピーカーではなく、ウェアラブルマイクスピーカーを採用したのは、なぜですか?
久保:プロジェクトスタートのきっかけは、「見えない壁を作ればいいのでは?」というアイデアから。気流の幕で室内外の空気の流れを遮蔽する「エアーカーテン」のようなものをイメージしていました。しかし、大きい空間でノイズキャンセルをすることは難しく、いくつかのアイデアを出して試行錯誤する中で、TALKHUBにたどり着きました。
久保:TALKHUBを1台のPCと接続すれば、最大6台のウェアラブルマイクスピーカーとのBluetoothⓇ接続が可能です。ウェアラブルマイクスピーカーで音を個別最適化するソリューションは他になかったので、理想通りの音質を実現できれば、かなりのニーズがあるのではないかと考えていました。
創業90年以上の老舗関係会社と挑戦した、ゼロからの開発
――次は、TALKHUBの開発を技術面で担当した、株式会社富士精工本社の平出勝也さんと辻誠さんにお話をうかがいます。辻誠(以下、辻):富士精工本社は創業90年以上の企業で、現在はオカムラの関係会社です。もともとは銀行向けの金庫室扉からはじまって、現在は入退室管理システムや防水板など、セキュリティ設備を中心に手掛けています。なので、TALKHUBの話が来たときは、正直「なんで? 無茶ぶりじゃないのかな」と驚きましたね(笑)。
平出勝也(以下、平出):私がソフトウェアの設計・開発を担当したのですが、「BluetoothⓇで音声を飛ばす」と聞いたときは、「なんのこと?」という状態でした。セキュリティ設備と無線通信を一緒に扱う機会はほとんどなかったので。
辻:セキュリティシステム用のカードリーダーの基盤を作ったり、非接触式のドア開閉装置「タッチレスドア」を開発したりといった経験はありました。この実績をふまえてのオファーとのことでしたが、TALKHUBの開発は、私たちにとって「初めてづくし」で、チャレンジの連続でした。
平出:これまで培ってきた技術が活かせた部分は、ほとんどないと言っていいぐらい。ゼロからのスタートでしたね。スマホとイヤホンのように、BluetoothⓇは一般的な技術として、いろいろなところで使われています。なので、調べれば、なんとかなると思っていたんです。しかし、BluetoothⓇをつかって音声をやりとりするノウハウはオープンになっていませんでした。そのため、トライ・アンド・エラーを繰り返して、少しずつ未知の領域を切り崩していきました。
――初めてづくしの中、わずか1年で製品化に至ったと聞きました。どのような環境で開発を進めていたのですか?
辻:富士精工は石川県にあり、緊急事態宣言下では行き来ができなかったので、リモート環境での開発でした。デザイナーの廣瀬さんとは、対面で会うこと自体、今日が初めて。改めて、はじめましてですね(笑)。
平出:一番大変だったのは、実物を一緒に見ながら開発が進められないこと。まさにWeb会議で試作機を使いながらつくりあげていきました。試作機に機能を実装したらオカムラに送り、久保さんたちがフィードバックとともに送り返してきて……と、1台の試作機をキャッチボールのようにやりとりしていました。
――どのようなシーンで特に苦労されましたか?
平出:環境が変わると音の聞こえ方が変わったり、動画や写真ではボタンの光り方を伝えきれなかったりと、もどかしいことがたくさんありましたよね。一方で、毎週定例ミーティングを設定して、そこをマイルストーンに開発を進められたのはリモートならではのメリットだったと思います。
――久保さんは、お二人とリモートで開発を進める中、どう感じましたか?
