株式会社オカムラは、経営理念「オカムラウェイ」のもと、「人が活きる社会の実現」を目指しています。そのオカムラウェイをテーマに、さまざまな角度からオカムラがこの先目指す姿を紹介していくのが、本連載「Okamura Way and Beyond」です。
今回は、2021年6月から社外取締役を務める、サッポロホールディングス株式会社 ・名誉顧問 上條 努のインタビューをお届けします。サッポロビール時代から大事にしているお客様との向き合い方から、パーパス「人が活きる社会の実現」への取り組み方まで、これからのオカムラに必要な考え方や視点について聞きました。
企業の取り組みは「誰のため」か、そこを徹底的に考える
――まずは、上條取締役のサッポロビール時代の経験からうかがいます。「黒ラベル」や「ヱビス」など自社ブランドの成長において大事にしてきたことは何でしょうか。上條 努(以下、上條):サッポロビールは、ご存じのとおりBtoC(※1)のメーカーです。メーカーと消費者の間に、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなど流通のお客様はいますが、基本的に商品を手にとってくださる消費者の方を見ています。常に「消費者がブランドをどうご理解くださるか」を念頭にマーケティングに取り組んできました。
マーケティングを理論で語る人もいますが、消費者が何を欲して、何に信頼を置いているか、そこがわからないのにメーカーの都合で一方的に商品を押し付けるのは間違っていると思うのです。
※1:Business to Consumer/Customerの略。企業と消費者の取引
――消費者あってのメーカーである、ということですね。
上條:したがって、会社の机にかじりついて考えているだけではダメです。サッポログループでは、ビール・酒類、飲料水や食品など、幅広く事業を展開しています。それぞれのターゲットとなる消費者を知るには、現場に行かないと話になりません。家計を預かる人がどんなものを買うのか、子どもを持つ人にはどんな商品が選ばれているのか。それらを理解するためには、現場で状況を自分の目で見るのが一番わかりやすい。「仕事ばかりで自分の生活を充実させられていない人は、マーケティング担当に向いていないよ」と言ったこともあるほどです。
――従業員自らが生活者でないといけないわけですね。そうしないと消費者の気持ちがわからない。
上條:そうです。企業にとっての市場とは、自社の従業員が現場と向き合った結果から生まれてくるもの。そのチャンスは、生活の中にあります。だからこそ、現場に足を運んで消費者を知り、自らも生活を通して消費者の立場を理解することが大切なのです。
――BtoCのビジネスにおいて現場主義が重要な点は理解できました。一方、オカムラはBtoB(※2)が主軸ですが、考え方に違いはありますか。
上條:向き合う対象が違うだけで、基本はBtoCもBtoBも同じです。大事なことは、「誰のために」にやっているか。そこを明確に意識すること。サッポロビールが消費者のためにやっているように、オカムラはお客様である企業のために取り組む。「誰のため」の事業なのか、オカムラのこれからを考えても大事な視点ではないでしょうか。
※2:Business to Businessの略。企業間の取引
――「誰のため」を考えるうえで、上條取締役がもっとも大事にしてきたことはどんなことでしょうか。
上條:消費者の期待を裏切らないことです。例えば、ビールの価値として「おいしい」はあたりまえのことなので、敢えてそこだけを言う必要はありません。ですから、「ヱビスビール」は、季節ごとの味とともに楽しんでいただける商品を提案してきました。また、定番の「黒ラベル」も、銀座にフラッグシップビアバー「サッポロ生ビール黒ラベル THE BAR」を出店しました。樽生ビールは注ぎ方次第で味わいが変化します。それを育成した注ぎ手による「完璧な生」を目指してご提供しています。なお、スタンディングのカウンター形式で、一度のご利用で2杯まで限定でのご提供としました。こうした体験自体が「黒ラベル」の新しい価値を発見する機会につながるわけです。
――ビールファンの期待を裏切らない付加価値の提案ですね。メーカーとして、他にどんな取り組みをしていますか。
