新たな経営理念「オカムラウェイ」の根底にあるのは、「創業の精神」「社是」「モットー」です。これらは「オカムラDNA」として、いまも私たちに受け継がれています。本企画では、さまざまな事業領域に広がるオカムラのタイムラインから、そんな「DNA」を感じられるストーリーを探ります。それは過去だけではありません。現在はもちろん、未来も視野に。
今回、編集部が注目したのは、物流システム事業本部。現在、物流は、製造業、流通業、ECなど、さまざまな企業活動を支える大きな柱。オカムラは、その物流を支えるシステムや機器を開発・提供しています。なぜ、オフィス家具の会社が、物流システムを扱うようになったのか。背景には、いまに通じる合理化・省人化への想い、そしてチャレンジの歴史がありました。
オカムラDNAタイムライン ~物流システム事業編~
DXやロボットで「人が活きる」環境をつくり出す、物流システム事業の現在地
「物流」から何を思い浮かべますか。ネットで買った商品が届く「配送」ですか? 製品の「発送」を思い浮かべる方もいるのでは? どちらも物流に含まれますが、その手前の倉庫、あるいは製造工場から、物流ははじまっています。オカムラが支えているのは、いわば物流の基幹部分、企業活動の舞台裏です。まずは物流システム事業の現在地から確認しましょう。「オカムラの物流システム事業規模は、この10年で倍に成長しています」 そう話すのは、物流システム営業部 東京西支店 支店長の宮本英之。背景には、EC市場の高まりがあります。翌日や当日に商品が届くのが当たり前の今、倉庫では発注ごとに商品をできるだけ早く集める必要があります。スピードをあげるためには人力では限界があり、デジタルや機械化はますます急務となっています。
物流業界ではDXやロボットの活用で合理化・省人化を推進しています。物流の合理化・省人化を進めれば、究極的には無人の物流センターに行きつくと言われています。「従来、自動倉庫やコンベヤなど、人の介在を前提にマテハン※1を提供してきましたが、究極のめざすところは、無人の物流センター。その過程として、ロボットなどの活用によって少人数でオペレーションできる物流センターのかたちを日々提案しています」(宮本)
※1:マテリアルハンドリングの略。生産や物流の拠点で原材料から商品まであらゆるものの移動のこと。
創業当時からめざしていた合理化・省人化
宮本が話すように、現在の物流システム事業を考えるうえで、「合理化・省人化」は外せないキーワードです。実は、できるだけ合理的に働きやすくすることは、オカムラ創業者・吉原謙二郎が昔から考えていたことでした。
1960年代後半、オカムラでは人件費の上昇や人手不足の慢性化から生産ラインの合理化・省人化が急務でした。そこではじまったのが製造工程の機械化・自動化です。1969年には、産業用ロボット開発プロジェクトがスタート。生産ライン自動化=ファクトリー・オートメーション(FA)を推進します。70年代には、ロボットによる自動生産ラインが大きく稼働しはじめます。当時、創業者・吉原謙二郎を座長にロボット導入委員会も設置され、導入状況が毎月検証されていました。
いまでこそ、ロボット導入は当たり前ですが、半世紀以上前、工場自動化やロボット開発への取り組みは、かなり先進的だったと言えるでしょう。そして、自社で生産導入したものを世の中に出していくことに。その象徴が1970年代からのロングセラー「ロータリーラック」です。次は、ロータリーラックの誕生の背景に迫ります。
必要な品物が自動的に集まる! ものづくりを変えたロータリーラックとは?
