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参加者の想像力がつくりあげる空間とデザイン OPEN FIELDとは?

2025.07.24

OPEN FIELD 2025

空間とデザインの可能性をひらく「OPEN FIELD」が、今年も新たなかたちで始動します。建築家やアーティストとの共創によるプロジェクトは、3年目を迎える2025年、新たな作家の参画を得てさらなる展開を見せようとしています。作品の展示だけではない、若手デザイナーの育成や異分野との交流を促す“創造のフィールド”は、今年、どのような風景を描き出すのでしょうか。立ち上げからキュレーターとして深く関わる建築史家・五十嵐 太郎さんと、OPEN FIELDプロジェクトリーダー・後藤 敏和に、今年のOPEN FIELDへの展望と期待を聞きました。
2025年6月取材

自由な余白から生まれる創造——OPEN FIELDのはじまり

――今年で3回目を迎えるOPEN FIELDですが、あらためてこの取り組みの“はじまり”について聞かせてください。

後藤 敏和(以下、後藤):OPEN FIELDが始まる前、私たちは建築家とアーティストのコラボレーションによるインスタレーション展示を、オカムラのショールームを使って18回ほど開催してきました。当時は有名建築家を招き、社外クリエイター主体で構成されるイベントだったため、オカムラの従業員が企画に関わることはほとんどありませんでした。
しかし、せっかく「デザイン」を扱う企画をやるなら、オカムラの従業員も巻き込んで「育成の場」にできないかと考えました。そこで気鋭の若手建築家を起用しつつ、社内若手デザイナーや学生も関われる“開かれたデザインフィールド”として再構成したのが、今のOPEN FIELDです。
 
施設環境ソリューション事業部 市場開発部長/OPEN FIELDプロジェクトリーダー 後藤 敏和
施設環境ソリューション事業部 市場開発部長/OPEN FIELDプロジェクトリーダー 後藤 敏和
――OPEN FIELDは、その名称がとても象徴的ですが、どんな想いが込められているのでしょうか。

五十嵐 太郎(以下、五十嵐):OPEN FIELDという名称は、私が考えました。建築家の青木 淳さんによる『原っぱと遊園地』(王国社、2004年)という論考があるのですが、その中で“原っぱ”は目的やルールが決められていない自由な場所とされています。そこにいる人の想像力や関わり方によって、場の意味が変わっていくんです。
まさに、OPEN FIELDもそんな「余白」を持った場所にしたいと思いました。あらかじめ“こう見るべき”と定義された展示ではなく、参加する建築家やアーティスト、見る人の解釈や想像力によって、毎回異なる風景が立ち上がっていくような場を目指しています。
 
東北大学大学院教授/建築史家/OPEN FIELDキュレーター 五十嵐 太郎さん
東北大学大学院教授/建築史家/OPEN FIELDキュレーター 五十嵐 太郎さん

 

創造が交差する、建築とアートのクロスフィールド

――OPEN FIELDではこれまでに2回、建築家とアーティストによるインスタレーション展示が実施されてきました。ここでは、その内容を振り返りながら、プロジェクトの進化や可能性について伺っていきます。
 

第1回OPEN FIELD企画展
ほそくて、ふくらんだ柱の群れ — 空間、絵画、テキスタイルを再結合する
(中村 竜治 × 安東 陽子 × 花房 紗也香)

第1回OPEN FIELD企画展より
第1回OPEN FIELD企画展より

記念すべき第1回は、建築家の中村 竜治氏、テキスタイルデザイナーの安東 陽子氏、アーティストの花房 紗也香氏 ―― 異色のトリオによる展示でした。構造材の上部に設置されたテキスタイルによるクッションや、柱に巻かれた絵画作品など、ジャンルの異なる表現が空間の中で響き合い、ショールームという日常的な場が一変。さらに、展示で使用された柱材は展示後に解体され、スツールなどの家具に再利用されるサステナブルな試みも行われました。

――初開催ともなった第1回について、お二人のご感想はいかがでしたか。

五十嵐:建築・アート・プロダクト、それぞれの専門性が予想を裏切るかたちで組み合わさった展示でした。安東さんはこれまで主にカーテンなどのテキスタイルを手がけてこられましたが、この時は構造的な役割を担う提案に挑戦されました。花房さんも、絵を平面に描くのではなく、立体物である柱に巻くという初めての試みに取り組んでくれました。
結果として、それぞれが自分の表現領域を越境し、非常に面白い空間が生まれたと思います。いい意味で期待を裏切ってくれた展示であり、OPEN FIELDの意義を再認識するきっかけになりましたね。

後藤:展示をつくるプロセスから社内の若手デザイナーが参加したことで、オカムラの従業員に「自分たちのイベント」としての感覚が芽生え始めたのがこの回でした。また、中村さんから「せっかくの木材を捨てるのはもったいない」と提案いただいたことも印象的でした。そこで、展示終了後も作品を活かすべく、使用した柱材からスツールを制作し、現在はオカムラ社内のオフィスで使っています。社会に根づきつつあるサステナビリティへの意識と歩調を合わせるように、「展示後の活用」という視点が生まれたことも、OPEN FIELDの収穫のひとつかもしれません。
 

