「オカムラウェイ」と「これからのオカムラがめざす姿」をさまざまな角度から紹介する本連載。今回は、2020年6月にオカムラでは初めて女性の取締役として、社外取締役に就任した狩野 麻里のインタビューをお届けします。銀行員時代の海外経験とそこで学んだこと、社外取締役として見る「オカムラのダイバーシティ経営とこれから」などについて、話を聞きました。
異文化の中で経験した、多様性のある働き方
――今回のテーマは組織のダイバーシティやガバナンスの重要性についてです。先だって、これまでの経歴について教えてください。狩野 麻里(以下、狩野):1984年に大学を卒業し、旧 三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)に総合職として入りました。男女雇用機会均等法が施行される前で、大卒女性を総合職で採用する企業がとても少なく、当時は会社としても実験的な取り組みだったと思います。総合職の女性は私1人で、200人以上いた同期はすべて男性でした。
──銀行では、どのような業務を担当していましたか。
狩野:30年超の間に10回ほど異動を経験し、海外にも通算13年半ほど駐在、その間いろいろと担当しました。コーポレートファイナンスや戦略企画的なプロジェクト、ちょっと変わったところでは国内外で信託関連の業務も担当しました。海外勤務としては、社費留学を経て銀行傘下にあるアメリカの地銀で現地スタッフと働きました。帰国して10年後にまた同じ米地銀に出向した際には、最初の勤務経験がとても役立ちましたね。その後はシドニー支店で副支店長兼オセアニア総支配人室長、ミラノ支店で支店長を務め、マネジメント業務に携わりました。
──海外拠点でマネジメントを経験した中で、どんなことが大変でしたか。
狩野:人種も、バックグラウンドも違う、さらにそれぞれに専門家としてのプライドを持っている人も多い。私自身、帰国子女ではなかったので、言葉はもちろん文化や考え方、働き方の違いに慣れるのは大変でした。でもその中で学んだのは、コミュニケーションの重要性と、事実をきちんと把握するということです。
──海外で学んだ「コミュニケーションの重要性」について、もう少し具体的に教えてください。
狩野:リーダーとして大切なのは、みんなの潜在能力を120%引き出すことだと考えています。リーダー一人では何もできません。全員参画型経営でゴールをめざす、そのために一人ひとりをよく見て、何かよい行動や成果があれば、「よかった点」をすぐ口に出して伝える。こうしたコミュニケーションが個人のパフォーマンスを高めて、働く楽しさや組織の活性化につながっていくことをアメリカ勤務時代に学びました。例えば、ミュージアムのような非日常の空間で社員表彰を行って一人ひとりの実績を発表しみんなで祝ったり、リーダーが好事例をすぐチームで共有したりするなど、個人のモチベーションアップにつなげる努力を目の当たりにしました。「結果を出す」というゴールをめざすにしても、当時日本企業で見られた営業成績の棒グラフを貼りだして奮起を促すようなアプローチとの違いに、なるほどと思った記憶があります。
──ストレートに褒めてもらえると、モチベーションはあがりますね。もうひとつの「事実をきちんと把握する」とはどういうことですか。
狩野:これはオーストラリアでの経験が大きいですね。日本人駐在員の経営陣のもと、中核メンバーは勤務歴の長い現地スタッフという状況。彼らの判断だけで物事を進めると、本社が期待する成果を期限内に達成できないこともありえますし、ガバナンスも効かなくなってきます。そうしたときに本社の方針や日本流のプロジェクトの進め方を理解してもらうには、まずコミュニケーションは大切ですが、違うときは違うと言えるようなエビデンス、事実を用意しての議論が大事だと学びました。
──客観的な視点を持って議論するのですね。最近重視されているESG経営、特にガバナンスという点では重要なポイントかもしれません。
狩野:そうですね。国によって法律も違うので、コンプライアンス面について法律の専門家に相談しながら進めたことも多々ありました。事実を細部まできちんと把握して、その上で問題解決の方策を考えていく。いろいろな選択肢を周囲に相談しながら柔軟に考えて、トライして、うまく回るまでがんばってみる。実地で身につけた粘り強さ、そこで身につけたコンプライアンスやガバナンス、コンフリクトマネジメントの学びは、その後のキャリアに、現在の社外取締役の仕事にも活きています。
──ミラノから帰国後はどのようなキャリアを歩んだのですか。
狩野:銀行からカード会社に転籍後、アメリカ人外交官の夫が駐ルーマニア大使に任命されました。それで会社を退職して、現地に3年半滞在しました。帰国後に縁あって、今までのキャリアとはまったく異なる大学での勤務となりました。
