カテゴリー

本サイトについて


TAGS


ABOUT

時代を越えて継承されるものづくり企業を支える技術と技能

2022.05.12

新たな経営理念「オカムラウェイ」の根底にあるのは、「創業の精神」「社是」「モットー」です。これらは「オカムラのDNA」として、いまも私たちに受け継がれています。本企画では、さまざまな事業領域に広がるオカムラのタイムラインから、そんな「DNA」を感じられるストーリーを探ります。それは過去だけではありません。現在はもちろん、未来も視野に。
 

ものづくりを学ぶ場を設け、高い技術力と発想力を有する人財を育ててきたオカムラ。1962年に開校した「岡村製作所技能訓練所」から現在の「技術技能訓練センター」にいたるまで、普遍的かつ時代ごとに必要とされる教育を展開してきました。その背景には創業者から連綿と続き、「人が活きる」の根底を成すともいえる人財育成への強い想いがあります。

ものづくりに携わる人財を育ててきた歴史、技術技能訓練センターでの取り組み、そして技術の継承はオカムラの未来をどう切り拓くのでしょうか。オカムラのものづくりスピリットを受け継ぐ人たちに聞きました。
 

オカムラDNAタイムライン ~生産本部 技術技能訓練センター編~

岡村技能訓練所から続く、「ものづくり」を支える「人の育成」

2011年度に開校した「技術技能訓練センター(以下、訓練センター)」では、オカムラのものづくりを支える人財育成をはじめ、次代を担う若手技能者の技能を競う競技大会「技能五輪大会」へエントリーする選手の育成も行っています。

訓練センターの開校に深く携わり、初代センター所長に就任、現在も後進の指導にあたるレジェンドがいます。畑岡耕一(はたおか・こういち)、現代の名工にも選ばれ、卓越した金属加工技術と後進の育成を評価されて「黄綬褒章」を受章した人物です。
 
畑岡耕一は、創業者・吉原謙二郎の薫陶を受けた世代
畑岡耕一は、創業者・吉原謙二郎の薫陶を受けた世代

1966年に入社した畑岡は、岡村技能訓練所(以下、訓練所)を経てオフィス家具製品の試作や設計業務に従事。設計や生産技術に関する多くの工法を開発し、日本のオフィスチェアの精度向上に貢献しました。ものづくりの技術継承と人財育成の場であった「オカムラ技術短期大学校」が2000年に休校になって以来、ものづくりに対する意識が薄れることへの懸念が広がっていた中、訓練センターの開校は、畑岡の念願でもあったそう。

これからものづくりに携わる企業は、さらに厳しい競争に直面する、だからこそ教育に力を入れなければいけない。畑岡は自らの経験を踏まえながら、訓練センターの体制を整えていきました。畑岡と同年代の訓練所を卒業したメンバーも立ち上げ時には指導を担当、機械は個人的な“つて”も辿りながら調達するなど多岐にわたり尽力しました。
 
訓練センターには、さまざまな機械が並ぶ
訓練センターには、さまざまな機械が並ぶ

オカムラDNAの「社是」にある、世の中にないものを生み出す「創造」。訓練センターでは、それを体現した教育が施されており、創業者・吉原謙二郎が訓練所を開校したときのスピリットが活きています。「一流大学志向もいいが、それよりも、自分の実力を養い、才能を生かし、創造を目指せ」。これは吉原が師と仰ぐ、横浜高等工業学校(現・横浜国立大学)初代校長の鈴木達治の言葉※1。

※1:出典:日刊工業新聞『男の軌跡・世界へ飛ぶ 岡村製作所会長 吉原謙二郎』(1984年1月6日~26日 連載)

化学者でもあった鈴木は、「詰込み主義、知識偏重教育、試験万能主義」を批判し、創造性のない人物も会社も大きくはなれないと、自発的な学習に重きをおいていました。師である鈴木の教えを受けた吉原は、若いうちから世界的な視野をもって自己啓発に励むことの大切さを従業員に繰り返し語りかけ、社内で学ぶ機会をつくってきました。