第2回OPEN FIELD企画展
ショールーム・フィクション — 線のような家具と家具のような立体
(山田紗子 × 丸山のどか)

第2回OPEN FIELD企画展より
第2回OPEN FIELD企画展より

第2回は、建築家・山田 紗子氏と、アーティスト・丸山 のどか氏、若手女性クリエイター2名を迎えて行われました。山田氏は、パイプ素材を使った「椅子ではないようで椅子である」立体作品を展開。一方の丸山氏は、日用品や家具のような形を借りながらも、それを“彫刻”として空間に配置することで、見る人の感覚を揺さぶる作品を制作しました。両者の作品はショールームに自然に溶け込みながらも、空間への鋭い視点を感じさせるものでした。

――第1回の開催で、あらためてOPEN FIELDのコンセプトが明確になってきた中で、第2回は展示の雰囲気や印象もガラリと変わりましたね。

五十嵐:山田さんの作品は、構造や身体性に根差した表現が特徴的でした。「座る」行為そのものをフレームに置き換えるようなアプローチは、インスタレーションと家具の中間のようで、非常に刺激的でした。一方で丸山さんの作品は、一見すると既製のオフィス家具のように見えて、実はすべて手づくりであるという“擬態的”な表現が魅力でした。二人の作品が同時に並ぶことで、「これは家具なのか? アートなのか?」といった問いが空間全体に投げかけられていたと思います。

後藤:この回では、山田さんにオカムラの生産拠点である追浜事業所へ実際に足を運んでもらい、スチールの端材や鉄板など、実際の製造過程で出てくる素材から受けるインスピレーションもふまえて作品制作に取り組んでいただきました。五十嵐さんもおっしゃるように、「座る」行為の構造的な解釈には、多くの気づきをもらいました。作品は展示終了後も廃棄せず、社内で展示しています。社内若手デザイナー有志で組織している「デザイン部会」のメンバーも自身のアート作品展示やワークショップ運営に関わり、プロジェクトの認知や参加意識がさらに高まったと感じています。
 

2025年のOPEN FIELD企画展のタイトルは
「Blurring Structure — オフセットされた世界」

――今年のOPEN FIELD企画展には、建築家ユニット・MARU。architecture(高野 洋平氏・森田 祥子氏)とともに、構造エンジニア(※1)の金田 充弘氏が作家として参加されるとのこと。このコラボレーションは、どのように生まれたのでしょうか。

※1:建築家のアイデアを具体化する際、合理的で創造的な構造設計を担う構造設計者

五十嵐:第3回となる2025年のOPEN FIELD企画展のタイトルは、「Blurring Structure — オフセットされた世界」です。人選は、私のほうからあえて指定せず、MARU。architectureのお二人にお任せしました。その結果、「花重」のリノベーションでもタッグを組んでいた金田さんと組む案が自然に出てきました。MARU。architectureは、地域との関係性やコラボレーションに長けた建築家ユニットで、特に台東区谷中で手がけた「花重」のリノベーションでは、施工チームや地域の方々と一緒に空間をつくり上げる姿勢がとても印象的でした。そういった「関係性のデザイン」が今回のOPEN FIELD企画展にも通じると思い、お願いすることになりました。
「力学と詩性のあいだにある構造を見せたい」(五十嵐さん)
「力学と詩性のあいだにある構造を見せたい」(五十嵐さん)
――構造エンジニアが加わることで、OPEN FIELDにどのような変化を期待していますか。

五十嵐:構造エンジニアの参加は、OPEN FIELDにとって大きな意味を持ちます。というのも、構造は単に“建物を支える”ための技術ではなく、建築や空間の可能性を拡張する力そのものだからです。金田さんのような構造エンジニアは、建築家が思い描くフォルムや重力への挑戦に対して、「どうすればそれが成立するか」を構造の立場から共に考える存在です。
しかも今回は家具にも近いスケールで設計されるインスタレーションですから、金田さんのような「繊細な力学と表現をつなぐ思考」が空間全体の質を大きく変えてくれるはずです。単なる設計協力ではなく、構造そのものが展示のコンセプトに直結する、そんな作品が生まれることを期待しています。

――今回の展示では、構造そのものがデザインの一部として表現に関わってくるのでしょうか。

五十嵐:そうですね。「構造を見せる」のではなく、「構造で見せる」。そこに美しさが宿るんです。以前、別のところで構造エンジニアと協働した展示でも、構造が極限まで洗練されていて、一見すると「ただのテーブル」に見えても、実は3ミリ厚の鉄板で95メートルの長さを成立させていた、なんてこともありました。
今回も、金田さんの参画によって、構造が「空間の静かな語り手」として働きながら、同時に作品の主題となる。そんな展開が生まれると考えています。

――MARU。architectureのお二人について、過去にオカムラとの接点があるそうですね。

後藤:はい。高野さん、森田さんは、オカムラが製品納入を担当した公共施設の設計を担当していたこともあり、すでにご一緒した実績があります。図書館など大規模な案件を手がけてきた経験を持ちつつ、街の人と丁寧に関係性を築きながら空間をつくっていく姿勢が、まさに今回のOPEN FIELDにもふさわしいと感じました。