上條:自社で開発したビールの原料であるホップがあります。当初は特有の香りゆえに、「個性が強すぎるのでは?」という意見もありました。しかし、研究を続けて、現在は「ソラチエース」の名称で新しいビールの味わいをご提供できるまでになりました。実は世界のビールメーカーの中でも、ホップの品種開発を手掛けている会社は珍しいのです。だからこそ、続けたほうがいいと言ってきました。こうしたものづくりの基礎から取り組む姿勢も、ビールファンを裏切らないことにつながると考えています。
――最近は、クラフトビールも人気で、地域ごとにさまざまな醸造所ができていますが、そうした動きはどう思いますか。
上條:ビールファンを大切にして、また増やしていく意味でも、それぞれの地域のクラフトビールメーカーは、競合であるけれど、同時に応援したい存在とも言えます。地域ごとの食材と結びついた、特色あるクラフトビールの登場は、同じビール文化をつくるメーカーとしても歓迎すべきこと。「ビールファンのために」を考えれば、当然のことです。
「人が活きる」は、創業時から継承されているオカムラのエッセンス
――2021年に社外取締役に就任されましたが、客観的にオカムラをどう見ていますか。
上條:私が何よりも「オカムラがいいな」と思っている点は、「人が活きる」というメッセージなんです。言葉自体ができたのは最近ですが、この想い自体は、オカムラで過去からずっと続いてきたものだと思います。
オカムラは技術者が集まって資金を出し合ってつくった会社と聞いています。「協同の工業」という創業の精神にあるように、当時から「対話をいとわない」企業文化があった。いまでも、中村社長を筆頭にオカムラの人は、よく話を聞いてくれます。こうした対話の中から、「人が活きる」というメッセージにつながる想いが育まれたのだと思います。その結果が、いまのオフィス環境、商環境、物流システムなどの多くの事業展開につながっているのではないでしょうか。
――では、社外取締役の立場から、どんなことがオカムラの課題だと感じていますか。
上條:「人が活きる」というメッセージも、オカムラのブランドも、社内外への届け方は少し課題があると感じています。いまは、多様な手段があります。必然的に情報量や媒体が多くなる。さまざまな場からいろいろな表現で情報を発信することが悪いわけではありませんが、従業員にとってはどこを見ればいいのかわからないし、外部の人にとっては埋もれて届いていない可能性もあるかもしれません。ここでも大事なことは、「誰のため」です。誰に何を届けるのか。メッセージやブランドの発信方法も、冒頭に話した消費者を考えることと根底は同じです。
――「誰のため」を考えることは、企業文化の発信にも通じますね。
上條:そういうことです。一貫してオカムラというブランドを発信することは大事。BtoCとBtoBの違いこそあれ、メーカーとしての発想は同じです。例えば、「どういうものづくりをしているか」とか、「誰がどんな風に製品を使っているか」とか。メーカーという同じ業界の視点からも、気づいたことは社外取締役として伝えています。
BtoB企業も、お客様のその先にエンドユーザーが存在しています。つまり、BtoBtoCです。例えば、高い品質と機能を持つオフィス家具を使って仕事をすることで、「仕事が捗って帰宅時間が早くなる」「腰痛が軽減されて健康的に過ごせる」など、そういう価値がオカムラのお客様の先にいるエンドユーザーにとっては大事なのです。目的はそこにあって、デザインだけの評価、機能だけの評価をしてもらうことでは決してないと、私は考えています。
価値創造ストーリーと社会貢献、その実践は「人が活きる」を考えることから
――続いて、昨年(2023年)に策定されたオカムラの「価値創造ストーリー」についてうかがいます。これはオカムラのパーパス「人が活きる社会の実現」に取り組む指針としてつくられたものですが、どんな印象を持ちましたか。
上條:発表された統合報告書に掲載された「価値創造ストーリー」を見て思ったのは、オカムラの目指すべき方向性として、「人が活きる」社会というのが、すべてだということです。この中で表現されているオカムラの取り組みの先にあるものは、ちょっとした気づきから生まれるのではないでしょうか。
オカムラの製品を例に挙げるなら、ポータブルバッテリー「OC」です。持ち運びできるバッテリーですが、使い道にはさまざまな可能性がある。スタートアップ企業などでは、小さなオフィスでコンセントが足りなくても、OCを使って電源にとらわれずに仕事ができると聞いています。オカムラの従業員が以前から「電源が足りなくて不便だ」という声をお客様から聞いたり、自分自身で働くときも困ったりしてきたはず。この気づきから改善策を製品化という形で実行できた、ということが重要です。