次のパートでは、オカムラのひとづくりの歴史を遡ってみます。

 


「ものづくり」は「ひとづくり」、形を変えながらも受け継がれる想い

主力製品のオフィスチェアをメインに扱う追浜事業所内に、訓練センターはあります。この場所には「ひとづくり」の歴史が脈々と続いています。それぞれの時代を振り返ってみましょう。

岡村製作所技能訓練所(1962~1967)
岡村工業技術学校(1967~1979)

岡村製作所技能訓練所は、専門的な知識や技術を学ぶ全寮制の訓練所。「心技体」を鍛えることも目的の一つに含まれていました。当初は中学校卒業者の中から、将来会社の発展を担う中堅社員の育成を目指した教育を実施。開校式には吉原謙二郎も参加し、「岡村製作所だけではなく、世の中の役に立つ人間になっていただきたい」と激励しました。

訓練所の教育時間は年間2,200時間に及び、力学、機械、動力、電気工学、製図などに加えて普通学科まで幅広い教科を展開。1964年には、神奈川県立商工高等学校との連携教育がはじまりました。この訓練所で3年間寮生活を送っていた畑岡は、当時のことを「例えはどうかと思うけれど、まるで軍隊のようだった(笑)」と振り返ります。


「起床!という声がしたら、横一列で部屋の前に並びました。身体づくりのためにマラソンも毎日でしたね。それから寮から追浜工場まで徒歩で30分くらいかけて通っていました。ただ訓練だけじゃダメだと、通信制で勉強もしました。それは創業者に『ただ“もの”を作れるだけじゃなくて、学問を知らないといけない』という想いがあったんじゃないかな。今思うと10代だからこそ学べることがあったと思います。すぐ結果に出なくてもあとから仕事にも活きてくるんですよね。昔からオカムラには学びへの投資を大切にする社風があります」(畑岡)
 

創業者の書いた「気魄(きはく)」。訓練センター内に掲示されている
創業者の書いた「気魄(きはく)」。訓練センター内に掲示されている

岡村製作所技能訓練所から名称を改めた岡村工業技術学校は、約250名の卒業生を輩出。高い技術を備えた社員は、各工場の生産技術や製造現場に配属され、オカムラの技術力を支えました。

オカムラ技術短期大学校(1992~2000)

生産技術のメカトロ化の急務にともなう技能者育成のため、各事業所から生徒が集まり、追浜事業所内に開校しました。社内講師をはじめ、大学など外部講師による技術、技能の専門教育を展開。「電気制御や電子制御などを学び、技術向上の成果に結びつきました」(畑岡)

現在もオカムラ技術短大の卒業生が各事業所にいて、生産活動を牽引しています。

技術技能訓練センター(2011~現在)

オカムラ技術短大が休校となったのち、高い技術を持った団塊世代の退職が進みました。オカムラの技術力を次世代に引き継いでいく場がなくなった危機感が募ったことから、追浜事業所内に技術技能訓練センターを開校しました。現在の生産本部の教育活動は、この訓練センターを中心に行っています。
 
訓練センターでは、生産に関する新人研修やリーダー研修からインターンの指導まで行っている
訓練センターでは、生産に関する新人研修やリーダー研修からインターンの指導まで行っている

「技術部の責任者を任されていたときから、市場で受け入れられる、つねに新しい良い製品を世に出すためには、生産に関わる技術・技能をさらに上げていかなければと危機意識を感じていました。同じく教育の場の必要性を強く感じていた現社長や生産部門の役員を筆頭に、社内多くの人で検討を重ね、訓練センターの開校にいたりました」(畑岡)
 

