オカムラを代表する製品の一つであるイス(チェア)には、長年にわたって開発に携わってきた人たちの知見やものづくりへの思いが詰まっています。その思いを従業員一人ひとりが自分の言葉でお客様に届けられるように、とオカムラ独自の社内認定資格「オカムラチェアマスター」が生まれました。今回は、長年イスの開発に携わり、オカムラチェアマスターの資格取得プログラムで講師も務める製品開発の五十嵐 僚と、設計の小田 洋一郎に話を聞きました。
製品の価値を伝えるプロを育成
社内認定資格「オカムラチェアマスター」
――オカムラチェアマスターという社内認定資格が生まれた背景を教えてください。オカムラチェアマスターは、日本人間工学会の公的資格「認定人間工学プラクティショナー」の取得が前提なので、対外的にも認められた資格を持つプロだと社外にもアピールしていきたいと考えています。
小田 洋一郎
五十嵐:単なるスペックの説明ではなく、製品の成り立ちやストーリーを自分の言葉で伝えられるようになることですね。当初は営業職が対象でしたが、他職種からも「受けたい」という声が上がり、今はデザイナーなども参加しています。お客様と直接話す機会がない職種の人も、製品に込められた思いを知ることで、自分たちが扱っている製品への理解や愛着が深まり、エンゲージメントも高まると思います。取得にはかなりの勉強が必要ですから、自信にもつながるでしょう。
ライフスタイル営業部 沼田 健助
オカムラチェアマスター認定で変化した接客
「私の所属するライフスタイル営業部は、個人のお客様を対象にイスを多く販売しており、業務に直結すると考えて、オカムラチェアマスターに応募しました。資格を得てからは、学んだ人間工学をふまえて、イスの機能がある背景から具体的にお客様へお伝えできるようになりましたね。オカムラチェアマスターという専門家であることは、お客様の安心感につながると接客を通じて感じます。また、担当するECサイト『OKAMURA Lifestyle Store』での発信にも、資格を通した学びが活きていると思います」
オカムラのイスづくりの土台にある人間工学
――お二人はオカムラチェアマスター資格取得プログラムで講師も務めています。これまでのキャリアを教えてください。五十嵐:1996年に入社し、プロダクトデザイナーとしてずっとイスに関わってきました。入社4~5年目に参加したジウジアーロ・デザインとのコラボレーションによる「Contessa(コンテッサ)」の開発は、会社を挙げての大きなプロジェクトで印象に残っています。その後、製品企画や開発のプロジェクトマネジメントを経て、今はエキスパートとしてイスづくり全般に関わっています。オカムラチェアマスターの資格取得プログラムでは、製品開発やデザインの考え方の講義をしています。
小田:2001年入社で、追浜事業所でイスの設計を23年間担当しました。コンテッサの開発にも少し関わっていたので、海外展開に向けて、各国で製品を販売するために必要な規格や認証の調査を任され、英語を活かして欧米を一人で回ったのは大きな経験でしたね。2024年からは技術本部で、ユーザー目線を軸に素材や触感などの研究開発に取り組み、次世代のイスづくりに活かすことを目指しています。資格取得プログラムでは、設計や試験、評価の講義を担当しています。
五十嵐:イスは最も人間に近い家具で、人間工学とは切り離せません。座面のカーブや素材などはすべて人間工学がベースにあり、その上に美しさやコスト、市場性、生産性などを積み重ねていくイメージですね。デザイナーとしては、空間になじんでいるかどうかや、見たり触れたりして心地よいかといった感覚も大切にしています。
小田:設計部門では試作段階で寸法や硬さ、レバーの操作感などの人間工学的な要素を評価しています。ヨーロッパへ展開する際には、労働者を守る観点から現地の規格が厳しく、さまざまな体型への対応もこれまで以上に求められました。なぜその規格になっているのか、背景を現地で直接聞けたことで、オカムラとして対応できる幅が広がりましたね。
――時代とともに、イスに求められるものも変わってきているのでしょうか。
小田:働き方の変化とともに変わっていますね。たとえばデスクトップが主流だった時代とノートパソコンが当たり前になった今とでは、画面の位置が違うぶん姿勢も変わります。前かがみになりやすいノートパソコンでの作業にどう対応するかなど、体の支え方も見直しています。
五十嵐:かつては役職が上の方ほどグレードの高いイスに座ることも多かったのですが、今は役職に関係なく、一人ひとりの体をどう支えるかが重視されています。この先、働く場所や道具が変わっても、やはりイスは残っていくはずです。
ワークデザイン研究所 浅田 晴之
