カテゴリー

本サイトについて


TAGS


ABOUT

研究者に聞く、未来の働き方をリードする「ナレッジブローカー」とは?

2025.06.10

オカムラのワークデザイン研究所は、2024年12月に「はたらき方のトレンド2025」を発表しました。その中で2025年を「ナレッジブローカー元年」と位置づけています。ナレッジブローカーとは、所属する組織や部門を超えて知を結びつけ、異なる環境で学びを得る越境学習(※1)を促していく人のこと。ナレッジブローカーが媒介することで、価値に気づいていない技術や知識が発見され、議論が生まれ、新たな気づきにつながります。社会の変化がかつてないスピードで加速する今、ナレッジブローカーにはどんな可能性や意義があるのでしょうか。「はたらき方のトレンド2025」の調査・分析に携わった二人の研究者に話を聞きました。

 

※1:所属する組織や部門の枠を超えて、異なる環境で学びを得ること
2025年4月取材

2025年のトレンド「ナレッジブローカー」とは?

――まずは簡単な自己紹介をお願いします。
 
ワークデザイン研究所 チーフリサーチャー 池田 晃一
ワークデザイン研究所 チーフリサーチャー 池田 晃一
池田 晃一(以下、池田):ワークデザイン研究所(以下、研究所)チーフリサーチャーの池田晃一です。2002年の入社当初から研究所にいます。もともとの専門分野は人間の行動分析で、2012年頃からはテレワークを中心に研究してきました。最近は今回発表したトレンドのような、未来の働き方も研究しています。キャリアの中では、2007年から2010年に国内留学制度を利用して東北大学大学院で学び、2014~2015年には休職して東北大学大学院で広報・コミュニケーション担当の助教を務めました。

――働き方の多様化に伴い、学び直しへの関心は高まっていますね。井熊さんは入社2年目でしたね。
 
ワークデザイン研究所 リサーチセンター 井熊 七央海
ワークデザイン研究所 リサーチセンター 井熊 七央海
井熊 七央海(以下、井熊):はい。2024年入社後、研究所に配属となりました。これまでに、今回の「はたらき方のトレンド」や、オフィスレイアウトに関する基礎データを分析する「オフィスの面積調査」などに関わってきました。学生時代に経営学を専攻し、組織行動について学んでいました。

――「はたらき方のトレンド2025」では、「2025年をナレッジブローカー元年」としています。この理由を教えてください。

井熊: 世の中の変化が加速しており、企業経営にもスピード感が求められています。自分が知らない“知”を取り入れようとしなければ、時代から取り残されるリスクが高まります。また、外から知を取り入れることは、アイデアの着想にもつながるでしょう。なお、「ナレッジブローカー(知識の仲介者)」は、経営学の分野で扱われることが多い概念です。
 
人口減少や人財不足、技術・知識の継承といった課題解決の鍵を握るのがナレッジブローカーだとオカムラでは考える
人口減少や人財不足、技術・知識の継承といった課題解決の鍵を握るのがナレッジブローカーだとオカムラでは考える

池田:トレンド発信は、「どういう言葉でトレンドを表現するか」が大事です。的確な表現でなければ、真のトレンドとして広がりにくい。「ナレッジブローカー」という言葉は、私たちが調査からトレンドとして捉えた現象をうまく言い表していて、聞いたときに自然と入ってきました。研究所には建築を学んだメンバーが多いので、井熊さんが持つ経営学の視点は新鮮でしたね。すでにナレッジブローカー的なことを自然にやっている人はたくさんいますが、多くの人はそれがナレッジブローカーだと認識していません。例えば習い事で自分が楽しいと思うことをしたり、地域の活動に参加したりして、そこで得た知識を会社でも話すことが仕事や人生の役に立つんですよね。もっと意識的に取り組めば、さらに効果が高まるはずです。
 
「もっと『あなたはナレッジブローカーですよ』『すごくいいことをやっています』と伝えていきたい」(池田)
「もっと『あなたはナレッジブローカーですよ』『すごくいいことをやっています』と伝えていきたい」(池田)

――各自がナレッジブローカーとして機能するために、どんな行動が必要でしょうか。

井熊:知識を得た時に自分で留めないようにすることですね。ただ、新入社員はその情報が仕事や組織にどう関連するかわからないことが多いので、「これは業務に直接関係ないだろう」とすぐに決めつけず、会議で積極的に発言したり、いろいろな話に耳を傾けたりする姿勢が必要です。一方で、リーダーの発言が若手に受け入れられていない場合もあるかもしれません。組織全体として、まずは受け入れる空気を醸成することが大切だと思います。

池田:ナレッジブローカーとして情報を共有する際に、守秘義務や機密漏えいを気にする人もいますが、悪意がなければまず問題は起きません。越境学習で得られるメリットは、コンテクスト(文脈)と価値観の共有ですね。例えば、以前参加した長野県での越境学習カンファレンスでは、ワイナリーや農家の方々と対話する中で、品質へのこだわりやPRの工夫など、業種は違っても、ものづくりに共通する視点に気づきました。大事なコンテクストを見極めて、編集する能力は、多くの人と関わる中で自然と身についていきます。今回、オカムラがこのトレンドを発表することも、ナレッジブローカー的な活動の一つ。伝えるだけではなく議論のきっかけになればと考えています。
 