──昭和女子大学で3年間、国際交流センター長を務めましたが、そこでの仕事はどのようなものでしょうか。
狩野:昭和女子大学はアメリカのボストンに海外キャンパスがあり、世界に44の協定校があります。国際交流センターは、大学のグローバル教育推進の実働隊として、派遣・受入留学や異文化交流プログラムなどの運営・実務を担っています。コロナ禍で渡航制限がある中、学生を派遣したり帰国させたりするのは難しい判断が求められますが、皆で知恵を絞って学びの継続に力を注ぎました。女性の社会進出に力を入れている大学なので、銀行員時代の経験をもとにした女性のキャリア形成についての授業も担当しています。
オカムラウェイに感じた、企業としての明確な「メッセージ」
──オカムラウェイについて、率直な印象を教えてください。狩野:企業が発信するメッセージとして非常にクリアだと思います。軸が定まっていると仕事における判断基準も明確になっていきますし、製品やサービスにもいい影響が出てくるはずですから。経営側が「この会社はこういうふうに、こちらを向いて走っていきます」と宣言している姿勢もとてもわかりやすくてよいと思っています。従業員それぞれの仕事にオカムラウェイが結びつく具体的な仕組みができて、それが自然な風土として定着していくことを期待しています。
──「人が活きる」という中核概念についてはいかがですか。
狩野:ちょうどコロナ禍によって、社会全体がこれまでの働き方や生き方について考え直している時期と言えます。生きがいを感じながら心も体も健康に働くことが、どれほど大事か実感した方も多いのではないでしょうか。この状況で「人が活きる」という言葉で「活」という文字を使って表すことに意味があると思います。コロナ禍によるパラダイムシフトにも迅速に対応しているように感じました。また、何よりもオカムラ製品が、日々の生活の中心となる、働くことに欠かせないもの。オカムラの製品や成り立ちも「人が活きる」に集約されているのではないでしょうか。
──海外の異文化経験も「人が活きる」に通じる感覚はありますか。
狩野:はい。組織のダイバーシティやインクルージョン展開は、海外拠点数とは関係ありません。今や普段の生活で、たとえばお店で働く外国人を見かける機会も多いですよね。少子超高齢化で日本の人口が減少傾向にある中、今後益々さまざまな事情や背景を持った人や異文化圏から来た人たちと、オープンな形で一緒に働くことになると思います。
──「事情や背景」というのは、具体的にどのようなことでしょうか。
狩野:今は性別問わず育児休職を取得する人が増えていますし、家族の介護などをしている人も多くいます。それぞれの事情を理解して協力し合おうという考え方が組織の成長と存続に不可欠になっていくでしょう。制約があったとしても120%の力を発揮できるような環境でないと、企業は回っていかなくなると思います。
ダイバーシティの浸透は、これからが本番
──オカムラはダイバーシティ経営に取り組んでいますが、現状をどのように見ていますか。狩野:基本理念や方針は、とても明確に打ち出されていますし、ダイバーシティ関連プロジェクトなど新しい施策にも積極的に取り組んでいると思います。ただ現場への浸透はまだ過渡期というか、これからですよね。オカムラは工場もありますし、例えば女性の社員数を一気に増やすのは難しい、ましてや女性管理職の比率を上げるのもそう簡単ではないのかもしれません。けれども、そうしたチャレンジングな状況においてこそ、中堅のマネジメント層の意識改革が必要な部分。今後さらにITなどの発展、職場環境の変化が予想されますので、性差などの固定観念を外したうえで、一人ひとりの能力と特性に合わせて仕事を任せていけるようになるといいですね。オカムラに限らず多くの日本企業にあてはまる状況かもしれません。
──中堅のマネジメント層が担う部分が大きいですね。どのようなところに気をつけたらよいのでしょうか。
狩野:目標を達成したときの嬉しさや喜びを感じられる職場、そしてそれを皆で共有できる環境が理想です。自分の仕事が会社全体の大きな目標にどうつながっていて、どう社会にアウトプットされているか。そこに自分がどのぐらい貢献できているのか実感できる。そのうえで仕事を公平・公正に評価される。そんなチームを中堅層リーダーが中心になってつくっていけると職場の活力や生産性もあがり、全体的にレジリエントな組織になるように思います。私も「部下を育てる」よりは、自分が働きたいと思える職場をめざして「皆が気持ちよく働いて、実力を思う存分発揮してもらいたい」、「正しく評価し、早く昇進・昇格させるためにはどうしたらよいか」と試行錯誤しながらやってきました。マネジャー向け研修などで対応していけるといいですね。
──以前行った社員アンケートでは、オカムラがこれから強化すべき課題として、「イノベーション」「リスクテイク」「風通しの良さ」「部門を越えた連携」などの声が挙がりました。働きやすい環境、人が活きる職場という点で、特に重要だと思うものはありますか。
