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生物多様性を学べる場としてオカムラがビオトープをつくった理由

2023.12.07
「人が活きる社会の実現」を目指す、株式会社オカムラ。ここでいう「人」は、世間一般の人々、顧客、そしてオカムラで働く私たち自身も含みます。このシリーズでは、「人が活きる」組織となっていくための、オカムラの進化や変革にスポットをあてて紹介します。

富士山の麓にあるオカムラの富士事業所では、2022年9月、敷地内のうっそうとした竹林だった場所を、約3000平方メートルのビオトープへと整備しました。ビオトープとは、bio(生命)とtopos(場所)いうギリシャ語からの造語で、さまざまな生きものたちが暮らせる場所を意味します。今後はこの「ビオトープ富士」を学びのフィールドとしても活用していく予定です。ビオトープを整備した背景や想い、地域に貢献する未来について、ビオトープの維持管理をする富士事業所 人事総務課 環境保全担当の金刺泰弘と髙田尋に聞きました。

2023年11月取材

オカムラ 富士事業所とは

静岡県御殿場市にある生産事業所で、3つの製造部門があります。大型量販店を中心とした店舗用什器、快適なオフィス空間を創出するパーティション、自動倉庫をはじめロジスティクスをトータルサポートする物流システム機器の生産を担っています。

 

「地域の動植物に戻ってきてほしい」という想いがきっかけ

――お二人が所属する富士事業所の人事総務課 環境保全担当では、どのような業務を担当しているのでしょうか。
 
金刺泰弘(以下、金刺):富士事業所の生産に欠かせないインフラ設備全般を担っています。工場内で使用する電気の使用量や液化天然ガス(LNG)の発注管理、電源工事、産業廃棄物の管理など多岐にわたります。事業所内で何か困ったことがあれば、まず私たちの部署に相談がきますね。
 

富士事業所 人事総務課 環境保全担当 金刺泰弘
富士事業所 人事総務課 環境保全担当 金刺泰弘

――生産現場を支える縁の下の力持ちのような部署ですね。今回、環境保全担当が「ビオトープ富士」の整備を始めるきっかけはどんなことだったのでしょうか。
 
金刺:事業所内東側の場所が、うっそうとした竹林になっていました。長い間その状態だったので、従業員は私自身含め、あまり気にしていなかったと思います。でも約3年半前にこの部署に異動してきた課長が、国道に面した場所なのに景観がよくないし、誰も立ち入らないという状況を見て、赴任当初から改善したいと思ったそうなんです。
 
髙田尋(以下、髙田):私は2023年4月入社なので、すでにビオトープは完成しており、事業所内にこのように整備された自然環境があることに驚きました。過去の様子は写真でしか知らないのですが、たしかにすごい状態でしたね(笑)。
 
富士事業所 人事総務課 環境保全担当 髙田尋
富士事業所 人事総務課 環境保全担当 髙田尋

金刺:「荒れ果てた状態をどうにかできないか」「エリアを活用して自然環境の改善に貢献できないか」という想いから課長が声をあげ、当時の所属長をはじめ社内各所に相談。サステナビリティ推進部などの協力のもと、プロジェクトがスタートしました。
 
うっそうとしていた竹林が生まれ変わった「ビオトープ富士」
うっそうとしていた竹林が生まれ変わった「ビオトープ富士」

――事業所内の自然環境を改善する方法はいろいろありますが、なぜビオトープだったのでしょうか。
 
金刺:富士事業所がある静岡県御殿場市は、富士山と箱根山麓に囲まれた自然豊かな場所です。事業所横には黄瀬川が流れ、地域固有の野鳥や魚、植物なども生息しています。ただ、道路や宅地の整備にともなって動植物は年々減少傾向にあります。私たちが事業所内を整備することで、限られた空間ではありますが、地域固有の動植物が少しでも戻ってくれたらと考え、ビオトープの整備が決定しました。

――「ビオトープ富士」の整備に際して、考慮した点があればお聞かせください。

金刺:すべての樹木を伐採するのではなく、残せるものはそのままにしています。クヌギやスギのような高い樹木は残しましたし、伐採した竹はチップにして遊歩道に敷き詰めたり、小さな柵をつくったりするのに使っています。また土壌から出てきた富士山の溶岩は、排水処理施設からの外部放流の滝組として利用しています。
 

社内外の知恵や力を結集したビオトープ富士

――「ビオトープ富士」の整備はどのように進めていったのでしょうか。

金刺:富士事業所からビオトープをつくりたいと、サステナビリティ推進部に相談し、日本ビオトープ協会の方にも協力いただくことになりました。日本ビオトープ協会は自然との共生を目指し、ビオトープの建設から維持までトータルサポートをしている団体です。また、オカムラでは以前から自然との共生に向けたアクションを「ACORN(エイコーン)」※と名付け、活動指針に基づき取り組みを推進しています。ビオトープは、そのACORN活動の一環でもあり、そのメンバーにも協力してもらいました。