久保:定例会議で進行していましたが、毎回短い期間で、さまざまなリクエストに対応してもらいました。オンラインでも、スピード感をもって協業して新製品の開発ができる、というのも新しい発見でしたね。
「コミュニケーションのハブになってほしい」デザインに込めた想い
――次に、TALKHUBのデザインの特徴について、デザイナーの廣瀬さんからお聞かせください。廣瀬りほ(以下、廣瀬):会議のハブ、つまり中心となるものなので、真ん中に置いたときに和むようなキャラクターを持たせたい。そう考えて、角を取り、丸みを帯びたデザインになりました。web会議用の機器はダークな色味で、角ばったデザインが多いイメージがあるので、印象を変えたいという狙いもありました。オンライン会議に対応するポータブルバッテリー「OC(オーシー)」と一緒に置かれるシーンも想定しています。
――デザインを手掛ける中で、大変だったことはありますか?
廣瀬:企画スタート時は入社1年目だったので、メインでデザインを担当するのはTALKHUBが初めてでした。樹脂の成形の知識もなくて、まずはそこから勉強をはじめました。一番大変だったのは、機能的な要件とデザインをいかに両立させるかということ。「デザインとしては、ここに基盤を固定したいけど、BluetoothⓇに干渉してしまう……」といった試行錯誤の繰り返しでした。
――デザイン性と使い勝手を両立させるため、特に気を使ったのはどんなところですか?
廣瀬:ボタンの光の透過具合です。ペアリングを示す光はじんわりとあたたかみのある風合いに、機能ボタンはアイコンがわかりやすいようにパキッと光らせました。ボタンは隣り合っているので、違う光り方をさせるのは難しかったですが、何度も調整を繰り返して、理想通りの光り方が実現できました。
快適なWeb会議で、より円滑なコミュニケーションを
――TALKHUBについて、お客様からはどのような反応がありましたか?久保:発売前、展示会での発表時から、「いちいちミュートしなくてよくなる」「話が聞き取りやすくなって助かる」といった声をいただいていました。2022年4月に発売されてからは、利用シーンとして想定していた少人数のWeb会議だけでなく、社内研修・講習会など、幅広いシーンで使っていただいているようです。
――Web会議以外でも、音の問題が気になっていた方が多かったのでしょうね。
廣瀬:そのようですね。ミュートのし忘れでハウリングが起きて会議が中断したり、音声が聞き取りにくくコミュニケーションがとれていなかったりと、音にまつわる問題は、私たちが思っていた以上に会議の質に影響を与えていたことがわかりました。TALKHUBを導入いただくことで、お客様のコミュニケーション活性化に貢献できていたら嬉しいですね。
――想定外の使い方をされているお客様もいるとのこと、まだまだ進化の余地がありそうですね。
久保:広い会議室内でも音が聞き取りやすいよう、置型スピーカーをTALKHUBと接続して使うなど、さまざまな使い方や要望が届いています。今回、初めて開発チーム全員で対面で会えたので、さらに進化した後継機の開発にドライブがかかるかもしれません(笑)。
――TALKHUBを通して、アフターコロナのビジネスシーンにどのような価値を提案したいと考えていますか?
久保:オンラインとリアルのよいところを組み合わせたハイブリッドな働き方をはじめとして、オカムラは今後も多様なワークスタイルの提案をしていきたいと考えています。TALKHUBも、いまは接続できるのは、6人までですが、より大人数に対応する仕様を検討中です。さまざまなシーンで柔軟に活き活きと働ける環境をつくるため、TALKHUBを活用いただきたいですね。
インタビュー後記
社員のアイデアと関係会社の連携で開発されたTALKHUB。リモートワークとWeb会議が一般的になったからこそ、そこに対する世の中のニーズをキャッチして生まれた製品です。おもにオフィス家具や空間づくりから「はたらき方」を提案してきたオカムラとして、TALKHUBのアプローチは意外と思われるかもしれません。しかし、「人が活きる」を実現する環境づくりをめざすうえで、時代の変化に対応することは欠かせません。会議の「音」に着目したTALKHUBは、これからの会議のあり方を変え、新しいスタイルをつくり出す、ひとつのきっかけとなるかもしれません。(編集部)
※Bluetooth®ワードマークおよびロゴは登録商標であり、Bluetooth SIG, Inc. が所有権を有します。