技術・技能継承のいま。技能五輪の若手指導員と選手の想い

訓練センターでは、製品開発と製造の現場、両面から育成・強化を実施しています。

「工場で設計や品質管理に携わるスタッフに向けた開発力については、たとえば新入社員研修では製図、測定、工具名などの専門用語といった業務の基本を学びますが、それだけではやはり十分ではないんですね。そのため専門教育についてもマニュアルをつくったり、その後も継続的に研修を実施するフォローアップ体制を構築したりしています。製造現場向けでは、基礎から専門分野までさまざまな教育を実施すると同時に、オカムラの技術・技能への考え方や姿勢を発信する機会として、技能五輪全国大会へ挑戦しています」(畑岡)

技能五輪とは、原則23歳以下の技能者を対象に、機械系や金属系など42職種の技能を競う全国大会のこと。オカムラでは以前からさまざまな技能検定を受ける環境を整えていますが、技術・技能を次世代に引き継ぐために、訓練センター創立の2年後から「曲げ鈑金」職種で連続出場。これまでに銅賞、敢闘賞で複数回受賞を果たしています。また2021年からは「冷凍空調技術」職種でもエントリーしています。
 
技能五輪、競技の様子。本来だと何日も要する工程を1日で行う
技能五輪、競技の様子。本来だと何日も要する工程を1日で行う

現在、技能五輪をめざすメンバーの教育を担当するのは、五輪指導員の雪田大(ゆきた・だい)。自身も選手として4年間活躍し、2017年の技能五輪では銅賞を受賞しました。雪田は、次のように語ります。

「訓練センターでは、ものづくりの原理原則を日々学び、実践に必要なことを考え続ける習慣を身につけます。技術の進歩という面ではオカムラでもAIやロボットの導入が進んでいます。でも、新しいものや仕組み自体を考えるのは人間です。ものづくりは絶え間なく考えることで、より良いものになります。ただ、今ある技能だけを前提に考えるとありふれたものになってしまう可能性もあると思っています」(雪田)
 
技能五輪出場の経験を活かして後進を指導する雪田大
技能五輪出場の経験を活かして後進を指導する雪田大

たとえば―― と雪田が思考方法の例として説明してくれたのは、5回なぜを繰り返す“5なぜ”について。

「曲げ鈑金技術を訓練中に、『この接合面を見せないようにするにはどうしたらいいか』という問題にぶつかるとします。そこからさらに『なぜ』を5回繰り返して、本質的な問題を突き止めようという姿勢で取り組んでいます。技能五輪は設計図が用意されていないので、すべて手作業で課題製品をつくります。言われた通りのものをつくるのではく、自ら考えてつくることが求められています。それは苦しいけれど、考えられるということは、新しい技術が出てきた時に向き合う力になり、そして時代が変わっても求められ続ける要素だと思います」(雪田)

そして現在、選手として奮闘中の一人が、2020年入社の宇田川飛翔(うだがわ・つばさ)。自ら五輪選手を希望し、入社後、訓練センターへ配属。2021年12月に鈑金で初の五輪出場を果たしました。宇田川は、こう話します。

「技能五輪の課題は、通常完成までに1週間くらい必要なものを8時間で仕上げなくてはいけません。そこで、どのような技能が必要なのか、その技能はどれくらいまでレベルアップさせなければいけないのか、それをふまえてどのようにスピードアップするかといったことを考えながら、日々訓練しています。技能五輪は時間と精度への対応の両立が求められます。現在、指導いただく先輩方が作成してくれた、12段階評価の技能マップを使って取り組むとともに、どんな課題に対しても『負けない姿勢』を学んでいます。苦手な部分を克服したときにやりがいを感じます」(宇田川)
 
入社以来、選手として技術を磨く、宇田川飛翔
入社以来、選手として技術を磨く、宇田川飛翔

宇田川を指導する雪田は、「教えるためには自分も常に学び続けなければいけません」と言います。

「技能五輪は課題だけではなく、素材や方法も頻繁に変わります。鉄だけではなくアルミが追加されたり、ガス溶接だけではなく、ティグ(TIG)溶接※2が必要になったり。選手を指導する側も常に知識を吸収することが必要です。訓練センターをはじめ、社内に参考資料があり、素晴らしい技能を持つ先人も大勢います。学びの機会を活かし、自分でどん欲に経験を積んで、成長できる機会はたくさんあると感じます」(雪田)