※:英語で「どんぐり」の意。次の種(しゅ、たね)をつなぐために、なくてはならない存在である「どんぐり」を活動の象徴とした。

――社内外の協力体制があって実現したんですね。

金刺:そうです。日本ビオトープ協会の方やサステナビリティ推進部のメンバーなどと、企画段階から何度も打ち合わせを重ねました。私自身は打ち合わせには参加していないのですが、日本ビオトープ協会からは専門家ならではの視点からアドバイスや提案もあったようです。そばで見ていて、なんて笑いの絶えない楽しそうな打ち合わせなんだろうといつも思っていました。おそらく、全員が熱い想いを持っていたからでしょうね。
 

「ビオトープは企画に携わったすべての人が楽しみながらつくりあげた」(金刺)
「ビオトープは企画に携わったすべての人が楽しみながらつくりあげた」(金刺)


――ビオトープ整備にあたり、苦労したことや印象に残っていることはありますか。
 
金刺:竹の根が思った以上にはりめぐらされていて、伐採も苦労しましたが、処分も大変でした。普段工場からは出ない廃棄物なので、処理業者を調べるところからはじめ、トラックに5回くらい竹の根を積んで運び出しました。印象に残っているのは、野鳥繁殖の手助けを目的に木に環境保全担当のメンバー手づくりの巣箱を設置したところ、9か所のうち1か所に鳥が入って卵を産み、ふ化した形跡があったことです。残念ながら様子は見られませんでしたが、感動しましたね。環境保全担当の全員で喜びました。
 

「巣箱も“環境保全担当のエキスパート”と呼ばれているメンバーの手づくり」(金刺)
「巣箱も“環境保全担当のエキスパート”と呼ばれているメンバーの手づくり」(金刺)


――ビオトープの整備は環境保全担当の活動にどんなふうにプラスになりましたか?
 
金刺:いままでなかったものを創出することはとても難しく、労力が必要ですが、その分、完成したときの喜びはひとしおです。大事なのは「こういうことをしたい」「こういうものをつくりたい」という理想や強い気持ちだと思います。これは環境保全担当の業務に置き換えても同様で、既存の設備を保守するだけでなく、新たな発想でいまよりもよくしようという姿勢を大切にしたいですね。たとえば、電気工事一つにしても、ただ頼まれた場所にコンセントを付けるのではなく、現場での作業をもっとスムーズにできる場所を考えたいと思っています。私は長らく生産現場にいたので、いまはスタッフ業務を担当していますが、両方の視点を大事にしたいです。
 
髙田:私はいま事業所の繁忙期のため応援として一時的に生産現場にいるのですが、環境保全担当に戻ってからも現場での経験を活かしたいですね。環境保全担当に配属されたときは、ビオトープの維持管理のような業務があることは想像していませんでしたが、自然が好きなので楽しいですし、仕事のモチベーションにもつながっています。
 

「子どもの頃から、タケノコ掘りや山登りなど自然に触れるのは好きだった」(髙田)
「子どもの頃から、タケノコ掘りや山登りなど自然に触れるのは好きだった」(髙田)

ビオトープの整備で目指す地域環境への貢献

――ビオトープ完成後は、どのように維持管理に取り組んでますか。
 
金刺:障がい者福祉施設のみなさんに協力いただき、週3回草取りを実施しています。放っておくとすぐ荒れてしまうんですよ。ただ、今回新しく植えた草もあるので、「在来種は抜かずに、外来種だけ抜いてください」とお願いをしています。また、日本ビオトープ協会に所属している造園業者の方に月1回、問題なくビオトープが維持されているかを確認しに来てもらっています。
 

自然を活かしながら定期的な手入れでビオトープを維持している
自然を活かしながら定期的な手入れでビオトープを維持している


――「ビオトープ富士」は、富士事業所周辺の環境に対してどんな貢献ができるとお考えですか。
 
髙田:日本野鳥の会に定期的な野鳥・植物調査をしてもらっているのですが、会の方によると、箱根あたりから飛んできた渡り鳥が西へ飛んでいくときに、ビオトープが位置的にちょうどいい休憩地点になっているそうです。冬の時期にはジョウビタキやオオカワラヒワなどの渡り鳥が飛来しているそうです。さまざまな野鳥が飛来して植物の種が運ばれると、ビオトープ内の在来植物も以前より多く見られるようになり、地域の生物多様性につながっていきます。まだ完成から一年なので、今後ビオトープがどう進化していくか楽しみです。
 