自社の製品開発で培った技術を商品化する流れが高まった70年代。取引先の富士電機製造株式会社(現・富士電機株式会社)様から、「搬出量の時間短縮をしたい。工場で必要なものを、人が探さない・歩かない・運ばないで集めたい」というリクエストがありました。現在の自動化に通じる発想です。開発プロジェクトに携わったメンバーの一人が、オカムラ入社以来、物流一筋という長谷川勝美。物流システム事業のレジェンドです。「お客様の要求にどう対応するか、一生懸命に考えた末に生まれたのが、ロータリーラックです」 長谷川は当時をふりかえりながら、次のように話します。「探さない、運ばないということは、品物が自動的に来ればいいわけです。自分たちがとりに行くのではなく、品物が来る。では、指定されたものが届くには、どういう仕組みがあればいいのか。そこで『棚を回転式にしたらどうか?』というアイデアが出ました」
1978年に世界初の多段式独立水平回転棚「ロータリーラック」は完成します。多段の棚を独立して回転させることで取り出し時間短縮を図り、自動検索機能により収納物を検索してピッキングを行なうという画期的な製品でした。80年代には、多くの家電メーカーの生産現場でも、オカムラのロータリーラックは採用されました。「ロータリーラックが効率的に部品や商品を集めることで、生産ラインの考え方、管理の仕方、運用の仕方など、大手メーカーのものづくりにも少なからず影響を及ぼしたようです」と長谷川は、当時を振り返ります。
こうしてロータリーラックは、現在まで累計販売1000台近くの実績を持つ、日本国内のみならず、海外でも展開するロングセラーとなっていきます。しかし、ここに至るには、合理化・省人化に対するチャレンジがいくつもありました。過去にはロータリーラックの制御システムが間に合わず、完成するまでの半年間、お客様の工場でオカムラの従業員がフォローしていたこともあったそうです。「私も制御システムができるまで、毎日進捗を報告するために現場に入りました」と長谷川。こうした失敗や苦労の積み重ねが、ロングセラーへつながっていくのです。「私たちは、単にロータリーラックという製品を販売しているだけではありません。お客様にあわせたシステムを、ご担当者と一緒に計画しながらつくり上げていくのです」
先人たちのチャレンジもあり、ロータリーラックの展開は、おもに90年代には電気製品メーカー、医薬品卸会社、2000年代には自動車メーカー、2010年代にはスーパーやコンビニなどの流通業界まで広がります。そして現在はEC市場へと広がっています。このようにオカムラの物流システムは、自動倉庫の他に、搬送機器、ロボットなどによって領域を拡大していきました。現在ではオフィス事業、商環境事業とともにオカムラの土台を支える事業となっています。
ゲームチェンジャーをめざして! 物流システム事業の挑戦
ここまで、現在のECにおける事業の広がり、そして過去の創業者の想い、象徴的な製品の紹介として合理化・省人化を実現したロータリーラックの登場を見てきました。これからはタイムラインを少し未来に向けて見ていきましょう。宮本は、物流システム事業はEC化率と共に伸びると言います。「2020年、日本国内のEC化率※2は、8.08%(B2Cの物販系)ですが、アメリカは14.5%です※3。EC化率が1%アップすると、100万平米の物流倉庫が必要だと言われています。この先、アメリカ並みに6%アップするなら、それは約600万平米の物流倉庫の誕生を意味します。600万平米を東京ドームに換算すると、約130個分、それだけオカムラの物流システム事業成長の可能性が広がっていくわけです」
※2:すべての商取引金額(商取引市場規模)に対する、電子商取引市場規模の割合
※3:出典 「電子商取引に関する市場調査(令和2年度)」 経済産業省
この先の物流システム事業への想いを、宮本は次のように語ります。
「DX、AI、ロボットなどロジスティクスの世界でも、新たな技術が注目されています。しかし、それらを活かしてゲームチェンジにつながる新しいソリューションやサービスを開発・提供することは、簡単ではありません。だからこそ、70年代当時のロータリーラック開発時に挑戦しつづけた先輩方のイズムを継承して、ロジスティクスの未来を明るくワクワクした世界にするための役割をオカムラとしても果たせたらと思っています」(宮本)
また、EC市場についても、人に依存した物流現場の改善がポイントだと宮本は言います。「物流現場は多くの人の重労働の上に成り立っているのが現状です。人手不足が深刻度を増す今、人の手による作業をロボットに置き換えたり、その分で他の業務に人手を割けるようにしたり、お客様と一緒に『人が活きる』環境をつくりだしていきたいと思っています」
一方、レジェンド・長谷川も、未来を見て考えています。「お隣の中国における、2020年のEC市場規模は2兆2,970億USドル※4でした。この巨大なマーケットに対して、『オカムラはどうするの?』と考えています。もっと挑戦してほしいですね。ロートルに引っ張られるようじゃ駄目ですよ(笑)」
※4:出典 「電子商取引に関する市場調査(令和2年度)」 経済産業省
長谷川によれば、物流システム事業は担当3名から始まったそうです。「今や、工場勤務のメンバーをのぞいても250名と大幅に増えました。事業成長とともに業務を継続できたことを感謝していますし、今後も物流システム事業の可能性を信じています。事業部の人数をもう一桁増やすくらい、どんどん越していってほしいですね」
宮本が継承するといったイズム、長谷川の中では現在進行形です。これも一つのオカムラDNAと言えるのではないでしょうか。
オカムラDNAタイムライン 取材後記
コロナ禍以降、ネットショッピング頻度が今まで以上に増えました。私たちの生活や社会全体の変化もあいまって、物流システムはオカムラのどの事業部よりも、従来の歴史を踏まえたうえでの変化や展開のスピードが求められているのかなと話を聞きながら思いました。そして、歴史を引き継ぎながら変化していこうという物流システムメンバーの強い決意を感じました。(編集部)2021年10月取材