――特設サイトのActivity Logでも「第3回OPEN FIELD企画展イベント情報」が公開されていますが、勉強会「かさなりあう構造とデザイン」や、五十嵐さんとアーティストの皆さんのトークイベント、ワークショップ「素材と光をデザインする」など、かなり充実したイベントになりそうで楽しみです。
 

つくり手として関わることで、広がる視野と可能性

――OPEN FIELDのもうひとつの特徴は、イベントを通じて社内外の人財が「参加者」として関われることだと思います。はじめに、社内若手デザイナーの皆さんの関わり方について教えてください。

後藤:OPEN FIELDの運営にも関わっているオカムラの「デザイン部会」は、オフィス環境事業本部の空間デザイナーが中心で、若手が多く参加しています。将来的にはオフィス環境事業に限らず、さまざまな事業部のデザイナーたちにも、もっと関わってもらえたらと考えています。
「イベントを通じてデザイナー同士のつながりが生まれることも大きなメリット」(後藤)
「イベントを通じてデザイナー同士のつながりが生まれることも大きなメリット」(後藤)
―― OPEN FIELDに関わることで、若手デザイナーの皆さんにどんな学びや気づきがあると感じていますか?

後藤:たとえば、OPEN FIELDで企画するワークショップひとつをとっても、誰を講師に呼ぶか、いつ開催するか、当日に向けてどんな準備やリスク管理が必要か ―― そうしたことを考えるのは、普段の設計業務とはまったく違う経験です。
「イベントの裏側」まで体験することで、自分のデザインを相手にどう伝えるか、プロジェクトをどう運営するか、そんな視点が育つのではないかと思います。また、イベントを通して建築家やアーティストなど外部との交流は、デザイナーたちにとって業務とは別の刺激にもなっていると思います。ある意味、OPEN FIELDは越境学習(※2)の場ともいえるかもしれません。

※2:所属する組織や部門の枠を超えて、異なる環境で学びを得ること
 

五感を通して問い直す 「デザインって何だ?」

――OPEN FIELD展示会では、単に作品を「展示する」のではなく、空間・素材・構造のあり方を通じて「デザインとは何か」を来場者に問いかけています。これまでの開催、そして2025年の第3回企画展を前に、OPEN FIELDを通じて“伝えたいこと”を、あらためてお聞かせください。

後藤:最近はインターネットで情報を集めたり、生成AIを活用したりして、見た目が「それらしいもの」は簡単につくれるようになりました。でも、だからこそ大事なのは「本質を見抜く力」だと思います。素材に実際に触れて、空間のスケールを体感して、建築家やアーティストの言葉を直接聞く。そういう経験を通してしか育たない感覚があると思っています。
参加する若手デザイナーには、OPEN FIELDへの関わりから、そうした「デザインの深み」を感じ取ってほしい。日常の仕事とは違う視点で世界を見ることが、自分のクリエイティビティを引き出すきっかけになるはずです。また、学生の皆さんにも、建築という枠だけではなく、インテリアや空間デザインの道があることを知ってもらえたらうれしいです。自分がつくったものが人の生活にどう影響するのか ―― そういった視点を持てるきっかけになればと思います。

五十嵐:毎年違う建築家やアーティストが参加し、テーマも表現も変わっているように見えるかもしれませんが、共通しているのは「既存のショールームという空間に対して、どんな介入ができるか」を探っていることです。
完全に囲われたニュートラルな展示空間ではなく、普段そこにある空間の性質を読み取りながら、どう変化を与えられるか。そのような「リノベーション的かつインスタレーション的な発想」が、OPEN FIELDの核になっています。
建築とアート、そして人の想像力が交差するこの取り組みが、多くの気づきを生む場所として未来に継続していくことを願っています。
OPEN FIELDは、見る人の感性にゆだねられる“自由な余白”から始まりました。それは建築やアートといった専門領域を越えて、空間のあり方そのものに問いを投げかけ、つくり手と使い手、鑑賞者と参加者の境界をやわらかく越えていく取り組みでもあります。いよいよ始まる、第3回 OPEN FIELD企画展。ぜひご注目ください!
 
「毎回、予想を裏切ってくれるのがOPEN FIELDのおもしろさです」(五十嵐さん)
「毎回、予想を裏切ってくれるのがOPEN FIELDのおもしろさです」(五十嵐さん)

編集後記
OPEN FIELDは、毎年新しい表現や関わり方を受け入れながら、そのかたちを少しずつ変えてきました。建築やアートといった専門領域を越えて、空間そのものの意味や、人と場所との関係性を問い直す試みが続いています。今年は、新たに構造家が参加することで、どんな表現が生まれてくるのでしょうか? 素材に触れる、言葉を交わす、空間を歩く。そうした体験の積み重ねが、参加する側にも、見る側にも、新たな気づきをもたらしてくれそうです。(編集部)
 


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