ビオトープには季節を通してさまざまな野鳥がやってくる
ビオトープには季節を通してさまざまな野鳥がやってくる


――ビオトープの完成後、従業員や関係者からどんな反応がありましたか。
 
金刺:かなり大がかりな工事でしたから、整備段階から「何をつくっているのだろう?」と、従業員にも地域住民の方々にも興味を持ってもらえたようです。ただ、いまはまだ従業員の「みんなの憩いの場」とまでにはなっていません。業務があるのでなかなか難しいと思いますが、気軽に足を運んでもらえたらうれしいですね。このビオトープは「従業員や地域住民と共に環境活動の場、環境教育の場、憩いの場を提供している」と評価され、日本ビオトープ協会が主催する第15回ビオトープ顕彰でCSR特別賞と地域貢献賞も受賞しているんですよ。
 
髙田:疲れたとき、自然の中で5分、10分休むだけでも、いい気分転換になりますよ。実際、私も気分が落ち込んだときにビオトープへ行って癒やされたことがあります(笑)。ビオトープにもっと興味を持ってもらうために各種情報を事業所内のネットワークで共有しているのですが、生産拠点では全員がパソコンを使っているわけではないので、今後は情報発信の方法も工夫していきたいです。
 
――現在までのビオトープを活用した取り組みについてお聞かせください。
 
金刺:ビオトープの完成前に、労働組合と共同でビオトープの植樹祭を実施しました。また、2023年7月には労働組合主催の納涼祭で催しの一つとしてビオトープの散策や野鳥・植物の観察を実施し、従業員とそのご家族が参加しました。
 

労働組合と共同で実施したビオトープ植樹祭
労働組合と共同で実施したビオトープ植樹祭


髙田:納涼祭では、ビオトープ生まれのカブトムシを子どもたちにプレゼントしました。ただ、昼間のイベントなのでその場でパッと捕まえるのも難しいだろうし、タイミングによってはすでに飛んでいってしまって、当日はいないかもしれない…… と考え、事前に捕まえて2~3週間、私が飼育して準備しました(笑)。生きものを飼ったのも初めてだったのですが、育て方を調べながら20匹以上を育てましたね。当日は子どもたちの喜ぶ顔を見られてうれしかったです。
 


金刺:納涼祭でのビオトープ散策は2回にわけて行ったところ、約50人が参加して盛況でした。野鳥の観察は、日本野鳥の会の方に実施していただきました。鳥は鳴き声が聞こえても姿を見つけるのはなかなか大変なのですが、日本野鳥の会のみなさんはすぐに見つけてササッと観察用の望遠鏡と三脚をセットして見せてくれたり、どんな鳥なのか説明してくれたりする。まさにプロでしたね。カラスやスズメのような身近な鳥も望遠鏡で見ると、とてもきれいなんですよ。参加したみなさんも感動していました。
 

「季節によって鳥も植物も違うので時期を変えてまたイベントを実施したい」(金刺)
「季節によって鳥も植物も違うので時期を変えてまたイベントを実施したい」(金刺)

――こうした取り組みを通して、地域社会にどんな貢献をしていきたいとお考えですか。
 
髙田:将来的には工場見学とともにビオトープに子どもたちを招いて、自然体験教室を実施してみたいと考えています。小川に葉っぱの船を流したり、草笛をつくったり、遊びもいろいろできそうです。できれば夜のイベントもやってみたいです。昼と夜だと生きものの様子も変わりますし、満天の星を眺めるのもいい経験になるのではないでしょうか。

金刺:オカムラで初めてのビオトープなので、富士事業所のシンボルになればいいなと思っています。社内で富士事業所が話題にのぼったら、「富士と言えばビオトープがあるよね」とセットで思い出してもらえるようになるといいですね。
 
ビオトープの目玉の一つは池。地域の魚(ハヤなど)が生息している
ビオトープの目玉の一つは池。地域の魚(ハヤなど)が生息している

――「ピオトープ富士」のプロジェクトは、「人が活きる」社会を目指すオカムラにとって、どんな役割を果たすとお考えでしょうか
 
髙田:富士事業所とビオトープを訪問した子どもたちが何かを学び、将来社会でその経験を活かしていくこともあると思います。そう考えると、広い意味で「人が活きる」社会に貢献できているのかなと思いますね。
 
金刺:このビオトープは制作段階からいろいろな人の力を借りて実現しました。多くの人と大きな目標に向かって同じ方向を向いて進めば難しいことでも実現できると体感できたプロジェクトでした。見方を変えれば、互いに協力し合わなければ実現できなかったでしょう。これからも「人が活きる」環境という視点を意識しながら、ビオトープを進化させていきたいと思います。
 
インタビュー後記

「ビオトープ富士」を実際に歩いてみると、フカフカの“竹”チップが気持ちよく、見上げれば高い木々の葉がそよぎ、鳥の声が響きます。多くの人の想いと協力から完成したビオトープ。これからも適切な維持管理を続け、従業員や地域の人たちに活用してもらうには、多くの人との協力し合うことが不可欠でしょう。また金刺も髙田も、生産現場とスタッフ、両方の仕事を経験したことで、それぞれの業務に反映できる気づきも増えたとのこと。その視点は今後のビオトープの進化にもきっと活きてくるだろうと感じました。(編集部)
 

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