今と未来を見つめる「ワークデザイン研究所」

――お二人が所属するワークデザイン研究所はどのような役割を担う組織でしょうか。

池田:製品の企画・開発や販売促進にも展開できる調査と、トレンドや未来予測を含む幅広い研究の両軸を担っています。組織としては、1980年にオフィス研究所という名称で設立されました。これほど長い間、社内に研究所があることはオカムラの大きな強みです。「虚心坦懐(※2)」や「地に足をつける」という言葉がオカムラには合うと個人的に思っていますが、言い換えれば、自分たちが本当によいと思えるものを提案する精神がオカムラにはあります。研究所では、「本当によい」という確証を得るための実験や検証を、他部門と協力しながら行ってきました。

※2:心にわだかまりがなく、平静に事に望むこと。また、そうしたさま

「研究所では、テレワークも携帯電話やインターネットがない90年代から実験している」(池田)
「研究所では、テレワークも携帯電話やインターネットがない90年代から実験している」(池田)
――今回の「はたらき方のトレンド」の発表は2024年に続き、2回目です。研究を始めた理由はありますか。

池田:これまで最新の働き方についてのトレンドといえば海外、特にアメリカの情報を参照することが多かったのですが、日本にはそのまま当てはまらないことも多かったんですよね。日本でトレンドを発表するなら、長年働き方の研究を続けてきた我々こそがやるべきだろうという声が社内から上がり、私たちも確かにそうだと思いました。

――具体的にはどのような手順でまとめたのですか。

池田:まずは、「交流」「成長」「健康」「効率」の4カテゴリーを設定し、その枠組みの中でトレンドを整理していきました。実際に社会で起きている変化や兆しを捉え、それを「トレンド」として言語化していったんです。既存の言葉では表現しきれない場合はオカムラが造語をつくりました。「ロボッタブル」もその一つです。

井熊:トレンドの種は膨大な調査から拾い上げました。私も参加する研究所の社会動向調査チームが、ニュースや官公庁の白書・統計・予測など国内外のデータを収集。分野も政治・経済・価値観・テクノロジーなど幅広く網羅しました。何人かで同じような方向性の情報を持ち寄ることがあり、そこに新たなトレンドの兆候を見出すことができます。
 
「社会動向調査チームのメンバーとして、さまざまなデータを収集している」(井熊)
「社会動向調査チームのメンバーとして、さまざまなデータを収集している」(井熊)

――トレンドなど研究成果はどのように事業に活かされているのでしょうか。 

池田:研究成果は直接、製品開発などに結びつくものばかりではありませんが、私たちがセミナーなどを通じて外部へ発信したり、興味を持っていただけそうなお客様に紹介したりしています。オカムラのパーパスである「人が活きる社会の実現」を、今の視点で具体的に「あるべき方向性」として示す役割があると考えています。
 

研究者として越境学習をどう実践しているか

――お二人は、ご自身をナレッジブローカーという意識はお持ちですか。
「トレンド予測で経営学という新たな分野の視点を持ち込めたのもいい機会だった」(井熊)
「トレンド予測で経営学という新たな分野の視点を持ち込めたのもいい機会だった」(井熊)
池田:そういえば、検討を始めた当初、井熊さんは「私ナレッジブローカーじゃないかも」と言っていたよね。

井熊:入社したばかりで余裕がなく、特に社外の組織に属していなかったので、「私は違うかも」と感じていたんです。でも必ずしもアクティブに何か活動をしなくてもよかったんですよね。例えば営業の同期との何げない会話で聞いた話を研究所にフィードバックするくらいでもいい。あるいは、外部のセミナーに参加した時に発信を受け取るだけで終わらせず、そこで得た知識を持ち帰って社内で議論のきっかけにするのもナレッジブローカーの役目の一つです。今回のトレンド予測で、経営学という新たな分野の視点を持ち込めたのもいい機会でした。

――周囲にナレッジブローカーだと思う人はいますか。

井熊:池田さんは、まさにナレッジブローカーですね。最近だと海外の展示会などの話は、池田さんの経験や視点が織り込まれているので、ネットで情報収集するのとはまったく違います。私としても単に情報を受け取るだけでなく、「自分ならどうするだろう」と考えるきっかけになっています。

池田:よかったです(笑)。ナレッジブローカーの役割を果たすには、リアルなコミュニケーションは大事だと思います。コロナ禍を経た今、もっと活発にしゃべったり食事したりする機会をつくりたいですね。話す内容は雑談でよくて、その中から何を自分の心に留めるのかが重要。リアルな体験はネットから得る情報よりも自分の中に残りやすいので、そこからコンテクストを抜き出し、編集する習慣をつけるとよいと思います。自分の経験から「サバティカル(※3)」と「リスキリング(※4)」はマストだと思っています。日本の多くの組織は人財の流動性が低いですが、安定性は強みなので、これを担保しつつ、新しいことを始められるように会社が背中を押せるといいですよね。トレンドの一つ「アルムナイ(※5)」も重要なテーマだと思っています。