狩野:どれも重要ですが、「部門を越えた連携」は特に重要です。私は銀行時代、大きな合併や持株会社化を経験しましたが、同じグループになっても旧組織の意識がそれぞれありました。あるとき、課題に対して、違う組織出身同士のペアで解決策を複数案出し、全員で決めるようにしたのです。共通の目的に対して取り組む、この方法は有効でした。意図的に混じらないと組織は活性化しません。うまく連携できれば、「新たな挑戦」や「イノベーション」などにもつながっていくはずです。
自分の経験を活かして客観的に意見をしていきたい
──オカムラの社外取締役に就任した経緯を教えてください。また、就任後、オカムラの印象はどう変化しましたか。狩野:これまでの経験が活かせる企業のアドバイザーに興味を持っていたこともあり、オカムラの募集にエントリーしました。銀行時代からオカムラのオフィス家具を使っていたので、親近感を持っていました。就任後は、家具だけではなくいち早く新しい働き方を提案していたり、創業まもなく自動車をつくっていたり、また物流システムや商環境の多事業展開、つぎつぎに取締役会で出される新企画などに接し、つねに新しいことに踏み出している印象を持つようになりました。
──社外取締役として期待されていることも多くあると思いますが、どのような役割を担っていきたいですか。
狩野:やはり海外でのマネジメント経験を評価されたと思っていますので、ダイバーシティ経営やグローバル戦略、銀行でも内部管理をやってきたのでコーポレートガバナンスなどで私の経験を活かしたいですね。今は月に一度の取締役会に出席して、多様な議題に対して積極的に意見を述べるよう努めています。例えば、議題の中にはグローバルビジネスに関わるものもあるので、「このようなプロジェクトを推進する際は、こういう点に留意したほうがいいと思いますが、どのような対策を考えていますか」など、気になった点は質問したり、コメントしたりしています。また私自身、銀行という巨大組織でサバイブする経験、海外の慣れない環境で苦労しながら働いてきた経験もありますので、つねに現場の視点も忘れずにいたいと思っています。
自分自身で働きがいをつくりあげてほしい
──これからどのような働き方が重要になってくると思いますか。狩野:「上司がこうだから」「職場がこうだから」といった外部環境にとらわれないで、まずは自分をどう活かすか、どうやって自分の能力を最大限発揮するかを考えてみるといいかもしれません。例えば、オカムラの場合、時代に即した変革を続けていこうというDNAと、それを実現するポテンシャルがあると思います。オカムラで働く人には、この貴重なチャンスあふれるプラットフォームを通して、自らの働きがいを追求していってほしいですね。
──働きがいは自分で感じるもので、必ずしも会社から与えられるものではないということですね。
狩野:ちょっとシニカルに構えているうちに時間はどんどん過ぎてしまいます。新しいことへのチャレンジやアイデアも、聞いてくれる上司や同僚がいる。そういう雰囲気もあると思います。「これをやってみたい」とか、「こっちの領域に進みたい」とか、もちろん言うだけではなく学びや努力が必要ですが、やはり自分から求めていく。自分の仕事が会社や社会とつながることを実感しながら、自分で自身を幸せにしていこう、というポジティブな姿勢は大切だと思います。
インタビュー後記
多様な環境で働いてきた狩野の経験は、私たちが「これからの働き方」を考えるうえで、大きなヒントになると感じました。中でも「みんなの潜在能力を120%引き出すことがリーダーの仕事」という言葉が印象に残っています。オカムラがミッションとして掲げている「人が活きる環境づくり」を実現するうえでも、一人ひとりの取り組みはもちろん、中堅マネジメント層を含めた「リーダー」の発信力も大きな推進力になるかもしれません。Profile
狩野 麻里(かの・まり)
東京大学法学部卒業後、旧 三菱銀行(現 三菱UFJ銀行)入行。米国UCLAロースクール修士課程修了。営業本部、信託子会社出向、米国や豪州勤務等を経て、伊ミラノ支店長を務めた後、2014年9月に銀行を退職。三菱UFJニコス株式会社勤務の後、アメリカ人外交官の夫が駐ルーマニア大使に任命されたのに伴いブカレストに3年半滞在。現地では、米国最大の慈善財団United Wayの関連法人United Way Romaniaのボードメンバーを務めた。2019年4月、昭和女子大学国際交流センター長に就任。現在は、同大学全学共通教育センター特命教授(非常勤)。株式会社オカムラ、東京製綱株式会社、東京海上アセットマネジメント株式会社の社外取締役を務める。趣味は、海外ドラマ鑑賞、読書とルーマニアで巡りあった柴犬純血種レオちゃん(5歳)のお世話。