※2:電気を用いたアーク溶接方法の一種。アーク溶接は、空気中の放電現象(アーク放電)を利用して、同じ金属同士をつなぎ合わせる溶接方法。

 
雪田(左)のアドバイスに耳を傾ける宇田川
雪田(左)のアドバイスに耳を傾ける宇田川

未来に向けて、ものづくりに携わる人財に求められること

ものづくりに懸ける先人たちの想いと熱意を原動力に、そして時代に即した教育を通して人財育成に力を尽くしてきたオカムラ。「これからのものづくり」のために必要な教育と求められる人財について、畑岡は次のように展望しています。

「創業者の言葉『できない理由を言うのではなく、どうやったらできるかを考えなさい』、これは時代が変わっても変わらない、オカムラに根付く普遍的な教育の考え方です。オカムラには昔から学びの機会と、手をあげて挑戦できる風土があります。ただ機会を活かせるかは自分次第。簡単なことではありません。たとえば、チャレンジ実現に向け社内メンバーを巻き込む力や、ハードだけでなくソフトを知ったり、海外市場を学んだりといった広い視野が大切です。ユーザーの立場を考えたものづくりの視点で、受け身ではなく新しい市場をつくる。そんな強い意志をもつことが必要ではないでしょうか」
 
畑岡も、選手たちと一緒に技能五輪の課題研究に取り組む
畑岡も、選手たちと一緒に技能五輪の課題研究に取り組む

創業者からはじまり、オカムラに活き続ける人財教育への想い。それを継承していく雪田と宇田川に、今後挑戦したいことを聞きました。

「指導員として貢献したい、それが今一番の想いです。また、入社して以来ずっと技能五輪の選手や指導員として仕事をしてきました。いずれは製造の現場でも仕事をしたいと思っています。訓練センターでの人財教育と工場の実務、ともに活性化することをめざして、技能五輪を通じて学んだ『考えることをやめない』姿勢を忘れずに、現場で利益を出すことにも貢献できるようになりたいです」(雪田)

「技術技能訓練センターの皆さんの指導で技能五輪をめざせるのは、またとない機会です。チャンスを与えてもらったと思って、まず目の前にある鈑金の技術をしっかり訓練して、技能五輪で結果を出すよう頑張りたいです。まだまだ先は見えませんが、いずれは製造の現場で必要と言ってもらえるようになりたいと思っています。技能検定にも挑戦して新しい技能を身につけ、自分から率先して新しい提案をしていきたいです」(宇田川)
 
ものづくりの「技術」と「技能」、そして「創造」への情熱は、世代を超えて継承される
ものづくりの「技術」と「技能」、そして「創造」への情熱は、世代を超えて継承される

オカムラDNAタイムライン 取材後記

最後に取材班を呼び止めた畑岡は、訓練センターの事務室に貼ってある新聞の切り抜きを見せてくれました。国内外で活躍する人のインタビュー記事、人間の本質を考察した記事などさまざま。若手に読んでもらいたいと思った記事を集めているそう。「読んでくれているといいんだけど」―― そう言って笑う畑岡から、自分が培ったスキルだけではなく、見聞きしたこと、感じたことを少しでも若手の成長の役立てたいという利他の精神を感じました。創造を生む人間もまた創造の対象。地道に着々と学び成長する若手たちの姿に、創業時から追浜の地で連綿と続いてきた、教育と技術・技能の継承を見ることができます。「ものづくり」は「ひとづくり」という言葉をもとに結束する訓練センターのメンバーたちは、オカムラDNAの社是に記された「創造、協力」を体現していました。(編集部)
 

2022年1月取材

Make with 先進技術と豊かな発想力を軸としたオカムラのものづくり
OKAMURA 新卒採用情報

TAGS