――その積み重ねが「社会に役立つ」とも言えると思いますが、企業の社会貢献についてはどうお考えですか。
上條:まず、忘れてはいけないのは、社会貢献だけを目的に企業が存在しているわけではないということです。企業は、利益を追求しない、例えばNPO法人といった組織とは違います。そのうえでオカムラに重視してほしいことは、地域との共生です。ここは一番取り組んでいくべきではないでしょうか。社会貢献というと、環境負荷の軽減といった数値が注目されがちですが、こういったことは、企業として当然対応していくべきものです。
オカムラには多くの生産事業所がありますね。それぞれの地域で働く多くのオカムラグループ従業員がいますし、その地域の人々と共にある、ということを大切にしてほしい。その地域での「人が活きる」状態はどんなことかを考えてほしいのです。地域との共生を通じて、例えば「故郷を大事にする」「子育てに関わる取り組みをする」といった視点をもつことは、「人が活きる社会の実現」のためにも、オカムラにとって意義があると思います。
みなさん自身で働きがいをつくりあげてほしい
――この先のオカムラに必要な考え方・視点についてうかがってきましたが、改めて社外取締役として、オカムラをどう評価しているかお聞かせください。上條:中村社長以下、みんなが現場の声に耳を傾けたり、現場から上がってきた提案を進めたりしている。これはオカムラのすごくよいところですね。それは、好調な業績にも表れています。
――最後に、これからのオカムラを担う世代の従業員、そしてオカムラを自身の働く先として検討する次世代の方々にメッセージをいただけますか。
上條:そうですね。若手の皆さんには、オカムラは負けるわけがないので、自信をもって進んでほしいと思います。前に進んで、お互いを認め合って、先人たちがそうしていたように対話してほしいですね。対話の中から互いの違いを認めることも重要です。「人が活きる」社会をつくりたいと考えるならば、まずは相手を知らないといけないし、それは「誰のため」を考えることにもつながります。
これからオカムラを目指す皆さんに伝えたいメッセージは、「気持ちよく働ける場所を自分でつくってみませんか?」ということ。自分自身も含めた「多様な場で働く、いろいろな人たち」が、それぞれ快適に過ごせる環境とは何かを考え、実現していくことに、オカムラで挑戦してほしいですね。
インタビュー後記
上條取締役は、サッポロビール時代の経験として、「誰のため」を考えるマーケティングの重要性を語ってくれました。そこにあるのは、地に足の着いた現場主義です。商品を手に取ってくれるお客様を知らなければ、メーカーとしてお客様の期待を裏切らないものづくりやマーケティングはできません。それは、上條取締役が言うようにBtoCに限った話ではありません。オカムラにとってもお客様のお客様まで考え抜く姿勢が、「人が活きる社会の実現」のためにも大切になってきます。オフィス環境、商環境、物流システムなど、多岐に渡るオカムラの事業領域の先には、働く人もいれば、エンドユーザーとなる消費者もいます。「人が活きる」に込められた意味を再確認して、「誰のため」に何をなすべきか、私たちも大きなヒントを得たように感じます。(編集部)Profile
上條 努(かみじょう・つとむ)
1954年生まれ、宮城県出身。1976年慶応義塾大学法学部卒業後、サッポロビール株式会社入社。門司工場を振り出しに、入社9年目にサッポロUSA社のサンフランシスコ支店長になり、現在に続く、サッポロビールが米国における日本ブランドNo.1となる礎を築いた。帰国後、経営企画部でサッポログループのCIの徹底、不動産事業サッポロファクトリー(札幌)の再開発事業運営にも参画。1996年以降、サッポロビール飲料株式会社(現・ポッカサッポロF&B株式会社)では、経営戦略本部長、取締役、常務取締役などを歴任。2007年サッポロホールディングス株式会社取締役経営戦略部長、2009年常務取締役、2011年に代表取締役社長兼グループCEO、サッポロ飲料株式会社代表取締役社長に就任。2017年サッポロホールディングス代表取締役会長、2020年特別顧問、2024年に名誉顧問に就任し現在に至る。
この記事で紹介した「価値創造ストーリー」を含む統合報告書は、こちらからダウンロードできます。