「人が活きる社会の実現」に欠かせない人間工学
「オカムラチェアマスターの制度設計では、オカムラが長く取り組んできた人間工学を基本としています。人間工学には、姿勢や疲労などの『身体的側面』、知覚やストレスなどの『認知的側面』、さらにコミュニケーションやチームワークなどの『組織的側面』という3つの側面があります。それらをふまえてオカムラチェアマスターでは、日本人間工学会の認定資格取得を前提に教育歴要件(大学2単位相当)を満たす20時間超の教育プログラムを社内実装しました。目指したのは、人間工学をオカムラのビジネスすべて、パーパス『人が活きる社会の実現』に欠かせないものとして、従業員のみなさんに理解を深めてもらうことです。イス(チェア)をテーマにしていますが、これはあくまでも入り口です。この先もオカムラチェアマスターに認定された従業員のみなさんが、『勉強してよかった』『業務に役に立った』と思ってもらえるのが、制度をつくった側としては一番の喜びです」
ものづくりの思いを共有するプログラム
――そうした経験が、オカムラチェアマスターの育成プログラムにも反映されているのですね。五十嵐:はい。プログラムはオンデマンドの講義と実地演習で構成されています。一番好評だったのは、製品を分解して元に戻す演習でしたね。
小田:分解するとバネの組み込み方やパーツの重さまで実感できます。専門的な目線を持ち、開発の背景を理解できれば、説明もしやすく、お客様の声も引き出しやすくなります。それを社内で共有すれば開発のヒントにつながります。
五十嵐:製品への愛着や深い知識を持った人が増えれば、筋肉質な組織になれますよね。今はインターネットで手軽に製品の情報を得られる時代で、お客様自身がかなり詳しいことも珍しくありません。ただ、そこには開発側の思いまでは入っていません。製品開発の意図や正しい使い方をきちんと伝えられるのは、オカムラチェアマスターならではの価値なのかなと。毎年新製品も出ますから、講師も資格取得者も継続的に情報をアップデートしていく必要があります。
自由に座り比べができるサロン
「Chair isn't」
Chair isn't(チェアイズント)は、個人のお客様がイスをじっくり座り比べられるサロンです。週末にも利用でき、約30分個室の貸し切りも可能です。「しっかりしたイスは決して安い買い物ではありませんから、インターネットの情報だけではなかなか決められません。オカムラチェアマスターが要望を伺い、素材やカスタマイズのご相談にも対応します」と五十嵐。小田も「個人のお客様一人ひとりの声を拾い上げられる場ができたのは大きいですね」と話します。実際に座ることで、事前にカタログで選んでいたものとは違うイスに出会うお客様も少なくありません。
所在地:東京都千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニ・ガーデンコート2F
営業時間:11:00~19:00
休業日:火曜日・水曜日・祝日・夏季休業日・年末年始
オカムラチェアマスターと目指すこれから
――これからも変わらない「座る」ことの本質は何だと思いますか。五十嵐:心地よさと安心感だと思います。よく体にぴったりフィットするイスがよいと思われがちですが、人間の体は少し動いているほうが血の巡りがよくなって疲れにくいんです。動けるゆとりを持たせながら支えるのが理想ですね。
小田:イスは人が座って初めて完成する道具。バイクとライダーのような関係ですね。「このイスは私には合わなかった」ではなく、その人に寄せていくものづくりを目指したいです。
――オカムラチェアマスターはオカムラの価値づくりにどう貢献していくと思いますか。
小田:エンドユーザーあってのオカムラですから、プロの目でお客様と向き合い、生の声を受け取りながら発信もしていきたいですね。社内に資格を持つ人が増えれば提案の質も上がっていくと思います。
――最後に、お二人がこれから目指すことをお聞かせください。あわせて、これからのオカムラを支える後輩へのメッセージもお願いします。
小田:技術本部は昨年度にできたばかりですが、オカムラのものづくりを進化させ、ひいては業界を引っ張っていく存在になりたいと思っています。オカムラにはやりたいことにチャレンジしやすい風土があると感じています。後輩にはその機会をうまく活かしつつ、自分の考えをしっかり表現して、責任を持ってやりとげてほしいですね。
五十嵐:製品開発は先輩から引き継いで次につなげていくものですが、世の中の変化が速くなっているので、社内の知見だけでは追いつかない場面も出てきます。海外のデザイン事務所やメーカーなど、腹を割って話せるネットワークもぜひ広げていきたいですね。若手のみなさんにも意識してもらえたらと思います。