※3:企業で一定期間勤務した従業員に長期休暇を与える制度。もともとは大学の教員に定期的に与えられる長期休暇
※4:職業能力の再開発、再教育のこと。学び直し
※5:組織をいったん離れた人とつながり続けること


――さまざまなメンバーとの取り組みや共創にあたって意識していることはありますか。

井熊:私は社歴も浅いので、具体的な共創はこれから。まずは社内外のさまざまな場面で、よい関係性を築いていくことが第一歩だと思っています。それから、自分にはまだ建築やデザインの知識が足りないので、それらを学びながら、経営学など自分がすでに持っている知識とどう組み合わせられるかを意識していきたいです。
 
オフィスの本棚には、井熊の推薦図書も。これもナレッジブローカー的な行動
オフィスの本棚には、井熊の推薦図書も。これもナレッジブローカー的な行動

池田:研究所のメンバーは研究業務と並行してさまざまな活動に参加しています。社内なら製品の企画・開発、販売促進、展示会のテーマ設定や、経営戦略にまで関わるような内容もありますね。社外の業界団体や学会にも参加し、論文発表や書籍出版などさまざまなコンテンツを通してオカムラのナレッジの発信もしています。そんな中で、自分たちが「おもしろい」「正しい」と思うことだけでなく、時には活動の方向性を見直したり、ブレーキをかけたりすることもあります。前向きに新しいことに取り組みながらも、長い目で見てオカムラとしての価値観を守る姿勢を大切にしていると思います。
 

働き方の研究最前線と未来への展望

――今課題に感じていることや今後取り組んでいきたいテーマを教えてください。

井熊:まだ仕事で関わる人もそれほど多くないので、まずは人間関係づくりを大切にしていきたいです。聞いたことを積極的に話題に出して、小さな範囲でもナレッジブローカーを実践していきたいですね。最近では、私が担当したオフィス面積調査のデータを使った提案の仕方について営業をはじめ、さまざまな部門の人から相談されることがあり、自分の調査が役立っていると実感できる機会も出てきました。
 
「いずれは、経営とオフィスを掛け合わせた研究にも取り組みたい」(井熊)
「いずれは、経営とオフィスを掛け合わせた研究にも取り組みたい」(井熊)

池田:私はロボットと一緒に働く世界の研究をしたいですね。アメリカでは2050年にはロボットとの協働が当たり前になると話されていますが、そうなった時のオフィス体験や人間の役割について研究したいです。注目しているのはAIです。一緒に働くロボット型のエージェントが登場する未来も遠くないでしょう。しかし、AIは単なる道具ではありません。これまでのツール、例えばインターネットは、ユーザーが何かしない限り何も起こりませんでしたが、AIは自ら考えて動いてしまう。そうなった時に、オリジナリティや人間にしかできない価値は何か、という根本的な問いに向き合う時代になってきています。
 
「ロボットと働く環境が実現する未来は、すぐそこまで来ている」(池田)
「ロボットと働く環境が実現する未来は、すぐそこまで来ている」(池田)

――最後に、オカムラのパーパス「人が活きる社会の実現」への向き合い方を教えてください。

井熊:働く上でも生活していく上でも大事なのは環境だと思います。環境には雰囲気と物理的な要素がありますが、オカムラはおもに物理的な環境を整えることに貢献できると思います。そうした環境整備を通じて、人が活きる社会の土台づくりにつなげていきたいです。

池田:テレワークを導入する企業が増えてきて、子育てや介護など、さまざまなライフステージにある人が柔軟に働けるようになったと思います。「やろうと思えばできるのに、まだやれていない」ことはほかにもあるはずなので、「意外とやってみたら、できるんじゃないかな」と言い続けたいですね。そうすれば、一人ひとりが「今日はいい一日だった」と思える日が増えていくのではないでしょうか。研究所がお客様と一緒につくりたいのは、そんな充実した日々のストーリーです。そのために、「働き方をどう変えていくか」を考えるのが、研究所メンバーの仕事だと思っています。
 
編集後記
すでに多くの人が自然とナレッジブローカー的な役割を果たしているというのは、言われてみると「なるほど」と思いました。小さくてもいいから学びや経験を周囲とシェアし、そこから新たな気づきを生み出していく。その積み重ねが、組織や社会を少しずつ豊かにしていくのでしょう。長年、働く環境の研究を続けてきたオカムラのワークデザイン研究所が、日本独自の視点からトレンドを発信している意義も大きいと感じました。近い将来、どんなふうに働き方が変わっていくのか、想像するとワクワクします。(編集部)
 

OKAMURA 新卒採用情報

TAGS